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しおりを挟む「おい!!真広ー。最近どうよ?例の隣人さんは」
気さくに声を掛けてくるのは、バイト仲間でもあり同じ大学の1回生でもある佐久間だ。こいつは俺と違いエンジョイ組だ。サークルにも属し、合コンにもバイト先であるこのカフェバーをよく利用している。昼間はカフェとして、夜からはバーになるちょっと小洒落たお店だ。佐久間の目標は卒業までに100人の女の子と連絡先を交換する事らしい。こいつならば達成出来そうだ。顔が良いし愛想も良いからな。
「相変わらず…今日も朝から絶好調だったよ」
「すげぇーな!今日さお前の家行ってもいいか?!1回俺も体験してみたいんだよー!なっ?なっ?!頼むよー!!この通りッ」
「お前の魂胆なんて見え見えだ」
「いやーさすが優等生真広君!!だってこんな面白そうなネタないだろ?!絶対合コンでウケる!!」
はぁー。こいつは言い出したら聞かないからな…。とかいう俺も佐久間が一緒なら壁ドンにビクついて眠りに入る事もないし…お互いのウィン・ウィンの関係だな。
「俺がバイト上がるまで待ってろよー」
「真広君!!愛してるわー!!」
調子の良い奴め。でも、こういう所が皆に好かれているんだろうな…。今日は朝の仕込みから夜の8時までバイトだ。俺が休日に長時間バイトを入れているのは勿論お金の為だが、このバイト先、なんと賄いが出るのだ。貧乏学生の俺には何とも有難い!!2食分のお金が浮くと、その分を他の日用品購入に回せる。本当良いバイト先だよ。
バーに来た常連客と、ブロック氷の代わりに、かき氷にお酒を注ぐと美味しいらしい、などたわいもない会話をしながら手を動かしていると、時計はバイトが終わる時間を少し過ぎた頃だった。
「店長ー。俺、上がりますね。さっきの話、お金に余裕が出来たらかき氷機買って試してみようと思います!お疲れ様でした!!」
更衣室で着替えながら先程のかき氷機の話を思い出す。何もお酒じゃなくとも、普通にシロップ買ったらアイス代浮くよな…。氷も水だし…。何を隠そう俺は甘党男子だ。暑い夏の日にアイスだって爆食いしたいのを我慢して100円で10本入の安いチューペットで我慢している…。本当はチューペットだって1日1本じゃなくて何本も食べたい…。だが、かき氷機を買えば悩みは解決するのでは…。冬でもかき氷が食べれるぞ!!4千円する電動かき氷機…先行投資と思えば…。むぅー…。
「…ぃ!!おぃ!!真広ッ!!」
「んぁぁ?!えっ…あぁ…なんだ佐久間か…」
「いやいやいや!!ずっと呼んでたんですけど!!はぁ…お前バイトのし過ぎじゃねえの?早く行こうぜ!」
余程楽しみになのか、はしゃぐ佐久間はぐいぐいと俺の腕を引っ張り歩いていく。だが、そんな時に限って隣人は不在なようで…
「せっかく来てやったのにさー。ないわー!!何で居ないんだよ!!はぁ、俺、明日一限からだから寝るわ。真広!!ちゃんと起こしてくれよー!!」
この厚かましい友人は堂々と俺のベッドを占領し寝る体勢に入った。この狭いベッドで2人で寝る?まさか!!俺はクローゼットから寝袋をとりだし、いそいそと潜り込んだ。なんか…たまには寝袋で寝るものいいかもしれない…。新たな発見に少し胸をときめかせて眠りについた。
ピピピッ…
スマホのアラームを止め眠たい目を擦りながら、のろのろと寝袋から這い出す。佐久間め…気持ち良さそうに寝やがって!!俺が昨日どんだけお前のいびきで苦しめられたと思ってるんだ!!
「おいッ!!佐久間!!朝だぞ!!」
ゲシッ
「ぐへっ」
睡眠妨害のお礼とばかりに布団を剥ぎ取り足蹴りを食らわせてやった。朝ごはんは食べないと言うので、仕方なしに手作りおにぎりを持たせてやる。俺はお前のお母さんか!!
「じゃぁな!!」
「おう」
慌ただしく出て行く佐久間をドアの外まで送ってやった。あいつは朝から騒がしい奴だな。姿が見えなくなり、部屋に戻ろうとした時、ガチャっと隣のドアが開き、隣人さんとバッチリ目が合ってしまった。えっ…ヤグザさん居たんだ…。夜中に帰って来たとか…?
「あっ、えっーと、おはようございます?」
「おい!!今の奴…」
今の奴?佐久間の事?えっ、もしかして…壁際で寝てたからいびき煩かった?!確かにあの大きさだと聞こえていても可笑しくはない…。ヤバイヤバイヤバイ…。俺だけならまだしもヤクザさんまで睡眠不足に?!
「すみません!!煩かったですか?!聞こえてました?!」
「あ゙ぁ?!何が聞こえたってぇ?!聞こえちゃ不味い事でもしてたのかよ?! あ゙ぁ?!」
何故か朝から心臓に悪い程難癖をつけられています…。何が気に障ったのやら…。この場をどう切り抜ければいいのか…。
拝啓お母様、俺の隣人は朝からヒートアップしています。
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