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しおりを挟む城の中を人間が走ってるってだけで普通は捕まえられそうなもんだろ?でも今は俺に構う暇なんて無さそうなぐらい腰に剣をぶら下げた人達が慌ただしく走っている。
なんだなんだー?すれ違う獣人達の顔から異常なまでの焦りが窺える。近くで魔物が出たとか?大陸が違えば魔物の強さも変わるのかもな…。少し様子を知りたくて柱の影に隠れて獣人達の会話を盗み聞きする。
「急げ!!これ以上犠牲を出さない為に!!」
「全くなんて事をしてくれたんだッ…!!」
「フレイ様の暴走を止めないと…」
フレイだと?!あっ、名前聞いただけでイライラしてきた。ぶん殴りたいと思っていた所だ。なんて絶妙なタイミング!!
「待ってくれ!!俺も一緒に連れて行ってくれ」
柱から飛びだし、獣人達と一緒に並走しながらお願いしてみる。闇雲に走って探すよりも拘束されてでもフレイに会えた方が効率が良い。
「なっ、えっ、人間…?」
動揺する獣人達には悪いが俺は急いでるんだ!!この怒りの熱が冷めないうちにフレイに会いたい!!
「その首飾りはッ!!」
「ああぁぁぁぁあ──────ッ!!」
いきなり立ち止まった獣人達の声が重なり、俺の首元を指さす。加えて次第に引き攣っていく顔。えっ?俺の首輪が何か…。予想していた反応と違うせいか、俺も上手く対応出来ず狼狽えてしまう。
「失礼しますッ!!」
一人の獣人がそう言って俺を肩に担いだ。急に高くなった視界。そして猛スピードで疾走し出した。目まぐるしく変わる視界と振動。浮いているような感覚さえ覚える。ヤバイ…絶叫マシーンさながらだ。
「フレイ様!!」
獣人達の声にようやくゴールに着いたことを確信する。辿り着いた場所に確かにフレイは居た。だが、状況が把握出来ない。なんだこの光景は…。さっきまでアップダウンの激しいアトラクションに乗っていた俺の胃はグロッキー状態だ。そこにトドメとばかりの鉛の臭い…。
「ヴォエッ…無理…」
胃から込み上げる物を我慢できずに嘔吐してしまう。何度も喉に込み上げてきてはそれを押し留める。フレイお前…何してるんだよ…。
「ユノ…あぁ…ユノ…俺の愛しいユノ…。ごめんね。俺がそばから離れたばっかりに…怖かったね。会いたかったユノ…」
グチャグチャ
フレイが何かを踏み潰しながら此方に向かって歩いてくる。俺は水溜まりの中に転がり光っている物を口を押さえながら目を細め凝視していた。あの首輪って…少年Aが嵌めていたやつじゃないか?どす黒く変色しているが…確かにデザインが似ている。確かめたい気もするが、如何せん部屋の外に居るのにこの臭いだ…。中に入ったら嘔吐く。間違いなく胃が空っぽになるぐらい吐く。
「ユノ…」
声をかけられ目の前まで迫ったフレイに我に返り顔を見上げる。俺のほっぺを両手で挟むようにし、愛おしそうに俺を見ているが…くっさ…気持ち悪い…鉄の臭いが鼻を突く。まだ乾いていない血が服から滴り落ちている。ダメだ。一発殴るどころではない。むせ返る様な血の匂いに意識が遠のいていく。色々と聞きたいのに…!!起きたらな!!起きたら覚悟しとけー!!そうして目の前が真っ暗になった。
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