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しおりを挟む今日のお天気はあいにくの雨です。土砂降りです。日本だと警報が出ている事でしょう。俺の心の中も土砂降りの雨が降っております。いや嵐かもしれん。この世界に来てこんなに雨が降ったの初めてだなー。
雨のせいなのか、ガイのせいなのか、朝から全く何もやる気が起きん。午後からの勉強もしたくない。だからヘラがいない隙に部屋から逃げ出した。いつも外に逃げていたから、城内ではあまり良い隠れ場所が思い浮かばない。
自然と足が向かうのは…通い慣れたガイの部屋だった。昨日、失恋したばかりなのに何と女々しいんだ俺は…。ドアノブに手をかけては躊躇い離す。何度も繰り返してると後ろから声がした。
「やぁ、シオン君じゃないか。今日はガイはいないよ?」
「うぇッ?!」
思いがけない相手の登場にたじろぐ俺。何でよりによってこいつが居るんだよ。学園に通ってないのか?!
「思わず姿を見掛けたから声をかけちゃったよ。どう?中でお茶でも」
お前の部屋じゃないだろ…。主はガイだぞ。なんか…ムカつく。体を反らし壁方に顔を向けた。
「嫌われちゃったかな?僕は仲良くなりたいんだけどね…お兄ちゃんになるんだし…ゆっくり中でお話しようか」
穏やか話し方。ジルは綺麗なお兄さんの上に優しい性格だ。ガイはこういう人がタイプだったのかな…。こんな冷たい態度を取っている俺との距離を縮めようとしてくれている。俺も歩み寄るべきなんだろう…。
「勉強があるから、少しだけなら…」
未だ、俯き加減で視線を逸らす俺の手を取り、部屋の中に連れていってくれた。慣れた手つきでお茶を入れるジルの後ろ姿をぼんやりと眺める。前はガイが入れてくれたんだっけ…可愛かったよなぁ。
「どうぞ。ハーブティだよ。安らぎの効果があるんだ」
「ありがとッ…」
チビチビとお茶を飲みながら、ぎこちないなりに会話をする。自然な会話が出来ない。ガイとの会話とは大違いだ。やっぱり俺の気持ちの問題なのかな…。ジルは俺がガイのこと好きだって知らない訳だし…。相変わらず微笑み続けるジルにほんの少しだけ申し訳ない気持ちが湧いてきた。
「少し落ち着いたかい?」
「うん…なんか、俺…ごめん」
「いいんだよ。全然気にしてない。それより体は大丈夫かい?」
「体…?うん。なんかちょっと熱いかも?」
質問の意図が分からず首を傾げる。もしかして俺、顔色悪かった?ジルってめっちゃ気遣いも出来るんだな…第一王子の婚約者ってだけの事はあるわ。
「そっかー。もっと入れたら良かったなー」
「えっ…入れる?」
自分が先程まで口にしていたティーカップに視線を落とす。とんでもなく嫌な予感がする…こいつ…俺に毒とか変な薬を盛ったんじゃないだろうな?!自分の考えが当たってそうな気がして、勢いよくソファから立った。しかし、ふらつきソファに再び座り直してしまう。体が何かおかしい。これは…間違いない…。咎めるような視線で問う。
「お前…ッ!!俺になんか薬を盛ったな?!」
「あっははは!!大正解。シオン君は賢いね。獣人用の媚薬をちょっとね…」
先程までの微笑み王子はなりを潜め、俺の目の前のジルは口元を歪めて笑っている。後ずさりする俺の上にまたがり、ジルは腹が減った獣のように唇をペロリと舐めた。この後の何をされるかなんてエロい事大好きな俺には余裕で分かってしまう。
薬盛られて犯されるなんて小説とかゲームの中だけだと思ってたよ。おっ、そーいや俺はゲームの中にいたんだった…。ちくしょー!!なんで俺ばっかりこんな目に合うんだよ。しかも、ゲームに登場してないキャラにばっかり…。
まさか俺が不幸にならないとダメとでも言うのか?これがゲームの強制力?!だとしたら…俺は常に誰かに狙われるって事じゃ…。恐ろしい考えを消すようにブンブン頭を振る。
「どけよ!!お前ガイの婚約者候補なんだろッ」
「はっ、誰があんな獣と…。全く乗り気じゃなかったんだけどね。シオン君の事を知って承諾したのさ。本当に綺麗だよ…」
「俺に手を出してみろ。ガイにチクってやるからな!!」
「ぐっ、あははッ!!ガイは僕の言う事と、君の言う事、どちらをを信じるかな?」
ジルは勝ち誇った顔で言った。それほどまでにガイに信用されている自信があるのだろう。確かに俺に対しての信用度は低いかもしれない、悔しさで唇をかみ締めた。
「昨日の辛そうな顔…可愛かったよ。もっと涙でぐちゃぐちゃになって、許してと懇願する顔はもっと可愛いんだろうね」
胸の上を這いずり回っていた手が、俺のシャツを捲りあげ、乳首をきゅうと痛いほど抓られた。突然の痛みを伴う刺激に顔が歪む俺に、その顔ゾクゾクしちゃうよとジルは興奮気味に呟いた。
「いっ…てぇッ…触んなッ!!」
獣人に俺の足蹴りなんぞ通用しないと分かっているが、抵抗しないよりマシと足蹴りしようとした時、パンッ!!と頬を打たれた。
呆然のジルを見つめる。こいつ俺の綺麗な顔を叩きやがった…オヤジにも打たれたことないのにー!!ってかマジ手を上げるとか最低かよ。足蹴りしようとした俺が言えたことじゃないけど。
「あぁ、その顔、堪んないよ」
なんと危ない発言なのだろう。俺はエロい事が好きだがアブノーマルは苦手だ。間違いなくこいつはサディスト。あのエロおやじはマゾっぽかったけど…普通のやつはおらんのか!!くっそ、この手のタイプには逆らったらお終いだからな…。
「弟になったら毎日たっぷり可愛がってあげるからね…今から楽しみでしょうがないよ」
乳首がちぎれるんじゃないかと思うほど引っ張られ、ズボンに手をかけられた時、扉が開く音がした。
突然のガイの登場に驚き目を見開く俺。ガイも同様にこちらを目を見開き見ていた。が、直ぐにその目つきは鋭いものに変わった。
俺から勢いよくおり、ガイの方に歩いていくジルは辛そうな声を出し言った。
「ガイ…ゴメンね。シオン君に誘われて…必死に断ったんだけど…俺は第二王子だぞって脅されて
…」
悲しそうな表情でガイに寄り添う。あぁ、これで俺は悪者決定だ。今からジルを慰め、俺の処分を考えるのだろう。服の乱れも直さぬまま、俺はガイの横を走ってすり抜け逃げた。
外はすっかり雨がやみ、雲の隙間から光が差し込んでいた。まだ止んで間もないのだろう、たっぷりと水気を含んだ草の上を歩く。目的地なんてない、城から離れられたらいい。
少しでも遠くへ、誰にも見つからない場所へ。そうして歩いていると大きな木に辿り着いた。木の下に空洞が出来ており、人間の俺1人ぐらいなら入る事が出来る大きさだった。
お山座り落ち着くな…。腕に顔を伏せるともっと落ち着く。ふぅ、なんか息苦しい…。これも媚薬のせいか…。少量しか飲んでないから効きが薄いのかも。今頃、城は大騒ぎしているだろうか…。この世界…本当に俺にとって生きづらいよな。幸せになれない呪いでもかかってんのか…。
「シオン様…お探し致しましたよ」
「…」
何故この優秀な従者は俺を見つけてしまうのだろう。その優秀さが今は憎い。
「シオン様?お城に戻りましょう」
俺は差し伸べられた手をパシンッと払い除けた。ヘラがどんな顔をしているかは見えない。でも、俺と一緒に城に戻ったらお前までどんな目で見られるか…。それだけが心配だった。俺はいいんだ…元々悪役なんだし、死ぬ予定だったから…。いや、死にたくないけどね。
ヘラはダメだ。お前は優秀なんだ。俺のせいで評価を下げてはいけない。ヘラは優しいから、俺を突き放すことなんて出来ないだろう?だから、俺が代わりに突き放してやるよ。
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