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⑶
しおりを挟む宿屋に帰るとフレイの姿はなかった。どこ行ったんだよ~獣人ってバレても知らないからな!!もう一度、手元の依頼書を見る。打ち合わせしたいんだっけ?ついでに、連れが居ると説明しよう。フレイに置き手紙をして宿屋を後にした。
ついてない…だから面倒事は嫌なんだ。やっぱり関わるんじゃなかった…。
俺は今、横たわり知らない大男二人に手足を拘束されている。見た事もない首輪を嵌められて。そして腹の上にもう一人の大男…。どうしてこんな事に…。
依頼書に書かれた指定場所は港近くの古びた建物。俺指名の依頼で違和感に気づくべきだった…。何故、俺がオルペに来る事を知っていたのか。何故、俺なのか。ケレス大陸に行ける事ですっかり舞い上がってしまった。いつもならこんな姑息な手には引っかからないのに…。おまけに目の前に居るカノン…。建物に入り、居るはずのないカノンに驚き一瞬判断が遅れた。結果、無様にも男達に捕まった。
「やっと会えたねユノ?探したよ?お前のせいでッ!!お前のせいでー!!」
髪の毛を強く引っ張られ、強制的にカノンの方に顔を向かされる。
「お前のせいで学園を追放された!!アレクには身の程を弁えろと、誰がお前なんか選ぶかと罵られた!家にも見放され一人になった…小説とストーリーが全然違う。お前が僕をイジメなかったせいだ!!」
カノンの悔しそうな顔が目に入る。
「だけど、僕にはまだ幸せになれる方法があった。獣人国との戦争だよ。お忍びで来ていた獣人国の王弟がこの国で殺されるの。それを知った獣人国の王が怒り攻めてくるんだよ?そして、戦争を停戦に、導くのが僕!!獣人国に人質として行くの。僕の国とアレクを愛する心に打たれる。そして共に過ごすうちに僕を好きになってしまう。アレクが無理なら、獣人の王に!!と思ったのに…ユノ!!またお前だよ!!どこまで僕の邪魔をするんだ!!」
俺…?俺は別に何も…
「わからないって顔してるね?森で獣人を助けなかった?」
獣人…フレイの事?
「お忍びで来ていた王弟フレイは獣人狩りにあい、隷属の首輪を、腕に嵌められてしまう。しかし、首輪が効果を発動する前に自分の腕を引きちぎる。そのまま森の中に逃げ、結局は出血多量で亡くなる。これが発端で戦争が起こるはずだった…お前が…お前が助けたりするからァァァ──────!!」
えっ…そんな話あったの?そーいや…俺、自分の断罪までしか小説内容覚えてないわ…。
カノンが俺の掴んでいた髪を離し、距離を取る。
「元々は慰みものになり死ぬんだ。小説はストーリー通りに進まないとね?残念だけど魔法は使えないよ?」
カノンが自分の首元をトントンと叩き、俺の首輪の説明をする。それを合図に上に跨る男が、俺の服をビリビリと勢いよく剥ぐ。
「話は済んだか?!堪んねぇなー!!こんな上玉!!俺たちはついてる!可愛がった後は、いっぱい稼ごうな?ぐははははっ」
男の舌先が俺の胸に触れる。ザラりとした感覚に鳥肌がたつ。気持ち悪い…。男の手がもう片方の胸をまさぐる。あぁ…ほんとについてないな…。せっかく断罪イベントを回避したのに…これが小説の強制力か?俺が今まで頑張ってきた事ってなんだったんだろう…。腕を拘束している男に鼻を掴まれ、強制的に口を開けさせられ、男の赤黒いモノをぼんやりと眺める。体から力が抜ける…もういいや…
ドォーン!!!!!!
建物ごと壊れるんじゃないか?と思うほどの音がした。と同時に体の圧迫感が無くなる。俺に跨っていた男が居ない…。代わりにベッドの周りは粉砕された肉片、壁には大きな赤い染みが出来ていた。えっ?!入口に目を向ける。フッ、フレイ…?そこから俺にはフレイの動きが目に追えなかった。理解出来るのは、俺は自由になれた事。カノンが床にへにゃりと座り込んでいる事ぐらい。
「ユノ。探したよー!!こんな場所に隠れていたなんてー!!」
いつも通りギュウギュウ俺を抱きしめるフレイ。違うのはどす黒い色に染まった服、そして鉛の匂いがする事。
怖かった…。全てが怖かった…今までの努力が無駄になる事、男達にまわされる事、フレイに会えなくなる事、そして…もう逃げ回る事を止めて楽になりたいと思う自分の心が怖かった…。
「置き手紙してきただろ…?」
いつもならしないが、フレイの体に手を回し、温もりを直に感じる。安心する…。まだ一緒に居れる。
「心配したよー」
ごめんと素直に謝る。
「宿屋に戻ろー!!色んな匂いがついて気持ち悪い」
俺の手を繋ぎ、入口に足を進めるフレイ。カノンの横を通り過ぎようとした時、ドカッ!!フレイが足蹴りした。カノンが吹っ飛ぶ。ピクリとも動いていない…死んだのか…?
「大丈夫だよー?殺してない」
フレイが笑顔で教えてくれる。えっ…なんかキャラ変わってないですか?!怖いんですけど…
「ほんとに余計な事する奴…」
「えっ?」
「なんでもなーい!帰ろー!!」
宿屋に着くまでフレイは一言も話さなかった。無言が怖い…。何か話さないと…でも何を?結局、部屋の中に入るまで会話はなかった。
「フレイ。ほんとにゴメン…」
「ほんとだよ~」
フレイはため息混じりに言葉を吐き出し、俺の体をヒョイと持ち上げた。
「えっ、何…?」
そして、ドンッ!!っと俺を風呂場に投げつけた。
「俺以外の雄の匂いがする」
「おっ、おす…?」
フレイが見たことも無い冷たい目で俺を見下ろしていた。
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