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サファイア対スノウ

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「ちょっとちょっとまた変な子が出てきたよ!?」

思わず口が滑るひまりにサファイアは怪訝な顔をする。

「その子は貴方の従者ですか?」

「知らないわ。私を呼んだ子でもなさそうだし」

「なっ…!ならそこの貴方!今すぐ避難ーー」

ドッ、…とひまりに対し忠告し終わる前にサファイアの胸にソフトボール大の穴が空いた。

「油断しちゃダメでしょ」

ニヤァとサディスティックに笑うスノウ。
スノウの指先から赤色のレーザーが射出されたからだ。

攻撃を受け墜落したサファイアにゆっくり近づくスノウ。

「がはっ…」

「弱い、なんてレベルではないわね。あなた、どうしてここまで弱体化しているの?」

「燃えろ(Ardere)」

普通なら致命傷ものの傷を受けながらサファイアは己の剣に白い炎を灯しスノウに振るう。
剣から火炎放射器を遥かに上回る威力の炎がスノウに襲いかかる。

「はぁぁぁぁあああああ!!!!!」

「甘い甘い♩」

スノウは軽々とそれを素手で防ぐ。
防ぐ彼女の後方、何百メートルと炎が通過していく様子が技の威力を物語っている…が、まるで効いている様子がない。

素手で炎を押さえつけながらサファイアの首を掴み、持ち上げ、上空に投げ飛ばした。

「くっ!!」

「【星嵐剣(せいうんけん)】」

投げ飛ばされ身動きができないサファイアに無慈悲な追撃をかけるスノウ。
技名と同時に目に見えぬ斬撃が自動的にサファイアをめがけて襲いかかる。

一撃ではない。

数万の不可視の刃が連続して発動し続ける。

「……」

宙に浮きながらサファイアは目を瞑る。
見えぬ攻撃に、感覚を限界まで研ぎ澄まし防ぐためだ。

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

超高速で刀を振い続けるサファイア。
神技で不可視の刃を全て防ぎ切った。

浜辺に着地し再び剣を握る。

「すごい…」

余波だけで死ぬ可能性のある戦いに巻き込まれながらも、ひまりは感嘆の声を上げた。
しかし満身創痍のサファイアと比べ、スノウは微笑を浮かべる余裕まである。
ひまりは2人のことを何一つ知らないが、今までの行動からサファイアを応援したくなっていた。

「頑張れサファイアちゃーん!!!」

「え…」

思わぬ声援を受け一瞬ひまりに視線を向けるサファイア。
それはスノウも同様だった。

「私の方が一緒にいた時間が長いのに酷いわね」

「【剡斬(えんざん)!!】」

スノウの頭上に30m強の長さの炎の刃が振り下ろされる。

「っ!!」

スノウは両腕をクロスさせ刃を防御する。

「2人ともあの子に油断させられましたね!このまま燃えなさい!!!」

核シェルターですら豆腐のように切れる攻撃を素手で受け止めながら笑う。

「はっ、さっきから威力が低い攻撃ばかりね。こんなんじゃ傷一つ負わせられないわよ…【氷華結界ひょうかけっかい】」

両腕で防ぎながら新たに技名を紡ぐスノウ。
炎の刃が一瞬で氷解した。

「【熖刃風…!】」

「遅いわよ」

サファイアが続けて技を出そうとするが、それより速くスノウの氷華結界という氷の能力が彼女の手足を凍らし行動不能にしていた。

「技が出ない…!何で…」

「この氷で体の三分の一を覆われた人間は能力が使えなくなるわ。とはいえ昔のあなたなら抵抗できたんでしょうけど…さて」

解説しながらとどめを指すためにサファイアに近づいていくスノウ。


ズバァァァァァン!!!!


サファイアとスノウの間に斬撃が割って入る。
斬撃を起こした張本人はサファイアを守るようにしてスノウに向き合った。

「もうお終いだよスノウちゃん」

カダガタと震えながら剣を握るひまり。
圧倒的な力の差は嫌というほど見せつけられてきた。
けど目の前で行われるであろう惨劇に、咄嗟に体が動いてしまった。

「スノウちゃん、か…。今初めて会ったサファイアを守るためにあなたは命を捨てるのかしら?」

「何しているのですか!?逃げなさい!!」

サファイアの必至の叫びも虚しく、ひまりは剣を構えたままだ。

「(スノウちゃんに生半可な攻撃は通じない。サファイアちゃんのさっきまでの攻撃だって軽くいなされていたんだ。私の最大限の攻撃も通じるかどうか…)」

「撃ちなさい」

「!」

「撃ちなさいと言ったの。さっきの腕の腫れは今から撃とうとする技のせいでしょ?どれほどのものか興味が湧いたわ」

「後悔しないでね…」

「しない後悔よりはする後悔でしょ?」

「よくご存知で。…では」

ひまりは深呼吸をし剣を握り直す。
彼女の全身が紫のオーラに包まれ、膨大な量のエネルギーが剣に集まっていく。

出会ったばかりか、まともに会話をしたこともないサファイアを守るため。全身全霊をかける。



「【ヴァイオレット•ブラスト】!!!!」



紫の光線がスノウに襲いかかる。

ドゴォォォォン!!!と周辺に轟音が響いた。
先ほどまでの戦闘で何度も轟音を鳴り響かせていた千本浜に野次馬も集まっていたが、ひまりの攻撃で全員避難していた。

あまりの風圧に砂埃が嵐のように舞う。

「ぐっ…痛っ…!!」

1日に2発撃つのは初めてだったのでひまりの両腕に激痛が走り、剣すら持つことができず地面に落としてしまう。

それほどの一撃を生身で浴びたスノウの様子を見るために視線を前方に向ける。

「はい残念」

片手を前に突き出して防いだのか全くの無傷であった。

「そんな…」

「年齢からしたら悪くないわ。鍛えたらもっと強くなる。けどあなたに明日は無いのだけれど」

「ひっ!」

「やめなさい!!」

スノウは人差し指をひまりに向ける。
指先から赤い膨大なエネルギー量を含んだ球体が出来上がった。
先ほどサファイアの胸を貫通させたものと同じ能力だ。

「(私の人生が終わる…まさか今日死ぬなんて思っていなかったよ)」

「(後悔がないと言ったら嘘になる。けど目の前で人が死ぬところなんて見たくなかった)」

「(バイバイ澪ちゃん、舞子ちゃん)」


「きゃっ」


「え?」

死を覚悟し目を瞑っていたひまりだったが、スノウが今までの冷酷な声と違って可愛らしい声を上げ、彼女の両腕が粒子となり霧散していた。

「な、なんで…」

「誰がやったかは分からないけど、私を相当不完全な状態で顕現させたのね。時間切れみたい」

話している間も体のさまざまな部位が霧散していくスノウ。

「待ちなさい…!!」

サファイアがようやく氷を砕き、戦闘体制に入る。

「サファイア、ひまりとやらに感謝しなさい。彼女の最後の一撃がなければ貴方は死んでいたわよ」

「【熖刃風!!】」

「【メモリアスリープ】」

「がっ!!」

突然雷にでも打たれたかのように体を硬直させ意識を失うサファイア。

「サファイアちゃん!?」

「これだけはやっておかなきゃね…その子に何度も狙われるのは面倒だから」

「あの、貴方は何なんですか!?」

消えかけのスノウに向かって問うひまり。
その問いに彼女が答えることはなく最後に一言。

「その子をよろしくね」

スノウの肉体が完全に消滅した。

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