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教師3年目

練習はすればするほど得

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「姉弟で得意とされる魔法属性が違うのは、ひとえに最初に何属性に触れたかだと考えられる。アンの場合は火だし、キリシュライトは水だ。これは王城の教育係に聞いて裏をとってある。王様の雷にしても、逸話が残ってるくらいには王城では常識らしい」 
「逸話とは?」 
「若かりしときの王様。まだろくに言葉も話せなかった頃。メイドに抱えられて夜の雷を見たとき。ふと窓の外に見えた雷に手を伸ばした王様は轟音とともに手から雷を放ったと」 
「えぇ……」 

生徒たちは顔を引きつらせる。 
俺だって最初に聞いたときは同じ反応をした。 
どんな天才も、最初は詠唱の練習から始める。 
あとは習得の速さや、それこそ魔力量による魔法の規模などによって天才か秀才かに分類されるのだろう。 
だが、王様はその工程をすべてすっとばして無詠唱で魔法を発動、窓枠ごと吹っ飛ばしたと聞いている。 

「あのおっさんが規格外なのは今更だからおいておくとしても、やはり最初に発動させた魔法が得意とされるのは間違いないだろう」 

風魔法が得意な人間が少ないのは、最初に目に見えずイメージが湧きにくい風魔法に最初に触れることなどほとんどないからだろう。 
では、何を以て得意としているのか。 

「例えばの話だが、今の俺にはアンが火魔法が得意だという認識はない」 
「?」 
「あの、今、話が飛びませんでしたか……?」 
「え、あ、そうか……。えーと……」 

生徒から指摘されて言葉に詰まるライヤ。 
ライヤにとって今更過ぎて説明を失念していた。 

「えっと、世間的には火魔法が得意だとされているアンだが、今は本人にもそんな意識はないはずだ。当然こなせる魔法の一つでしかない。これはひとえに数えきれないほどの反復練習の賜物だが、学生時代は確かにアンは火魔法が得意だった。学生時代に火魔法を除く魔法を反復練習によって同じ水準になったんだ」 
「……つまり?」 
「得意がなくなったと聞くと聞こえが悪いかもしれないが、いざというときにどんな属性でも出るまで特訓したんだ。このことによって、魔法は練習量によってほとんど属性差がなくせることがわかった。まぁ、今のところ俺とアンしか非検体がいないわけだが……」 

あまりにもデータは足りない。 

「考えてみれば最初に発動できた魔法属性が得意になるのは当然ではないか。人生で発動する機会が一番多いだろうから。なら、他の魔法も同じ量練習すれば同水準に達するのは当然ではあるだろ」 
「そ、それは、そう? ですかね……?」 

 暴論なのは百も承知。 
叶うことなら生まれたばかりの赤子に英才教育を施してこの理論が正しいことを証明したいが、さすがに王様も許してくれなかった。 
自分の子供で試すしかないだろう。 

 「ここまで言えば、わかるよな?」 
「え……?」 

ここで生徒たちは気づく。 
ライヤが、確かに笑っているのに感情を感じさせないような笑顔をたたえていることに。 

「とりあえず、血反吐はくまで他属性の魔法使ってみようか」 
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