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花結晶

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※ゼロ視点※

「義賊集団がエルを…」

「あぁ、そうみたいだな…それに弟くんは義賊集団の一人と親しげに見えたよ……そいつはいつの間にか居なくなってたけど…」

「エルが義賊の仲間だって言いたいのか!?」

「ちょっ、落ち着けって!俺助けてもらったからそんな事思いたくねぇけど…」

ヤマトはそれ以上言わず、口を閉ざした。

俺はその場にいなかった、でもこれだけは断言出来る。
エルは絶対そんな事をしない、誰よりもエルの事を分かっている。
きっとなにか理由がある筈だ、エルのところに行かなくては…

ヤマトの話によれば、義賊集団は謎の種を持っていたと言っていた。
その種から出てきた触手は意思を持った生き物のようにヤマトを襲った。
しかも、ヤマトの魔法を吸い取っていたから全く魔法は効かなかった。

魔力がない人間の集まりが義賊集団だ、それなのに魔法を吸い取る生き物を生み出すなんて、いったいどうやって…

主に魔法使いを狙う義賊集団だが、狙った獲物は必ず仕留める。
義賊集団から一時的に逃げられた魔法使いが騎士団に助けを求めた。
でも、必ず数日以内に皆死んでしまう…いくら騎士団が護衛しても義賊集団は僅かな隙を狙って命を奪う。

エルには俺がいる、だからといって安心なんて出来ない。
エルをあんな目に遭わせた義賊集団を許さないし、一瞬でも不安があるなら油断できない。

医務室で手当てしてもらった後、仕事が溜まっていたから片付けるために兵舎に向かっていた。
ヤマトは俺を医務室に運んでからいろいろ話を聞いてすぐに医務室を出て行っていた。
自室の扉を開けようと思って、ヤマトへ頼む仕事を思い出してヤマトを探しに行ったんだ。

その途中で騎士数人がヤマトを探している事を聞いた。
ヤマトを見つける事が出来たのに、まさかエルとあんな状態になっているなんて思わなかった。

エルから離れなければ良かった、なんで離れてしまったんだと後悔しても仕方ない。
今はエルの傍を離れない、俺に出来るのはそれだけだ。
ヤマトはエルを助けてくれた、だからそれ以上なにか言うつもりはない。
…俺自身が一番助けにいかなければいけなかったんだから…

とりあえず顔色が悪かったエルが心配だ、医務室に行こう。
ヤマトからある程度話を聞いてからエルがいる場所に向かった。

医務室に近付くと、叫ぶような苦しげな声が聞こえた。
その声を俺が間違う事なんてあり得ない、急いで医務室に入った。

ベッドがある場所まで行くと、医者とリアカ達がベッドを囲っていた。
その中心にいるのはエルで、シーツを握りながら苦しそうにもがいている。

医者を睨んだが、医療の知識があるリアカがいる中でエルになにかするとは思えない。
行き場のない怒りを鎮めて、エルの背中に触れた。

「うっ…ぁ、うぁ…」

「エル、大丈夫か?なにかあったか説明してくれるな」

「は、はいっ…」

医者の説明によれば、エルの体には内出血の打撲があったがそれ以外は特にいなかった。
だから痛みを感じてもこんなに痛む理由が分からないと言っていた。

詳しく調べたいみたいだが、こんな状態では調べられないみたいだ。
汗を掻いていて苦しげで、エルの顔に掛かった髪を手で退かした。

声を掛けても俺の声に反応してくれない、エルは痛みと戦っている。
また俺は何も出来ない、エルがこんなになっているのに…

ごほごほっ、と咳をしていてなにかがベッドの上にあった。
一瞬真っ赤な血のように見えたが、すぐにそれは違うと気付いた。

「…花びら?」

「これはまさか、花結晶ではないですか!?」

花びらを見た医者は驚いた顔をして、別の花びらを手に持ってマジマジと見ていた。

リアカも分かってるのか、驚いた顔をしていた。

花結晶、聞いた事がないがどういうものなのか分からない…病気なのか?

俺が出来る事ならエルの痛みを代わってやりたい。
エルを抱きしめて、エルが俺から離れていかないように必死にしがみついた。

体はここにあっても心が離れていってしまっていたら俺にはどうする事も出来ない。
そうなった場合、俺はきっと俺ではなくなってしまうかもしれない。
エルがいない世界に、何の魅力も未練もない。

「ゼロ、花結晶は絶滅されたローズリーという花の種を飲み込むと発症する病気よ」

「……どうなるんだ」

「血液が花びらに変わって、数日と持たずに死ぬわ」

「…っ」

ローズリーという花の事は聞いた事がある。
極寒の地に咲く花で、別名魔法喰らいと呼ばれていた。

その花は近くにいる魔法使いの魔力を吸って成長する危険な植物だ。
そのせいでその花の近くにあった魔法使いが住む村は滅びた。
何度もローズリーを根絶やしにしようと冒険者や多国から騎士が来たが、魔法使いはローズリーに近付けず断念した。
人間には害がないわけではない、このローズリーは吸血の花でもあり人の血を啜る。

戦う術が少なく、力がない人間にすらどうする事も出来なかった。
そもそも魔法使いを絶滅させてくれるかもしれないローズリーを人間が除去する理由がないからローズリーを守ったりしていた人間もいた。

今はもうローズリーはない、グラディオ様がローズリーの根を燃やし尽くしたからだ。
極寒の地の氷が溶けるほどの炎の力を見せつけたグラディオ様の力をいろんな国が認め始めたきっかけでもあった。
手も足も出なかったのに、簡単にグラディオ様がやり遂げたからだ。

そうだ、ローズリーはグラディオ様の時代のものだ。
何故その花が今、エルの中に花結晶があるんだ?

「魔法使いにローズリーの種を植え付ければ中の魔力を喰らって死んでしまうの、そして人間には血液が花になるのよ」

「治す方法はあるのか?」

「ローズリーが絶滅したのと同時に解毒に使う草も絶滅したのよ」

「このままにしろって言うのか!?」

「うーん、他に治す方法…」

治す方法がないなんて、諦めるつもりはない。
ローズリーが今の時代にあるなら、解毒の草だってまだ何処かにある筈だ。

エルは眠ったのか、気絶したのか、ぐったりとしていた。

時間がない、すぐに解毒の草を探しに行かなければ…

リアカの助手と医者にエルを任せて、俺はリアカを連れて医務室を出た。
あの国での出来事で、リアカの助手にはそれなりに信用出来る。
それに、リアカの方が解毒の草に詳しい…リアカがいた方が見つけるのは早い。

リアカの研究所に入り、棚に並べられた本の中からいくつか取り出してテーブルに置いた。
そこには花の資料や古い神話の本とか、ローズリーに関連する本が積まれていた。

古い本をペラペラと捲り、まずはローズリーを探す。

危険な植物を人工的に作る事なんて可能なのか。
義賊集団に聞けば、解毒の草の事もなにか分かるかもしれない。
リアカもそれを考えていたのか、追加の本をテーブルに置いてソファーに座った。

「ゼロ、エルちゃんに種を植え付けた奴は分かってるのよね」

「あぁ…」

「その相手を捕まえれば解毒する草の事も分かるかもしれないわ」

「…今、そいつらに会ったら殺さない自信がない」

ぐっと本を握る手に力が入り、本を閉じた。
リアカはエルが吐いた花びらを何枚か持ってきていて、調べるつもりらしい。

別の本を取り、捲るとローズリーに関しての話が書かれていた。
でも内容は俺が知っているグラディオ様の話だった。
真っ赤な赤い花びらのローズリーが絵で描かれていた。

些細な事でもいい、一分一秒でもエルにとっては大事なものだ。
普通の毒花は解毒薬として、その毒花を使う治療法がある。
二つの効果があるのが一般的だ、もしかしたらローズリーにもあるかもしれない。

ただエルの場合は人工のローズリーという事が引っかかる。
それに天然もののローズリーはもうないし、人工のローズリーに解毒効果があるかどうかが分からない。

でも可能性があるのなら試したい、どうやって人工のローズリーを手に入れるのかが問題だ。

リアカが持っている花びらは元はエルの血液で、ローズリーの花びらに似ているがローズリーではない。
エルの体の中に這っているローズリーを無理矢理引っ張り出したりしたら、当然エルは死んでしまう。

他にローズリーはないか…

「リアカ」

「どうしたの?なにか見つかった?」

「毒花から解毒薬を作る事は出来るか?」

「出来るけど…でも本物の花がないと無理だわ…ローズリーのサンプルもないし」

「解毒薬を作る準備をしてくれ、ローズリーを持ってくる」

「持ってくるって、ローズリーはもう何処にもないのよ!?それにあったとしても極寒の地にしか咲かない場所にあるし、今行っても帰ってくる頃には…」

リアカの言葉を遮り、俺は研究所から出た。

確かにもしあっても、ここからローズリーがある場所まで馬車で行ってもかなりの時間がある。
往復だけでエルの体は持たない、それにエルを置いて国から離れるつもりはない。

種といえば、もう一つあった事を思い出した。

俺は部下達に聞いてヤマトの場所を聞いた。
ヤマトもいろいろとあって医務室で手当てしてすぐに仕事に戻ったと言っていた。

外回りをしているみたいで、俺も外に向かった。

ヤマトはあの時触手に絡まっていた、あの触手は種から出てきたと言っていた。
ならあれがローズリーの種だ、あれさえあればエルを治す事が出来るかもしれない。

種がどうなったか、エルと一緒に先に行ったから分からない。
だからあの場にいたヤマトなら知っているだろうと思ってヤマトを探している。
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