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パーティー

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この船は大きな結界に包まれていて、魔法はこの中にいれば使う事が出来ないという。
結界のおかげで船は魔法には弱いが、魔法が使えないから関係ないらしい。
そのかわり剣や銃などの物理攻撃には強く、どんなに戦っても沈む事はないそうだ。

船が沈む心配はしなくていいが、義賊集団が船にいる事に関してはゼロも危ないじゃないか…義賊集団と出会ってもし間違いで悪役ルートに入ったらと思うと…

俺はヒロインと接触以上にゼロの周りを警戒しなくてはいけない。
弟だから俺もナイトハルトの護衛に参加させてくれたらいいんだけど…

「俺も護衛に参加出来ませんか?」

「…何を言ってるんだ、私が話したのはそういう意味ではない……危険だからあまり船内を出歩くなという意味だ」

やっぱりそうだよね、それにゼロの弟だからってゼロと同じように信頼されてるわけじゃないし…

俺はナイトハルトに「いろいろとご迷惑おかけしました」と頭を下げて部屋を出た。
義賊集団を見つけ出したいが、ナイトハルトみたいに「裸になれ」なんて言ったら今度こそ捕まってしまう。

今日の夜パーティーがあって、ほとんどの乗客が参加する筈だ。
義賊集団も必ずやってくる、多分……だから怪しい人を探せばいいんだ。

俺はノアと一緒にパーティーでの怪しい人がいないか探そうと約束した。

「エル、あんなところで何してたんだ」

「えっ!?な、何って?」

「空き部屋」

部屋に帰ってきたゼロは上着を脱ぐなり、ベッドで横になって本を読んでいた俺に迫ってきた。

疑われないように目が泳いでいるであろう顔を本で隠しながら聞く。
ゼロの手が本を持つ手と重なってビクッとしたが、絶対に本は手離さなかった。

……というか、なんで知ってるんだろう…ヤマトが言ったのか?ゼロに言わないでって言ったのに…

今はヤマトよりなんて言おうか必死に考えた、ゼロが俺の髪に触れていて聞き出そうとしている。
顔を赤くさせながらも、必死に言わないようにと我慢する。

「た、探険だよ…船乗るの初めてだから」

「…………エル、誰が乗ってるか分からないんだ、部屋で大人しくしていてくれ」

「……うん」

ゼロは納得してくれたのか、髪に触れていた手が離れていった。
ギリギリだけどバレなくて良かった、でもこれでますます自由に行動が難しくなったな。

本から顔を出すと、すぐに唇をゼロの唇で塞がれた。
「可愛い顔が出てきたな」と微笑まれて、さっきそれをやられなくて良かったと胸を撫で下ろした。
こんな顔されたら、何でも話したくなってしまうから…

今日はパーティーで迎えに行くまで会場から出ない事をゼロと約束した。
行く道は一緒だからゼロと一緒に会場まで行く事になり、ゼロは仕事だけど俺は何だか嬉しかった。
ゼロがいない時間は寂しくて、ゼロを堪能するために手を握った。

今日はいつもと違っておしゃれして、髪もゼロからいつかの誕生日でもらった金色の小さな蝶の髪飾りで前髪を留めていた。
ちょっと女の子っぽいとは思ったが、せっかくゼロがくれたんだし…一度は付けてみようと思っていた。

「似合ってるよ、エル」

「ありがとう、兄様」

どんなデザインでも何よりも、俺はゼロに褒められるのが一番嬉しい。

廊下を歩くと、すれ違う人のほとんどが俺達の方を振り返っている。
年齢層が幅広い女性達はゼロに熱い視線を向けて居て、ゼロの傍に寄る。

俺の耳元で生暖かい息遣いを感じて、そちらを思いっきり振り返った。
はぁはぁと息が荒い男が俺を熱い眼差しで向けていて、顔が引きつった。

もう成長したし、こういう変態はもういなくなったと思ったのにまだいたのか。
男はゼロの顔を一瞬だけ見て、真っ赤なゆでダコのような顔がみるみる真っ青になって何処かに逃げていった。
いきなりどうかしたのだろうかとゼロの顔を見ようとしたら、肩を掴まれて引き寄せられた。

チョロチョロ動くと危ないから肩を抱いてくれたのかな、俺はゼロの温もりを感じられるからいいけどと会場までの道がずっと続けばいいのになと思った。

「エルを見ておけよ」

『分かっていますよ』

ゼロとノアがなにか小声で話していて、小さすぎて俺には聞こえなかった。
いつの間に仲良くなったんだろう、仲良くなったならいいけど…

会場に到着して、ゼロはナイトハルト達のところに行くために別れた。
会場の大きな扉を開けると、がやがやといろんな人の話し声と落ち着いたクラシックの音楽が聞こえた。
天井にぶら下がっている大きなシャンデリアが眩しかった。

会場いっぱいに敷かれた赤いじゅうたんの上を歩いて見渡す。

ドレスで着飾っている女性、女性をエスコートしている紳士…いろんな人達がいた。

白いテーブルクロスの上には色鮮やかな料理がたくさん並んでいた。

ウェイターの格好の男性がトレイにたくさんのお酒が入ったグラスを乗せてやってきた。

「お一ついかがですか?」

「いえ、俺…お酒は…」

「ならばあちらに果実水がございますので」

そう言って手を向けた方向にはグラスに入ったジュースが乗っているテーブルがあり、俺はお礼を言ってテーブルに近付く。
俺の好きな赤い果実のジュースを取って、ノアに勧めるが首を横に振った。

甘いにおいがするが乾杯するまで飲んではいけないので我慢する。

今のところ怪しい人はいないみたいだ、そりゃああからさまな奴はいないか。

会場の隅を見ると、ナイトハルトとゼロとヤマトがいた。
視界に入ると気が散ると思い、遠くから眺めていた。

するとパーティーの主催者である船のオーナーが、会場のステージに立っていた。
挨拶から始まり、話が長くてほとんど頭に入らなかった。

そして校長先生のような長い話が終わり、オーナーは手に持っていたお酒のグラスを高く上げていた。

「それでは、乾杯!」

『乾杯!』

会場にいる全員の声が重なり、それぞれ持っていたグラスに口を付ける。
俺もジュースを飲んで、なにか食べようかなとテーブルに近付く。

食べた事がない料理もあり、どうしようか悩む…あ…これ美味しそう。

見た目唐揚げのような揚げ物を皿に乗せて、いつもゼロに「サラダも食わないとダメだぞ」と言われている事を思い出して、サラダも盛り付ける。

立食パーティーだから立ってごはんを食べる、サラダを食べながら周りを警戒しつつゼロを見ていた。

リリィも会場の手伝いをしていて、リリィの場合はゼロと離れているところで料理の補充をしているからリリィは気にしなくていいかな。

『エル様、義賊集団らしき人はいませんね』

「うん、可笑しいな…パーティーには参加してないのかな?」

『ここに国の代表が集まっているので、来ると思っていたのですが』

ノアと一緒に首を傾げて、唐揚げらしきものを口に入れる。
中はひき肉になっていて、ポロポロと崩れてきて美味しい。

パーティーに来ていないとしたら、いったい何処にいるのだろうか。

そんな時だった、突然会場の電気がいっせいにバチバチと消えていった。
あちらこちらからどよめきが聞こえてきて、俺は周りを見渡してゼロを探すが真っ暗闇でゼロどころか自分が何処にいるのかも分からない。

『エル様危ない!』というノアの声が聞こえて引き寄せられたと思ったら、足元がぐらつき大きな爆発音が聞こえた。
どよめきが悲鳴に変わり、会場内はパニックになった。

手に持つ皿を落としてしまい、体がぐらついた……船が斜めになってる?

避難誘導する声があちこちから聞こえる中、ゼロが俺を呼ぶ声が聞こえた。

「兄様!俺はここだよ!」

『エル様、床が不安定なので動いては危ないです』

ノアの言っている事は分かる、だけどこの騒ぎの原因がアイツらならゼロが危ない。
俺は少し慣れてきた暗闇でゼロを探すと、ヤマトが手に雷をまとって辺りを少し照らしていた。

ナイトハルトの周りだけだけど、ゼロ達の場所が分かるからまっすぐ行ける。
ノアから離れて、ゼロがいる方向に走っていく…ノアの声が後ろから聞こえる。

ゼロも俺が見えたのか走って来るのが見えて距離がだんだん近付いてくる。
ゼロに向かって手を伸ばしたら、急に視界が真っ暗になった。

ヤマトが雷を消したのかと思ったら、なにかにぶつかった。
暗くなったんじゃなくて、遮られたからヤマトの雷が見えなくなった。
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