28 / 41
俺、体験する
しおりを挟む麗夜たちと戦った公園、家族の思い出があった公園。
そこから作戦は始まった。
「僕の能力で遠くから見守るってことでいいんだよね」
「あぁ、マリーの奴には傷ついてるフリをしてもらう事になってる」
事前に幹部達へと正確な場所を伝え、数十分が経過していた。
亮人たちの影から無線機代わりのマリーのコウモリが顔を出し、周りの様子を伺っていた。
深夜の東京。
公園の修理は追いつかず、遊具は壊れたままの状態。
公園を照らすのは月夜の光だけ。
物陰に隠れるようにマリーは蹲っているような素振りを続ける。
空を見上げる亮人は小さく息を吐く。
白く靄が掛かるように飛んでいく白い息は次第に霧散し、消えていく。
体に羽織っているコートは皮膚を刺すような冷たい空気から身を守る。
袖から出る手へと伸ばされた礼火の小さな手に自然と握られる。
「寒いね……」
「そうだね」
見上げた空、その光景はこれから戦うとは思えない程に綺麗なものだった。
『これから戦うと思うと緊張するわね』
『シャーリーもドキドキしてきたよ』
「みんなで帰るからね」
「『『うん』』」
四人で空を見上げている、静かな時間は終わる。
「来たっ!!」
守護の視線の先、建物の屋上を駆けるように黒いマントの三人組がマリーのいる公園へと飛んでいく。
「俺らの出番はまだ後だ……今はマリーを信じて、後をつけるぞ」
亮人ら五人は麗夜の後についていく。
黒いマントの三人組が向かっていく方向へ。
♂ × ?
『お父様……必ず助けますわ』
静寂の中で口にする言葉は暖かくも、一瞬にして消え去る。
深夜の寒空の下、数十分の中で考え、思い出していた過去。
初めは残酷で哀しむしかなかった記憶。誰も信じられなかった十年間は心が常に冷たいような感覚があった。
城から投げ出された時の父親の表情。優しく微笑みかけた姿を鮮明に思い出すと目尻から一滴に涙が頬を伝っていく。
大きく呼吸を吸い、大粒の涙を拭うマリーは亮人たちが待機している方向へと視線を向ける。ただ、振り向いた時の表情は悲しげなものではなく、力強く不安を感じさせないものに変化していた。
『今日で終わらせますわ……』
胸の前で握り込まれる拳から流れる血は地面を濡らす。
「来たっ!!」
耳元から聞こえる守護の言葉に顔を上げる。
『やっと来ましたわね…………』
手のひらから滴る血は一瞬にして止まり、傷も瞬時に治る。
『お父様を返してもらいますわ……』
街灯もない公園の中、マリーの足元に広がる闇は形を持つように揺らめく。
足を引きずるような動作をしながら、歩く度に地面の影は水面のように波紋を広げていく。
物音が一切しない公園の中、それは唐突に始まる。
一瞬にしてマリーの横に現れた巨漢の男はマリーへ一振りの拳を入れた。
『ガッハっ!!』
予想以上の衝撃と共にマリーの体は地面を数回バウンドし、壁へとヒビを入れるほどに衝突する。
連続するように一瞬にして距離を詰めてくる巨漢は再び、マリーの顔面へと拳を叩き込む。
恐ろしい程の速度と威力に辛うじて避けたマリーは自分の影の中へと逃げ込み、一度距離を離した。
視線の先、マリーがいた壁はたった一振りの拳によって粉砕されていた。
「中々……すばしっこいな」
首の骨を鳴らす巨漢は大きく深呼吸をし、動きを止める。
『何を……休んでるんですの』
「……………………」
フードで見えない巨漢の表情。だが、息一つとして乱していない様子はマリーが想定していた以上のものであった。
油断してるつもりはなかったですけど…………ちょっとまずいかもしれませんわね。
胸を右手で押さえれば、肋骨が折れているのが分かる程だった。
「っつ!!」
「よそ見をしている暇はないですよ」
『っ!!』
耳元で囁かれた声と同時に、マリーの腕からは激痛が走る。
背中から翼を生やし、空へと逃げる。
視線を左手へと向ければ、爛れている皮膚がそこあった。まるで強酸で溶かされたかのように爛れた腕は痛々しい状態となっていた。
マリーの後ろに突如現れたガスマスクの男の腕は粘液が垂れるかのようにぶら下がっている。
「普通なら、これだけで踠き苦しむんですが…………いやはや、さすが貴族とでも言っておきますか、最後のヴァンパイア」
俯いていたガスマスクの男は勢いよくマリーへと視線を向ければ、液状の腕を勢いよく振り回し、液体を飛ばす。
散弾のように放たれた水滴を避けていくマリーだが、動かしていた翼は時間が止まったかのように動かなくなった。そして、マリーの体自体も空中で留まり続ける。
『なんで、動けないんですのっ!?』
驚愕が襲うと同時に動かない的となったマリーの体は細かい水滴が幾つも付着していき、皮膚を溶かしていく。
苦痛で歪む表情は声を押し殺す為に唇を噛み締める。
「空を飛べるのが貴方だけだと…………思わないでください」
箒に跨る女はマリーの首へと手を掛け、力を込める。
異常に細い女の腕に込められる力は見かけとは掛け離れた力がある。
『あんた達…………何なのよ』
「私たちは怪物たちを殺す者だよ」
「我々の悲願にお前が必要」
「だから、私たちは…………貴方を連れて行かないといけないの」
女は小さく何かを呟くと、巨漢がいる足元から鉄製の十字架が現れる。
身動きが取れないマリーは何かに固定されたように十字架へ磔はりつけられる。
巨漢は100kgを超えるであろう十字架を担げば、重さを感じさせない動きで走り去っていく。
三人は再び、静寂に包まれた闇夜の街へと消えていく。
ただ、マリーが不敵に笑っていることを知らずに。
そこから作戦は始まった。
「僕の能力で遠くから見守るってことでいいんだよね」
「あぁ、マリーの奴には傷ついてるフリをしてもらう事になってる」
事前に幹部達へと正確な場所を伝え、数十分が経過していた。
亮人たちの影から無線機代わりのマリーのコウモリが顔を出し、周りの様子を伺っていた。
深夜の東京。
公園の修理は追いつかず、遊具は壊れたままの状態。
公園を照らすのは月夜の光だけ。
物陰に隠れるようにマリーは蹲っているような素振りを続ける。
空を見上げる亮人は小さく息を吐く。
白く靄が掛かるように飛んでいく白い息は次第に霧散し、消えていく。
体に羽織っているコートは皮膚を刺すような冷たい空気から身を守る。
袖から出る手へと伸ばされた礼火の小さな手に自然と握られる。
「寒いね……」
「そうだね」
見上げた空、その光景はこれから戦うとは思えない程に綺麗なものだった。
『これから戦うと思うと緊張するわね』
『シャーリーもドキドキしてきたよ』
「みんなで帰るからね」
「『『うん』』」
四人で空を見上げている、静かな時間は終わる。
「来たっ!!」
守護の視線の先、建物の屋上を駆けるように黒いマントの三人組がマリーのいる公園へと飛んでいく。
「俺らの出番はまだ後だ……今はマリーを信じて、後をつけるぞ」
亮人ら五人は麗夜の後についていく。
黒いマントの三人組が向かっていく方向へ。
♂ × ?
『お父様……必ず助けますわ』
静寂の中で口にする言葉は暖かくも、一瞬にして消え去る。
深夜の寒空の下、数十分の中で考え、思い出していた過去。
初めは残酷で哀しむしかなかった記憶。誰も信じられなかった十年間は心が常に冷たいような感覚があった。
城から投げ出された時の父親の表情。優しく微笑みかけた姿を鮮明に思い出すと目尻から一滴に涙が頬を伝っていく。
大きく呼吸を吸い、大粒の涙を拭うマリーは亮人たちが待機している方向へと視線を向ける。ただ、振り向いた時の表情は悲しげなものではなく、力強く不安を感じさせないものに変化していた。
『今日で終わらせますわ……』
胸の前で握り込まれる拳から流れる血は地面を濡らす。
「来たっ!!」
耳元から聞こえる守護の言葉に顔を上げる。
『やっと来ましたわね…………』
手のひらから滴る血は一瞬にして止まり、傷も瞬時に治る。
『お父様を返してもらいますわ……』
街灯もない公園の中、マリーの足元に広がる闇は形を持つように揺らめく。
足を引きずるような動作をしながら、歩く度に地面の影は水面のように波紋を広げていく。
物音が一切しない公園の中、それは唐突に始まる。
一瞬にしてマリーの横に現れた巨漢の男はマリーへ一振りの拳を入れた。
『ガッハっ!!』
予想以上の衝撃と共にマリーの体は地面を数回バウンドし、壁へとヒビを入れるほどに衝突する。
連続するように一瞬にして距離を詰めてくる巨漢は再び、マリーの顔面へと拳を叩き込む。
恐ろしい程の速度と威力に辛うじて避けたマリーは自分の影の中へと逃げ込み、一度距離を離した。
視線の先、マリーがいた壁はたった一振りの拳によって粉砕されていた。
「中々……すばしっこいな」
首の骨を鳴らす巨漢は大きく深呼吸をし、動きを止める。
『何を……休んでるんですの』
「……………………」
フードで見えない巨漢の表情。だが、息一つとして乱していない様子はマリーが想定していた以上のものであった。
油断してるつもりはなかったですけど…………ちょっとまずいかもしれませんわね。
胸を右手で押さえれば、肋骨が折れているのが分かる程だった。
「っつ!!」
「よそ見をしている暇はないですよ」
『っ!!』
耳元で囁かれた声と同時に、マリーの腕からは激痛が走る。
背中から翼を生やし、空へと逃げる。
視線を左手へと向ければ、爛れている皮膚がそこあった。まるで強酸で溶かされたかのように爛れた腕は痛々しい状態となっていた。
マリーの後ろに突如現れたガスマスクの男の腕は粘液が垂れるかのようにぶら下がっている。
「普通なら、これだけで踠き苦しむんですが…………いやはや、さすが貴族とでも言っておきますか、最後のヴァンパイア」
俯いていたガスマスクの男は勢いよくマリーへと視線を向ければ、液状の腕を勢いよく振り回し、液体を飛ばす。
散弾のように放たれた水滴を避けていくマリーだが、動かしていた翼は時間が止まったかのように動かなくなった。そして、マリーの体自体も空中で留まり続ける。
『なんで、動けないんですのっ!?』
驚愕が襲うと同時に動かない的となったマリーの体は細かい水滴が幾つも付着していき、皮膚を溶かしていく。
苦痛で歪む表情は声を押し殺す為に唇を噛み締める。
「空を飛べるのが貴方だけだと…………思わないでください」
箒に跨る女はマリーの首へと手を掛け、力を込める。
異常に細い女の腕に込められる力は見かけとは掛け離れた力がある。
『あんた達…………何なのよ』
「私たちは怪物たちを殺す者だよ」
「我々の悲願にお前が必要」
「だから、私たちは…………貴方を連れて行かないといけないの」
女は小さく何かを呟くと、巨漢がいる足元から鉄製の十字架が現れる。
身動きが取れないマリーは何かに固定されたように十字架へ磔はりつけられる。
巨漢は100kgを超えるであろう十字架を担げば、重さを感じさせない動きで走り去っていく。
三人は再び、静寂に包まれた闇夜の街へと消えていく。
ただ、マリーが不敵に笑っていることを知らずに。
16
お気に入りに追加
1,986
あなたにおすすめの小説

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~
沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。
巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。
予想だにしない事態が起きてしまう
巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。
”召喚された美青年リーマン”
”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”
じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”?
名前のない脇役にも居場所はあるのか。
捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。
「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」
ーーーーーー・ーーーーーー
小説家になろう!でも更新中!
早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

俺がイケメン皇子に溺愛されるまでの物語 ~ただし勘違い中~
空兎
BL
大国の第一皇子と結婚する予定だった姉ちゃんが失踪したせいで俺が身代わりに嫁ぐ羽目になった。ええええっ、俺自国でハーレム作るつもりだったのに何でこんな目に!?しかもなんかよくわからんが皇子にめっちゃ嫌われているんですけど!?このままだと自国の存続が危なそうなので仕方なしにチートスキル使いながらラザール帝国で自分の有用性アピールして人間関係を築いているんだけどその度に皇子が不機嫌になります。なにこれめんどい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる