猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの

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それから頻繁にエールは俺の元に訪ねてきて一緒にお茶をするようになった。話し相手をする代わりと言ってはなんだが、俺は食料を戴いている。実にありがたい。そして理解した。この世界は以前俺が住んでいた場所とは全く異なる事を。何故?どうして?今更そんなこと考えたってどうしようもない。俺が違う世界に迷い込んだ。それだけだ。



違う世界に居る事も驚きだが、もっと驚くべき事は猫が神様だと祀られていることだ。初めて会った時の猫神様の意味がわかった。人間しか存在しないこの世界で猫獣人の俺は確かに神に見えるな。俺は森から出ないと誓おう。決して出ない。エール以外の人間とも会わない。


森の木々の葉が鮮やかに色づく頃、エールが頬に傷を作りやってきた。聞けば転んだと言う。ほらよ。しっぽ貸してやるから。抱き締めたっていいんだぜ。そう言えば、しっぽを胸に大切に抱き込みシクシクと濡らしていた。


多方、あいつの仕業なんだろうな…。エールの母は不慮の事故で亡くなったそうだ。その後、後妻候補
と名乗る女が現れて居座るようになった。エールの父の前では猫を被り、エールの前では嫌味のオンパレード。出ていけ、消えろ、お前が邪魔だと皆が言っている等など。俺なら手を出しちゃうわ…。そんな劣悪な環境耐えられないわ…。


最初に出会った時も後妻候補に酷い言葉を浴びせられて逃げてきたんだと。しかし…子供に手を上げるか?こんな小さな子に?父親も何やってるんだよ?!


「エール。暫く俺と暮らそうか?なに、父親が探しに来るまでの間だけだ。もし来なくても…俺が養ってやるよ」


まぁお金持ってないけど。愛情はたっぷり持ってるからな!!笑顔で提案すると、泣きながらエールが飛び付いてきた。俺がお母さんならいいのにとかほざいてるが…まぁ…まだ甘えたい年頃だしな…今だけは母親代わりになってるよ。
 


そして俺とエールの生活が始まった。父親が恋しくなるかな?と心配したが、思いの外大丈夫そうだ。毎朝一緒にご飯を食べ、森で魚を採り、一緒にお風呂に入って、一緒に寝る。そんな生活を続けて五日目の早朝、遠くの方でエールを探す人の声が聞こえた。



来たか。エールを起こさないように静かに家の外に出る。声のする方に足を進め、茂みからそっと声の主を盗み見た。プラチナブロンドの髪に青色の瞳。間違いなくエールのお父さんだ…。めちゃくちゃ似てる…エールが大きくなったらこんな人になるのかな?ってかまだ青年と言われてもおかしくない外見だ。


見てるだけじゃ埒が明かないな。意を決して茂みから出て強い口調で話しかける。


「おい!お前がエールの父親か?!」


ゆっくりと振り返る父親と目が合う。


「……」

「……」


気まずい沈黙が二人の間に流れる。数秒だろうが数時間とも思えるほど遅く感じる。なんだ?!どうして何も喋らないんだ?!ここは俺からもう一度話しかけた方がいいのか?!予想だにしない出来事に戸惑いが隠せない。しっぽが忙しなく動く。


「美しい…なんて美しいんだ…。まさか生きてる間に猫神様に出会えるとは…」


恍惚とした表情で目を細め慈しむ様に俺を見ている。猫神様ではないが人間しか居ない世界では勘違いされても仕方がない事なので放っておく。言いたい事をさっさと言ってしまおう。


「お前が…エールの父親か?エールは俺の元で暮らしている。安心しろ無事だ。心配しなくてもいい。お前…女の趣味悪いな。子供の事をちゃんと考えてやれ。手を上げるなんて…仕事も大切だと思うけどな、エールの心にもっと寄り添ってやれよ…あと俺の名前ミルルだから」


恋もした事ない俺が偉そうに言うのもなんだけどな!!さてさて、どう出るかな?腕を組みエールの父親を見上げる。


するとエールの父親がどんどんと近付き俺との距離を縮め、腕組みをしている手を取り、自分の両手を重ねてきた。へっ?さっきからこの人予想外の行動ばかりしてくるな…。


「ミルル。私はディオという。エールの事は…大変申し訳ない…。私が不甲斐ないばかりに、辛い思いをさせた。少しの間だけ待っていて欲しい、必ず迎えに行く。もう少しだけ時間をくれないだろうか?」


眉を寄せ、意を決した様な面持ちのディオの圧に押され、俺は無言でコクコクと頷いた。足早に離れていく背中を見つめ、膝から崩れ落ちた。もう少しってどれぐらいで迎えに来るの?趣味の悪い女はどうするつもり?エールとの親子関係修復は?聞きたい事を全く聞けなかったじゃないかー!!俺何やってんだよー!!はぁと溜息をつきながら収穫無しでとボトボトと帰路に着く。ごめんなエール。心の中は謝罪の気持ちでいっぱいだった。


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