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「ちょっと、じっくりお話しようか?」

微笑みは崩さず、諭すように語りかけられたが、腕には力が籠り、逃げない様に再びがっちりホールドされた。

あまりの恐ろしさに、ヒッ、と喉から悲鳴が漏れる。距離が近いぶん凄みも増す。だっ、誰かー!!神様、女神様、猫神さまー!!誰でもいいからこの状況から俺を救い出してくれー!!デュオが次にとる行動が予想出来ず膝が震え出す。このまま、身体能力を高められたら…背骨がポキッとなるんじゃ…。固く瞑った目に涙が浮かぶ。今にも声に出して泣いてしまいそうだ。

「ミルルー!」

そんな俺に救いの手が差し伸べされた。目開くと頬を紅くしながらも一生懸命にこちらに向かって走りよって来るエールが映った。その姿は天使と見間違う程に可愛い。


「エールぅ…」


声を出した拍子に涙が頬を伝う。お前のお父さん何なの?めっちゃ怖いよ。エールはこんな裏表ある大人になるなよ。ってか膝小僧擦りむいてるじゃないか!!また転けたかのか…。こんな状況だと言うのに、自分の事よりエールのことを気にしてしまう。それ程までにエールは俺の中で大切な存在になっていた。

「お父様ッ!!ミルルに何をしたんですか?!可哀想に…涙なんか流して…」

怒った顔でデュオの腕から俺を奪う。小さな体のどこにそんなに力が?と思ったが、先程の王族は魔力が~の会話の下りを思い出す。小さいながらにも王族って事か。いや、それよりもだ。

「エール、また転んだのか?見せてみろ」

完全にエールが王子様なんて事は頭から抜け落ち、いつものような言い草で怪我に手をかざす。柔らかな光がエールの膝を包み込み徐々に消えていく。

「いつも言ってんだろ?足元に気をつけろって」

森で生活している時もほぼ毎日何かしら怪我をしていた。まぁ、森なんて足場悪いし、今思うと箱入り王子様が生活するにはちと厳しかったのかもな。

ありがとう、傷の癒えた膝を擦り、はにかんだ様に笑うエール。仕方ねぇな、といつもの様に笑い返す。

「私も仲間に入れて欲しいな。ひとり除け者は寂しいよ」

デュオはさっきまで浮かべていた黒い表情を消し去り、すっかり何時もの様子に戻っていた。

「お父様!!僕は怒っているんですよ」

エールはデュオと俺の間に入り、守るように俺を庇う。そうだ、そうだ、もっと言ってやれ!!言葉ではとてもじゃないけど言えないので、しっぽでバシバシ地面を叩く。

「エール、誤解だよ。ミルルはね…私達との身分差に心を痛め森に帰ろうとしてたんだ…」

悲しそうな困り顔を作り、エールと目線を合わせる為に膝を折って話し始めた内容はそれは、それは、しっぽの毛もポンっと膨らむ程に恐ろしかった。俺を投獄するつもりとは微塵も思わせず、且つ、子供に同情を誘うような印象を与える…印象操作!!これぞ王様の巧みな話術。


しかし着衣が汚れる事も気にとめず、子供の為に膝を地面につけて話す姿勢…。そーゆーところは本当に良いお父さんだよな。目線が同じ位置ってだけで、安心するし、エールを見る目はいつも優しさで溢れ俺にまで愛情が伝わってくる。ちょっと羨ましいよな。無条件の愛情とか…。いや、めっちゃ羨ましいわ…。お父さん怖いけどね。今夜はアイツ(ベッド)を濡らして寝よう。

「まぁ…身分差はどうにもならないからな。短い間だったけど楽しかった。また遊びに来いよ。俺、アイツ(ベッド)無しじゃ寝れないからさ。帰るわ」

今度はちゃんと最後まで言い切ることが出来た。これで納得して森に帰してもらえるだろう。こうなりゃ、何が何だか分からないどさくさに紛れて帰ろう作戦だ。

「あ゛ぁ?!アイツって誰…?」

エールから発せられた子供らしからぬ低い声。凄みは少ないが怖い…。何この威圧感。えっ、ちょっ、エールもそちら側の人間だったのかーッ!!




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