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黒い種

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ヤマトの足元を見ると、あの種が貝殻のように割れていて細い触手がヤマトの足に伸ばされて絡み付いていた。

もがくが、触手の力の方が強くてヤマトをずるずると引きずる。
ヤマトを助けに行きたいが、糸目の男に背中を踏まれて身動きが取れない。

「や、ま……」

「お前はいらない魔法使いだが、また計画に邪魔されたら困る…大人しくしてもらおうか」

そういう男は新しい種を出して、ヤマトに近付いた。
触手を電撃で麻痺させていて、男の存在には気付いていない。
今気付いているのは俺だけだ、ヤマトを助けないと…

大きな声は腹の痛みで出なかった、だから俺の上に乗る糸目の男の足を掴んだ。
退かそうとしても体重を掛けられてびくともしない。
それどころか嘲笑ってすらいる。

糸目の男の足が後ろにあるから、叩いても力が出ない。
拳を地面に叩きつけると、小さな砂埃が舞った。

それを掴んで、思いっきり後ろに向かってかけた。
糸目の男の目までは届かないし、無駄だけどそれでも俺の抵抗はそれしか出来なかった。
自分の体の上に小石とかが降りかかっていて、糸目の男は首を傾げていた。

「何それ、攻撃してるつもりなん?」

ぐりぐりと背中を踏みつけられて、俺の体の上にある小石を踏んだ。
糸目の男が少しだけ足を滑らせたのが見えて思いっきり立ち上がった。

さっきまでは立つ事も出来なかったが、糸目の男はバランスを崩した。
その一瞬は俺にとっての最大のチャンスだった。

もう男はヤマトの目の前にいて、腕を伸ばして走る。
「ヤマトッ!!」と大きな声が出せて、ヤマトは目の前をやっと見た。

でも既に男はヤマトの前にいて、手の中にある種を落とした。

男とヤマトにぶつかる事なんて気にせず突進した。

種が俺の手に触れた感触がして、地面に転がって倒れた。

「弟くんっ!!」

「うぐっ……だ、大丈夫?」

「俺は、大丈夫だけど」

ヤマトのその言葉を聞いて、俺は安心して手のひらを見た。
手に掴んだと思っていた種は何処にもなかった。
何処かで触手が現れたわけでも、何の異変もない。

ただの種のままだったなら、こんな広い場所で小さな種を探すのは気が遠くなる。

騒ぎによって誰かが通報したのか、複数の足音が聞こえた。
男達は背中を向けて、壁をよじ登って飛び越えていった。

最後ノアがこちらを見ていたが、何も言わなかった。

義賊集団を野放しに出来ないと思って追いかけようとした。
視界がぐにゃりと歪んで、足に力が入らなくなる。

「あ、あれ?」

「弟くん、何処か怪我でも?」

ヤマトはまだ触手に絡まっていたが、俺を心配していた。
自分の体なのに、自分の体がどうなったのか分からない。

足だけじゃなく、手も力が入らなくなっていく。

「エル!」というゼロの声が聞こえるのに、振り返る事も出来ない。

動かず、倒れそうになった体はゼロによって支えられた。
心配してくれているのに、何も言えずただ見ている事しか出来ない。

「エル、どうしたんだ?なにがあった?」

「ゼロ、俺が説明する…だから弟くんを医務室に運んであげて」

ヤマトに言われてゼロは、俺を抱いて移動した。
なんで、体が動かないんだよ…俺…変な体勢になって体に負担掛けちゃったのかな。

不安が不安を呼んで、どうすればいいのか分からない。
俺は医務室に連れて行かれて、ゼロはヤマトに話を聞くために医務室から出た。
俺一人、置いて行くのは心配だとリアカさんとルキアをわざわざ研究室から呼んでいた。

ゼロが二人に「エルを頼んだ」と言う声は、とても悲しそうで胸が痛かった。
大丈夫だよって言いたいのに、声が出なくて自分の体が嫌になる。

ゼロを悲しませるようなこんな体、いらない!

「うーん、何処も異常ないみたいだけど」

「あっ、ぐっ…あぁぁっ!!!」

「ちょっと!どうしちゃったの!?エルちゃん!」
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