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もふもふをご堪能
しおりを挟むシャツを拡げた向こうは、天国でした。
はぁ~無理。尊い。もふもふが尊すぎる。
そっと手を伸ばし、首元に触れてみる。柔らかッ!!首の側面から顎下に向かってゆっくりと撫でる。次はもう少し手を奥に進め、首の太さを確かめるように下から上にゆっくりと撫であげる。思ったよりも太いな~恍惚して撫で上げる。
ほわぁ~。幸せ…そっと、表情や体の動きを観察する。まだ触っても大丈夫な様だな。首から顎のラインに爪を立てないように気をつけて撫でる。指の平らになっている柔らかい部分を使って、ゆっくりゆっくりと…。グルル…と頭上から声が漏れた…。あぁ~残念。もうダメか。微かな唸り声が聞こえた事に落胆する。名残惜し。目を伏せながらそっとクロノから距離をとる。
「……もういいのか?」
「はい…充分です。ありがとうございます」
嘘です!!もっとモフりたい!!その胸にダイブして顔を埋めたい!心の声を押し殺し、笑顔で感謝の気持ちを伝える。
「本当はもっと話をしたいのだが、まだ執務が残っていてな。楽しみは晩餐会までとっておくとしよう」
「晩餐会楽しみにしております」
心無しか部屋に来た時よりも疲れている様に見えるクロノを見送り、椅子に腰を降ろし、自分の両手を見つめる。ついてないよね…ガッカリ。あわよくば爪の間とかに、あの素晴らしい毛が挟まってたりしないかと思ったが…ブラッシングが行き届いているんだな。欲しかったな~。クロノたんのもふもふ。集めて小さな毛玉作りたかったのにな~。今度ブラッシングさせてくれないかな?他の人は触っちゃダメとか言ってたし…もふもふ毛玉欲しい。晩餐会で聞いてみようかな?
▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣ ▢ ▣
「おかえり。随分遅かったな」
執務室に入ると、宰相のアデルが書類を見ながらお茶をしていた。
「まだ居たのか」
アデルにお茶の催促をし自分の椅子に座る。先程の事を思い出し頭を抱えた。
「失礼な。心配してやったのに。しかし、お前が悩む姿が見れるとは珍しい。レイ様も中々のやり手だな」
アデルがニヤニヤしながらお茶を手に近づいてくる。
「お前が考えている様なやましい事はしていない」
「へぇー。まぁレイ様はお前に危害を加えないとは思うがな。ここまで骨抜きにされるとちょっとな…良いように手玉に取られてんじゃないか?」
「レイはお前が心配する様な事はしない」
「花嫁か…。上手くお前に取り入らないと自国がどうなるか気を揉んでるのかもな」
「バルロに対して俺はどうこうするつもりはない。王には会わせて欲しい、良ければ迎え入れたいと伝えただけだ。」
「向こうがどう受け取ったかなんてわかんないだろ」
「バルロは内政も安定してるし、援助しなくとも独立出来ている。あの制度が出来てから獣姿の赤子を我が国が引き取っているだけだ」
「その事レイ様はご存知なんで?」
ほんとにコイツは痛い所をついてくる!確かにこの事を知っているのはバルロでもハーデ帝国でも一部の者だけだ。獣姿の赤子はバルロでも差別対象だった。ハーデ帝国は獣姿の者に差別が少ないと知り案を持ち掛けてきた。俺は快く引き受けた。その代わりの条件がレイだった。成人してから迎え入れたいと申し出た。王は悩んでいたが、結局は条件をのんだ。
「わからん」
ぶっきらぼうに答え、手元の紅茶に目線を落とす。ユーリや俺を触っている時のレイの様子に嫌悪は見られなかった。獣姿の俺は相手の感情を汲むことが出来る。レイから感じたのは好意、興味といった正の感情だった。あれが演技だとしたら大したものだ。まだ会って数時間だが、確実に俺の心は惹かれている。晩餐会を楽しみにしているなんて初めてだ。これから生まれる「初めて」の感情は全てレイに捧げたい。お前の瞳に俺はどんなふうに映っている。お前の全てが欲しい。
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