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行方不明
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※ゼロ視点※
「おいおいゼロ、そんなにピリピリすんなよ…犯罪者も逃げちまうだろ?」
「…うるさい」
ヤマトの雑音のような声を無視して、馬車から見える景色を眺めた。
盗品を正規ではない闇ルートで売りさばく密売集団がいるという情報が入ってきた。
そこは密売現場としては文句なしの人気がない取引しやすい場所だった。
あそこの森は危険植物として騎士団が認定した「ウッドマン」と呼ばれる木や、獰猛な野良使い魔も生息しているとても危ない場所だ。
今日は士官学科の課外授業で生徒達も同行している。
俺も士官学科に通っていたから経験がある、危険な仕事は俺達がやるから他の生徒達は調査をしている別の班の連絡係や、離れている他の騎士達を呼びに行く連絡……つまり連絡係だけをやらせている。
俺に近付いて、憧れがなんだと言っていて俺はそれどころではなかった。
……何故、エルがこの森にいるんだ?
士官学科はここが課外授業だが、他の学科も別のところで授業の筈だ。
まさか、エルは士官学科の授業を受けていたのか?
確かに何処の士官学科か俺は知らない、探知機も学校の中にいる事しか分からず何処の学科かまでは分からない。
エルに聞いてもやんわりとはぐらかされて、しつこく聞くと嫌われてしまうと思って聞かなかった。
エルは鍛えたいと言っていたが、料理も好きだから将来は料理人になると思っていた。
それは、騎士団の仕事にあまり興味がなさそうだったからだ。
……でも、もし…エルが士官学科にいるというなら…
今は何も言わない、ただただエルの無事だけを願う。
何も言ってないのに、隣にいるヤマトには俺の怒りが伝わっているみたいだ。
「快楽でぐずぐずにさせて学校に行けない状態にしとけばよかった」
「……何だかよく分からないが、こぇーよ」
俺が暴れてエルを探しに行かなくて済んでる安定剤のようなものがあるからギリギリ仕事が出来る。
白い球体に触れると光魔法の電子モニターが写し出される。
簡単な地図だが、何処にいるのか動きですぐに分かる。
映像や音声が見える高性能のものはなかなかなくて、今はこれで安否が分かる。
エルが森の中を動いている、このGPS型の魔導具の唯一の欠点はエルしか分からない事だ。
建物や場所なら分かるが、野良使い魔とかがエルの前に現れたか分からない。
だからエル自身が変な動きをしているか確認する必要がある。
「ゼロ、もうすぐ情報にあった取引現場に到着するってよ」
「……ん?」
昨日の夜に取引が行われたとされる取引現場に向かっている途中だった。
そこにはもう密売集団はいないだろうが、なにか証拠を落としているかもしれない。
そして今日も誰かとこの森で取引をするという情報があり、そこの現場を探し出して捕まえる…それが今日の仕事だ。
しかし俺は眉を寄せて考え事をしていた、仕事の事ではない。
さっきまでエルは動いていた、それが急にピタリと動きを止めたんだ。
ただ足を止めただけならいいが…そうでないとしたら…
倒れているとか、なにかから逃げて物を落としたとしたら危険だ。
俺は馬車にここで降ろすように伝えると、少しして馬車が走るのを止めた。
「おいゼロ!お前何処に行くつもりだよ!」
「取引現場の情報集めはお前一人で行け!俺は用事がある!」
「はぁ!?」
「直接捕まえる時には間に合わせる!魔導通信機で場所を教えてくれ!」
まだヤマトがなにか言っていたが、それを無視して走り出した。
エルの無事が確認出来たらすぐ戻るつもりだ、無事ならそれでいい…無事なら…
地図を頼りにして、草を掻き分けながら森の中を駆け出す。
だんだんとエルの場所を示す印に近付いてくる、まだエルは動いていない。
そしてエルの傍まで到着したと思ったら声が聞こえた。
胸がざわついて吐き気を覚える、それはエルを呼ぶ誰かの声だ。
急いで声の主のところまで走ると、数人の制服に身を包んだ生徒と前にいたのは大人の男だった。
見た事がないが、課外授業だと言っていたから教師だろう。
俺が近付くと教師も気付いたのか慌てた様子で近付いてきた。
「なにがあった?」
「ぜ、ゼロ様!申し訳ございません!!」
教師は俺の顔を見て怯えていて全く会話になっていない。
とりあえず話を聞くとエルが行方不明という事だけは分かった。
俺はエルが居ようが居まいが印が示す場所に向かおうと走り出した。
ウッドマンが枝を伸ばしている危険な場所に印が示していて、枝を払いながら進むと地面にいくつか物が落ちているのが見えた。
その中に部屋の鍵にくっついている黒猫のマスコットが見えた。
俺がエルにあげた探知の魔導具だ、これが示していたのか。
エル…何処に行ったんだ……もう怒らないから、無事で帰ってきてくれ。
後ろからウッドマンの枝が迫ってきた、エルになにかあったとしたらコイツがエルになにかしたのは確実だろう。
枝を掴むと、触れた場所から冷気が溢れだして凍っていく。
すぐに全身が凍ってしまい、ウッドマンは動きを止めた。
剣を引き抜き、粉々に粉砕して大きな音を立てて地面に落ちる。
…ダメだ、まだ気分が治まらない……エルが、いない。
ぐらっと体がよろけて、何の変哲もない木に寄りかかる。
手や足元など、俺が触れている場所が凍っていき広がっていく。
吐く息が白くなり、真っ赤な瞳で目の前を見つめた。
「……エル、エル」
ボーッとした思考の中、そう呟きながら凍った地面を利用して走った。
走るというより滑っているようで、いつもより早く移動出来る。
「おいおいゼロ、そんなにピリピリすんなよ…犯罪者も逃げちまうだろ?」
「…うるさい」
ヤマトの雑音のような声を無視して、馬車から見える景色を眺めた。
盗品を正規ではない闇ルートで売りさばく密売集団がいるという情報が入ってきた。
そこは密売現場としては文句なしの人気がない取引しやすい場所だった。
あそこの森は危険植物として騎士団が認定した「ウッドマン」と呼ばれる木や、獰猛な野良使い魔も生息しているとても危ない場所だ。
今日は士官学科の課外授業で生徒達も同行している。
俺も士官学科に通っていたから経験がある、危険な仕事は俺達がやるから他の生徒達は調査をしている別の班の連絡係や、離れている他の騎士達を呼びに行く連絡……つまり連絡係だけをやらせている。
俺に近付いて、憧れがなんだと言っていて俺はそれどころではなかった。
……何故、エルがこの森にいるんだ?
士官学科はここが課外授業だが、他の学科も別のところで授業の筈だ。
まさか、エルは士官学科の授業を受けていたのか?
確かに何処の士官学科か俺は知らない、探知機も学校の中にいる事しか分からず何処の学科かまでは分からない。
エルに聞いてもやんわりとはぐらかされて、しつこく聞くと嫌われてしまうと思って聞かなかった。
エルは鍛えたいと言っていたが、料理も好きだから将来は料理人になると思っていた。
それは、騎士団の仕事にあまり興味がなさそうだったからだ。
……でも、もし…エルが士官学科にいるというなら…
今は何も言わない、ただただエルの無事だけを願う。
何も言ってないのに、隣にいるヤマトには俺の怒りが伝わっているみたいだ。
「快楽でぐずぐずにさせて学校に行けない状態にしとけばよかった」
「……何だかよく分からないが、こぇーよ」
俺が暴れてエルを探しに行かなくて済んでる安定剤のようなものがあるからギリギリ仕事が出来る。
白い球体に触れると光魔法の電子モニターが写し出される。
簡単な地図だが、何処にいるのか動きですぐに分かる。
映像や音声が見える高性能のものはなかなかなくて、今はこれで安否が分かる。
エルが森の中を動いている、このGPS型の魔導具の唯一の欠点はエルしか分からない事だ。
建物や場所なら分かるが、野良使い魔とかがエルの前に現れたか分からない。
だからエル自身が変な動きをしているか確認する必要がある。
「ゼロ、もうすぐ情報にあった取引現場に到着するってよ」
「……ん?」
昨日の夜に取引が行われたとされる取引現場に向かっている途中だった。
そこにはもう密売集団はいないだろうが、なにか証拠を落としているかもしれない。
そして今日も誰かとこの森で取引をするという情報があり、そこの現場を探し出して捕まえる…それが今日の仕事だ。
しかし俺は眉を寄せて考え事をしていた、仕事の事ではない。
さっきまでエルは動いていた、それが急にピタリと動きを止めたんだ。
ただ足を止めただけならいいが…そうでないとしたら…
倒れているとか、なにかから逃げて物を落としたとしたら危険だ。
俺は馬車にここで降ろすように伝えると、少しして馬車が走るのを止めた。
「おいゼロ!お前何処に行くつもりだよ!」
「取引現場の情報集めはお前一人で行け!俺は用事がある!」
「はぁ!?」
「直接捕まえる時には間に合わせる!魔導通信機で場所を教えてくれ!」
まだヤマトがなにか言っていたが、それを無視して走り出した。
エルの無事が確認出来たらすぐ戻るつもりだ、無事ならそれでいい…無事なら…
地図を頼りにして、草を掻き分けながら森の中を駆け出す。
だんだんとエルの場所を示す印に近付いてくる、まだエルは動いていない。
そしてエルの傍まで到着したと思ったら声が聞こえた。
胸がざわついて吐き気を覚える、それはエルを呼ぶ誰かの声だ。
急いで声の主のところまで走ると、数人の制服に身を包んだ生徒と前にいたのは大人の男だった。
見た事がないが、課外授業だと言っていたから教師だろう。
俺が近付くと教師も気付いたのか慌てた様子で近付いてきた。
「なにがあった?」
「ぜ、ゼロ様!申し訳ございません!!」
教師は俺の顔を見て怯えていて全く会話になっていない。
とりあえず話を聞くとエルが行方不明という事だけは分かった。
俺はエルが居ようが居まいが印が示す場所に向かおうと走り出した。
ウッドマンが枝を伸ばしている危険な場所に印が示していて、枝を払いながら進むと地面にいくつか物が落ちているのが見えた。
その中に部屋の鍵にくっついている黒猫のマスコットが見えた。
俺がエルにあげた探知の魔導具だ、これが示していたのか。
エル…何処に行ったんだ……もう怒らないから、無事で帰ってきてくれ。
後ろからウッドマンの枝が迫ってきた、エルになにかあったとしたらコイツがエルになにかしたのは確実だろう。
枝を掴むと、触れた場所から冷気が溢れだして凍っていく。
すぐに全身が凍ってしまい、ウッドマンは動きを止めた。
剣を引き抜き、粉々に粉砕して大きな音を立てて地面に落ちる。
…ダメだ、まだ気分が治まらない……エルが、いない。
ぐらっと体がよろけて、何の変哲もない木に寄りかかる。
手や足元など、俺が触れている場所が凍っていき広がっていく。
吐く息が白くなり、真っ赤な瞳で目の前を見つめた。
「……エル、エル」
ボーッとした思考の中、そう呟きながら凍った地面を利用して走った。
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