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.その後の話

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25※エル視点※

ヤマトに協力してもらいゼロを屋敷に一緒に運んだ。
その間、ヤマトは好奇心の塊のように俺に質問攻めをしていた。

普段ゼロは滅多に自分の事を話さないそうだ。
弟がいる事も知らなかったと、当の本人に向かって愚痴を溢していた。

ゼロが無反応なのをいい事に言いたい放題だ。

ゼロが話したくない事を俺がペラペラと話すわけにはいかないから、ゼロはいいお兄ちゃんですとだけ答えた。
騎士団の中のゼロはどうなのか知らないから何とも言えないが、何故かヤマトは嘘だと疑っていた。

優しくないのだろうか、ゲームではそもそもゼロとヤマトは敵同士だったから元はどういう関係だったのか分からない。
ヤマトがゼロの日常を知らないように、俺もゼロの仕事ぶりを知らない。

俺が知らないゼロに興味があるが、勝手に聞くのはいい気はしないだろう。
でも、ちょっとだけなら…許してくれるだろうか。

「兄様は騎士団の中でどんな人なんですか?」

「仏頂面」

即答でヤマトが答えて、俺に向かって変顔をしてくる。
ゼロはそんな顔しないと思いながらもつい笑ってしまう。

ゲームのヤマトもこうして人を楽しませる陽気な性格だった。
ヤマトがいるだけで、場の空気は明るくなった。
でも嫌な事は追求したりしない、だからゼロは安心しながら共に仕事が出来るのだろうな。

ヤマトを屋敷に上がらせて、勝手にゼロの部屋に入るのはちょっと申し訳なく思い俺の部屋で寝かせた。

そしてゼロは起きて早々に俺を抱きしめてきた。
どうしたのか分からず、とりあえずゼロの背中を撫でた。

「兄様、具合は大丈夫?何処か痛いところはない?」

「……エル」

「………俺もこんな可愛い弟がほしいなぁ」

ヤマトは何を考えているのか、俺を後ろから抱き締めてきた。
ゼロは俺を見て安心した顔をしていたのに、みるみる顔色が変わっていく。
ヤマトがゼロをからかっている、普段は見れない珍しい光景だった。
ゼロは眉を寄せて俺とヤマトを引き剥がそうとして、ヤマトの肩を掴んでいた。

それでもヤマトは俺から離れず、更にギュッと抱きしめてきた。
ゼロに触れられたようなドキドキはしないし、ちょっと苦しい。

ゼロの怒りを更に買い、ヤマトの胸ぐらを掴んだ。

ゼロはまだ病み上がりだから少し体がよろけていて慌てて支える。
なんであの時ヤマトがゼロに触れようとしたのか聞くと、ヤマトが調合した薬を飲ませるためだったそうだ。

無理矢理ゼロの口を指でこじ開けようとしたところ俺の声に気付いたらしい。
自分で飲めとゼロに薬を渡してヤマトはくまのぬいぐるみに寄りかかる。

ヤマトがくまのぬいぐるみと一緒にいると、なんかシュールだな。

ゼロは小瓶を傾けて薬を一気に喉に流し込んだ。

「…ヤマト、アイツらは?」

「ん?新人くんは病院だよ、リー団長は…どうだろうね…本人は暴力は躾だって言ってるけど……まぁ俺が言えば何かしら処罰はあるだろう」

「………お前、父親の権力は使いたくないんじゃなかったか?」

「リー団長には前々からイラついてたから、やっと証拠掴めたって感じだからいいよ」

二人の会話は分からない部分もあるが、何となく内容を理解していた。
ゲームでヤマトについての話を知っているからだろう。

ヤマトの父親は昔騎士団長であり、腕力より頭脳を得意とする人だった。
ヤマトの父親も当時の上級階級にしては変わり者で、人間も魔法使いも同じだと考える人だった。

まだ奴隷だと思っている魔法使いもいるが、人間を奴隷にする制度を廃止した。
これで人間を飼う魔法使いは表では居なくなった。
人間に感謝されて魔法使い達に嫌われていた人。

でも、正義の味方…という人ではなかった。

騎士団員の弱味を握り、脅すような事もしていたそうだ。
だから彼を知る騎士団員達は彼には逆らえない。
弱い者を支配するより強い者を支配したかったようで、人間より強い魔法使いを奴隷にしたかったのかもしれない。

父親は敵国との戦いに負傷して、騎士団を引退した。
致命傷ではないが、片腕が全く動かなくて騎士団の足でまといにはなりたくないと自ら辞めた。

そんな父親とヤマトは昔から意見が合わず衝突していた。
だからヤマトにとって父親に頼むのは不本意なのだろう。
強い騎士団長を潰すと聞いたらきっと喜んで協力するだろう、そういう人だと記憶している。
でも、それでもヤマトは今の騎士団長のやり方に気に入らないのだろう。

大嫌いな父親に頼むほどに…

「兄様、明日はゆっくり休んだ方がいいよ…学校には俺から伝えるから」

「弟くんはゼロの傍にいてあげてよ、連絡係は俺が引き受けるからさ」

そう言ったヤマトはスマートなウインクをして立ち上がった。
俺とゼロに手を振って部屋から出ていき、俺達は二人きりになった。

ヤマトがいた時普通に喋れたのにいなくなってから何を話したらいいか分からなくなる。

俺、精神世界とはいえゼロに触られたんだよな。
あんな恥ずかしい声を出して、変な奴だと思われたかもしれない。
ゼロは覚えているのだろうか、あの時した事…
ゼロの顔がまともに見れずに下を向くと「エル」と俺を呼ぶ声が聞こえた。

顔を上げるとゼロが俺を見つめて微笑んでいた。

「ありがとう、俺を助けてくれて」

「ううん、俺が余計な事しなければ兄様は」

「そんな事ない、そのおかげで俺はいろいろと吹っ切れたからな」

「吹っ切れた?」

確かにゼロはいつもより晴れやかな顔をしているが何を吹っ切れたのか分からない。
頬を撫でられて自然と顔が近付いてきて唇が合わさる。

いつものおかえりのキスの筈なのにいろんな感情が込められている気がした。
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