20 / 48
もふもふは病んでいない
しおりを挟む俺の胸で眠る小さな存在。そっと腕をまわして抱き締める。やさしく、やさしく抱き締める。小さな寝息が聞こえる。
「レイ、愛している。どうしようもなく、お前を愛してる」
起きている時には伝えられなかった言葉を囁く。好きだと心の中では言えるのに、口に出して想いを伝えることが出来ない。もどかしい。思い通りにならない自分が自分で恨めしい。
あの狸オヤジのヨルムのやつ。父上が皇帝の時には、黒い噂があったものの、大人しくしていた。しかし、俺が皇帝に即位した途端に本性を現した。アイツは獣姿の獣人を徹底的に蔑むレイシストだ。人身売買、強制労働、挙げ出したらきりがないが…中々しっぽを掴ませない。以前、人身売買の取引現場を現行犯で捕まえたのだが、ヨルムに繋がる証拠は見つからなかった。
アデルと話をしている姿を見て眼光が鋭くなる。相手にしないように足を早めたが、最悪なことに捕まってしまった。忌々しいハゲ狸が!!ニタニタと音がしそうな顔でレイの事を話す。お前ごときが俺のレイの名前を呼ぶな。穢れてしまう。いつもは嫌味を言われても気にしないが、レイの事となると別だ。適当に切り上げ部屋に入り、いつも通り椅子に座る。
本当に最悪だ。ヨルムの話を真に受けるつもりは無いのに気落ちする。先程までの胸の高揚が嘘のようだ。暗い、暗い。俺の心は灯りのない闇夜のように染まってゆく。ダメだ。抑えの効かない感情が込み上げてくる。レイを閉じ込めて、誰にも見せたくない。ダメだ。ダメだ。ダメだ!!どうして俺はこんなにも弱い…。レイに会うのはしばらく控えよう。何をするか自分で分からない。
何も考えたくなくて無心に執務をこなす。
コトッ、ティーカップが机に置かれた。レイから良く漂ってくる香りと一緒だ。
「気持ちは察するが、休憩ぐらいはした方がいい」
「……」
「くくっ…泣く子も黙る皇帝が、恋をするとここまでダメになるとは。レイ様は本当に面白い」
「黙れアデル。お前が狸オヤジとあんな所で話し込んでいるから…!!」
「俺が悪いと?冗談!!俺だって好きで話すか!!仕事だよ。絶対にアイツは動く。お前の婚儀程に楽しいイベントはないだろう?」
「レイに何かしたら生き地獄を見せてやる。生まれてきた事を後悔すればいい」
「おー怖い怖い。ヤンデレも程々にな」
「ヤンデレ…?普通の事だ。お前も知っているだろう。番への執着を」
「はいはい」
ヤンデレ?俺の愛が重いのは承知しているが、決して病んでいる訳ではない。
夜も、そして次の朝も食事を断る。昨日と同様に同じ事を淡々とこなす。そんな時、レイからお茶会の誘いがきた。悩んだ末、現状打破出来るかもしれないと、一抹の希望を抱き了承した。
遠目から見てもレイは美しかった。テラスに射し込む光でキラキラと輝いている。天使だ。地上に紛れ込んだ天使に違いない。珍しく柄にでもない事を考えてしまう。
俺を気遣ってくれているのに、素っ気ない返ししか出来ない。目が見れない。すると、突然レイが席を立つ。やはり愛想をつかされたか…しかし、俺の予想とは反し、レイは俺に触れてきた。視線が合う、紡がれる愛しい言葉に、昨日感じた以上に胸が高鳴る。
白く、折れてしまいそうな腕で俺の頭を抱き締める。あぁ俺がレイから感じた想いは間違いない。俺も好きだ。伝えたくて同じように腕をまわし、細い体を抱き締める。レイの心音が心地よい。俺の頭に擦り寄るレイに、愛しい想いが溢れ、もっと、もっとと求めるように強く抱く。想いが重すぎた…やってしまった…腕の中のレイが糸の切れた人形みたいに崩れる。俺が人生で一番焦った瞬間だった。
27
お気に入りに追加
1,980
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる