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もふもふのご主人様
しおりを挟むハーデ帝国の城に着くと、美しい人が迎えてくれた。
ハーデ帝国で宰相を務めるアデル様と言うらしい。城内の部屋まで案内してくれると…。だがおかしい、敢えて遠回りをして、レイ様から何か聞き出そうとしてる。典型的な策士だ。好きになれないタイプだ。
アデル様と替わるように紹介された護衛のユーリ殿。でかい…めちゃくちゃでかい…俺でも獣人の平均身長180センチはあるのに10センチ程高いだろうか?そんな事よりも驚くのは容姿だ!バルロでは見る事のなかった獣姿の獣人。レイ様が意味不明言葉を口走った。えっ?もふもふちゃんって言いましたよね?確かに普通よりは毛に覆われてる部分が多いと思いますが…もふもふちゃんって…そんな可愛らしい言葉が似合う容姿では…。とりあえずスルーしよ。何も聞かなかった。そうしよう。レイ様のお付になってからスルースキルが格段に上昇したと思う。
部屋の中に案内され、お茶の用意が終わったユーリ殿にレイ様が一緒に座るように促す。見てください。ユーリ殿が固まってます。だが、レイ様からは嬉しい、楽しいといった感情が汲み取れる。ユーリ殿すまないな。俺からもお願いして席に着くように促した。言葉少なげに話すユーリ殿を嬉しそうに見つめるレイ様。緊張して更に言葉少なくなってるよ。止めてあげて。そしてトドメの一撃。手を見せて発言。ほんとポンコツ!!興奮を鎮めて下さい!!他の人の手を見て微笑む姿を皇帝陛下にでも見られたりしたら……
あれ?部屋の空気が…なんだ?ユーリ殿の視線を目で追う。あっ、死んだわ。コレ死んだ。魔王降臨してるわ。魔王の二人になりたい発言を聞き、素早く部屋の外に逃げる。はぁー。ため息が重なる。ユーリ殿だ。
「災難でしたね。レイ様が我儘を言ってすみません。自己紹介が遅れましたが、バルロよりレイ様の護衛兼従者として参りました。レイモンドと申します。是非、レイモンドとお呼びください」
「騎士団団長のユーリと言います。私の事もユーリと…いえ、好きに呼んでください」
「?では、ユーリと呼ばせていただきます」
手を差し出し握手を求める。が、中々手が握り返されない。
「すみません。握手で挨拶する事がなくて…」
へぇー。やっぱり国によって違うんだ。でも、握り返してくれないと、差し出した俺の手が馬鹿みたいで可哀想じゃん。ユーリの手をとり勝手に握手させる。これで良し。ニッコリとよろしくと笑顔で伝える。あぁー。めちゃくちゃ動揺してるな。レイ様に手を握られた時も動揺しまくってたもんな。
「すみません。嫌でしたか?」
「とっ、とんでもない!!!!」
あまりのユーリの勢いに引いてしまう。何?!何?!どうしたの?!声が大きすぎて驚いたんですけど…。
「そのッ…先程もレイ様に話しましたが、自分の容姿は自分で自覚してますので…あなたとレイ様の行動に驚いたと言いますか…なんというか…」
最後の言葉は俺の耳をもってしても聞き取れなかった。つまり、自分の容姿がコンプレックスって事だな。獣姿は醜い差別対象だが、俺は別に何とも思わない。おそらく良くも悪くもレイ様と長い時間を共に過ごしたせいか、感性が他の人と異なるのだと思う。美しい人は美しいと思うがな。獣姿を見ても、醜いではなく、俺とは違うなと思う程度だ。
「騎士団の団長って事はお忙しいでしょう。引き止めてすみません」
「いや、今日は晩餐会までレイ様の護衛を頼まれていたのですが…追い出されてしまいまして…」
バツが悪そうにユーリが話してくれた。
レイ様のせいだな。間違いなくレイ様のせいだ。
「すみません。晩餐会か~俺はどうしようかな…。」
小さな呟きだったが、ユーリには聞こえたらしい。
「よよよよければ、いっいっ一緒に……」
「ぶはっ!!」
くくっ吃りすぎ!!焦りすぎ!!
「んんッ!お食事に誘って貰えたと思っても?」
「……はぃ」
耳もしっぽも萎れちゃって。可愛いー。はっ?!可愛い?!俺、今、可愛いとか思ったの?!……スルーだ。ここでスルースキルを発揮せずにいつ発揮するよ!!
とりあえず、
「楽しみにしてます」
ユーリとご飯は有意義な時間だった。安定の吃り具合だった。普段の姿をこっそり見てみたいもんだ。別れを告げ、レイ様の部屋に戻る。そっと、気づかれないように。椅子に腰掛けて、頬杖をつき、ぼーっとしてるレイ様に、リラックス効果のあるハーブティーを用意する。疲れただろう。今日はゆっくりと眠っていただきたい。
急に大声でレイ様に呼ばれた。何事だ?!努めて冷静に会話する。相談の内容を聞いて、変化の乏しい顔が能面に近づく。
レイ様。ハーデ帝国に来てポンコツに磨きがかかりましたね。
はぁー。深いため息が漏れる。
いいですよ。そのお馬鹿な悩み俺が解決してあげます。
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