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ヤマトの訪問

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※エル視点※

「くそっ!覚えてやがれ!!」

古典的な悪役の捨て台詞を吐き出して、二人の男は走り去って行った。
慌てているからか軽く足がつまづいて転けているのを見てから後ろを振り返った。
そこには何の変哲もないただの廊下が広がっていた。

いじめていた奴よりいじめられていた子の方が逃げるのが早かった。
逃げられるのはもう慣れたけど、いまだにぼっちなのは慣れそうにない。
学校に登校して早々に廊下で複数の男達からカツアゲをされている子を見つけた。
カバンを奪われて、泣きそうな顔をするが魔法使いには逆らえないからかジッとしていた。

俺はいつものようにその子を背にして魔法使い達と戦った。
体格差もあり、頬を殴られてしまったがやり返してなんとかなった。

この学校でこんな事をしているのはきっと俺だけなのだろう。

俺もゼロにとってのヤマトみたいな相棒がほしいなぁ…

こんなんで今度やる課外授業大丈夫だろうかと不安になる。

教室に入ると、俺の姿を見て皆目を逸らす。
すっかり嫌われてしまったな、こんなんで相棒どころか友達すら出来ないよな。

今日担任がHRで課外授業について説明していた。
一グループ5人で集まり、課題をこなすという内容で課題は当日まで知らされないそうだ。
一年生の時はなかったから初の課外授業という事で遠出はしないで日帰りで帰れる場所に行く事になっている。

説明と同時に渡された課外授業のパンフレットには、聖霊せいれいが住んでいると言われている綺麗なスカイブルーの湖がある森の中で行われるそうで、クラスメイト達ははしゃいでいた。
俺もこの王都を出るのが初めてで、外れにある森は勿論初体験だ。
ちょっと浮かれているのと同時に困った事もある。

日帰りとはいえいつもより帰りが遅くなるだろう、ゼロになんて言おうか悩む。
学校の授業という事は嘘を付きたくないが、士官学科なのは言っていないからどう上手く言おうか悩みながら校舎を出た。
もうゼロに隠し事をしないって決めたんだ、ちゃんと言おう。

もしかしたら学校を辞めさせられるかもしれない、でも…ちゃんとゼロと向き合えばきっと通じるって信じてる。

学校が終わって、急いで帰ろうと思って校舎を出た。
今日はバイトはおやすみだけど、ゼロが帰るまでに夕飯の準備をして待っていたいと思っていた。
最近凄い疲れて帰ってくるゼロが心配だ…いっぱい栄養になるもの作らないと…

すると何処からかキャーキャーという女の子達の声が聞こえた。
声のする門前を見ると女の子だけじゃなくて男までもその騒ぎの中心人物を見ようと集まってきた。
有名人でも来たのだろうか、俺も気になり近付く。
ちょっとだけ見たら帰ろうと思っていたが、不思議と士官学科の見た事がある生徒が多い気がした。

俺からだと生徒達が壁になっていて誰がいるのか見えなかった。
そのまま素通りしようとしたら中心人物の声が聞こえてきた。

「あー、ごめんごめん…ちょっと道あけてくれない?」

明るく、人に囲まれているのに優しげな声で話しかけている聞き覚えがある声が聞こえて、歩く足を止めてその人物のいる方に目線を向けた。
するとちょうど相手も生徒の群れから抜け出しているところで俺と目が合った。

俺を見つけるなり満面の笑みで手を大きく振っていた。
周りの視線がチクチクと突き刺さり、苦笑いしながら手を小さく振り返した。

俺がゼロの弟だと知っている人は多く、その繋がりでヤマトとも知り合いだったら別に変な事ではない。
でも全員が俺の名前を知っているわけがなく、ちらほらと「何アイツ、ヤマト様とどういう関係?」とか「ヤマト様!そんな奴に笑いかけないで!」と嫌でも耳に入ってくる。

ヤマト人気者だなぁとどこか他人事のように聞き流していた。
そういう声はゼロと一緒にいるとよく聞くから慣れていた。
ヤマトもゼロほどではないにしろ、ファンは多い。
話しやすいし、ヤマトも美形だからなんだろう。

俺もヤマトの事は好きだ、ゼロとは違う意味なのは勿論だけど…

「よっ!弟くん!」

「こんにちはヤマト、兄様は?」

「今日のゼロは新人の稽古をしてるぞ」

今日はゼロはいないのか、でもヤマトも騎士服を着ている。
もしかしてサボり?と疑いの眼差しでヤマトを見つめると、すぐにヤマトは勘づいて慌てて「俺も仕事中でたまたま通りかかっただけだよ!」と言っていた。

ヤマトはゲームでも不真面目でよく仕事をサボっているから疑われ慣れているのだろう。
お互い変な事に慣れてしまっているなと勝手に共感していた。

でもたまたま通りかかったにしては大勢に囲まれていたけど、まるで誰かを待っていたかのようだった。
誰かと待ち合わせしてたのだろうか、ヤマトは攻略キャラクターだけど俺とゼロみたいに他のは人に恋をしたりするのだろうか。
全く浮ついた話を聞かないヤマトに意外と一途なのかも…と思う。
もしヤマトに好きな人が出来たら応援する、俺とゼロを助けてくれた人だから俺もいつか恩返しがしたい。

可能性が一番高いのはヒロインだが、たまに兵舎でヒロインを見かけるが男と歩いているところを見た事がない。
もうゲームが始まってるから、興味を示しても不思議じゃないのにな。

ヒロインが誰とも一緒にいないと、ゼロルートに行ってそうで怖いんだ。
ゼロルートはゼロ以外とヒロインが交流しない話だ。
ヤマト達に拾われる事なくゼロにヒロインが拐われて、そこで一緒に過ごすうちに愛が芽生えるという内容だ。

ヤマトとヒロインがどういう関係なのか探るために自然を装って聞いてみた。

「日菜子さんとはどうなってるの?」と聞いたらヤマトはキョトンとした効果音がとてもよく似合いそうなほどの間抜け面になった。

さすがに急すぎて怪しまれただろうか、でもストレートに聞く事しか俺には出来なかった。

「え?なんで日菜子ちゃん?」

「いや、何となくヤマトの好みっぽい感じがしたからさ」

そう言うとヤマトは「あー、そう、うーん」と歯切れが悪そうに呟いていた。
ヒロインの日菜子の対しての態度ではないように思う。
聞かれたくない事があるって事なのかな、気になるが無理に聞くのはヤマトが可哀想だ。

ヤマトは誰かと待ち合わせしていたわけではないのか、校舎から出てくる人を見ていない。
もしかしたら俺に用があったのだろうか、兵舎でいつも会えるのにわざわざ来なくても良さそうなのに…

ヤマトは「俺も兵舎に戻るつもりだったから一緒に帰ろう」と言って、断る理由もないから頷いた。
何だかさっきまでの元気がなくなって、思い詰めているようなヤマトの顔がとても気になった。

もしかしてヒロインの話?そんなに嫌だった?

ヒソヒソと俺達の関係を推理する駄々漏れの内緒話をする周りの目からやっと逃れられて、俺達は街中を歩いていた。

「ヤマト、なんか無理して笑ってるみたいだけど大丈夫?」

「弟くんは鋭いなぁ、そんなに顔に出てる?」

「普段ヤマトは顔に出やすいから」

「ははっ、なるほど…ちょっと弟くんに聞きたい事があってね」

苦い顔をして笑ったヤマトは、一度口を閉ざしてから「ゼロは元気?」と不思議な事を聞いてきた。
どうやらヤマトが気にしていたのはヒロインの事ではないようだ。

ゼロ?今朝は普通に一緒に朝食食べて行ってきますのキスをしたけど、なんでそんな事を知りたいんだろう。
ヤマトだってゼロに会っただろうし、分かりそうなものだが…

俺は特に何も変化は感じられず「元気だよ」と答えた。
それなら良いんだと会話が終わってしまい、ゼロに何があったんだと不安になりヤマトに詰め寄る。

ヤマトがいつ悪役になるか分からない、少しの異変も逃さないようにしなければ…
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