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教師2年目
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「あら、アン。何かいいことがあったの?」
王城を移動していたアンはちょうどすれ違った王妃に声をかけられる。
「お母様、お暇ですか?」
「そりゃあ、もう。私の仕事なんてないようなものだもの」
王妃は優秀な人物である。
王国の実務を任せても上手くやれるだろう。
しかし、王妃という立場から敬遠されている。
曰く、国王に直訴して受け入れられやすい立場の人間が政治に関わるとよくないとか。
なら実子は良いのかという話にもなるが、そこはやはり生まれた時から王族であるかどうかが重視されるのだろう。
「では、少しお話を?」
「大歓迎よ。私の部屋に来るかしら?」
「そう、やっと手を出してもらえたのね」
「その前の記憶は消したいくらいですけど……」
「そんなものよ。男が女を大事に思うのは庇護欲が働いた時なんだから。むしろ、私は安心したわよ。アンにもそんな相手が出来たことにね」
「どういう意味ですか」
どういう意味も何も、言葉通りだと王妃は苦笑する。
人一倍才能に溢れ、努力も怠らない。
そして人の何倍も気が強いアンが素直に頼れる相手など、アンが学園に入学するまではいないだろうとまで王妃は考えていた。
実際には一人の男にメロメロになっているわけだが。
人生とはわからないものである。
「やっと形になったという事でもあるわね。結婚式を挙げてあげられていないのが心苦しいけれど……」
「いえ、無理を言って前倒ししたのは私たちですから。そこは理解しています」
国内ではアンの相手はライヤだという事でもう決定事項のようなものだが、国外となれば話は別だ。
聖王国はミリアリア経由で情報が伝わっているだろうが、犬猿の仲である帝国には正式な情報としては伝わっていない。
利用する余地があると考えているのだ。
「何度も言いますけど、ライヤとの関係を否定するような真似は許しませんよ?」
「もう、そんな怖いこと言わないの。あの人といい勝負するようなあなたたちに喧嘩吹っ掛けるようなことはしないわよ」
「イプシロン。気配を消して近づいてくるのは辞めろ」
「流石隊長。気づかれてしまいましたか」
テストも3日前に迫った放課後。
日も落ちて、街灯が灯りだした道を一人で歩いたライヤがふと茂みに話しかける。
「もうちょっと普通に現れることは出来ないのか」
「性分みたいなもので……」
思えば、イプシロンが正面からライヤの前に現れたことなど無かった気がする。
魔力の流れに気づいてイプシロンだと判別するのに時間がかかるから無駄に緊張してしまう。
勘弁してほしい。
「それで、フィオナじゃなくて俺のところに来たのはなんでだ?」
街路樹にもたれかかって木陰に身を隠したままのイプシロンとひそひそと話す。
「暗部としてはフィオナ様の部下ですが、軍としては隊長の部下のつもりですので」
「そもそも俺は軍属じゃない」
教師だって。
「冗談はさておき。我々が遠征に出そうなのです」
「遠征?」
「はい。国境付近の警戒にあたるのだとか」
「元諸国連合の土地か」
「その帝国と接している地になりますね」
少し考え、ライヤは疑問を口にする。
「厄介払いとか、捨て駒として使われるわけではないな?」
「もちろんです。むしろ、我々のような前線に出したい部隊を国境警戒にあてるなんて余裕があるなという印象ですね」
「そういう言い方は好きじゃない。やめておけ」
イプシロンの言葉は自分たちがB級以下で、戦場でよく前線に送られていたことからくる自虐だった。
ライヤが生まれる前から続いているこの部隊は隊員をつぎ足しながらここまで続いてきているのだ。
貴族の隊長が率いる部隊のように代替わりなどがないのが強みだが。
「それで、なんで俺にそれを?」
「? 上官に報告するのは当然のことでしょう?」
「だから上官じゃないって……。話は分かった。危険度は低いんだな?」
「普段と比べれば」
「お前らの普段が気になるけど……。あぁ、いや、言わないでくれ。まぁ、頑張ってくれ」
「失礼します」
ガサッと草が鳴る音がし、イプシロンの魔力が高速で遠ざかっていくのをライヤは感じる。
「慕われているのか何なのか……」
ライヤは再び、帰路についた。
王城を移動していたアンはちょうどすれ違った王妃に声をかけられる。
「お母様、お暇ですか?」
「そりゃあ、もう。私の仕事なんてないようなものだもの」
王妃は優秀な人物である。
王国の実務を任せても上手くやれるだろう。
しかし、王妃という立場から敬遠されている。
曰く、国王に直訴して受け入れられやすい立場の人間が政治に関わるとよくないとか。
なら実子は良いのかという話にもなるが、そこはやはり生まれた時から王族であるかどうかが重視されるのだろう。
「では、少しお話を?」
「大歓迎よ。私の部屋に来るかしら?」
「そう、やっと手を出してもらえたのね」
「その前の記憶は消したいくらいですけど……」
「そんなものよ。男が女を大事に思うのは庇護欲が働いた時なんだから。むしろ、私は安心したわよ。アンにもそんな相手が出来たことにね」
「どういう意味ですか」
どういう意味も何も、言葉通りだと王妃は苦笑する。
人一倍才能に溢れ、努力も怠らない。
そして人の何倍も気が強いアンが素直に頼れる相手など、アンが学園に入学するまではいないだろうとまで王妃は考えていた。
実際には一人の男にメロメロになっているわけだが。
人生とはわからないものである。
「やっと形になったという事でもあるわね。結婚式を挙げてあげられていないのが心苦しいけれど……」
「いえ、無理を言って前倒ししたのは私たちですから。そこは理解しています」
国内ではアンの相手はライヤだという事でもう決定事項のようなものだが、国外となれば話は別だ。
聖王国はミリアリア経由で情報が伝わっているだろうが、犬猿の仲である帝国には正式な情報としては伝わっていない。
利用する余地があると考えているのだ。
「何度も言いますけど、ライヤとの関係を否定するような真似は許しませんよ?」
「もう、そんな怖いこと言わないの。あの人といい勝負するようなあなたたちに喧嘩吹っ掛けるようなことはしないわよ」
「イプシロン。気配を消して近づいてくるのは辞めろ」
「流石隊長。気づかれてしまいましたか」
テストも3日前に迫った放課後。
日も落ちて、街灯が灯りだした道を一人で歩いたライヤがふと茂みに話しかける。
「もうちょっと普通に現れることは出来ないのか」
「性分みたいなもので……」
思えば、イプシロンが正面からライヤの前に現れたことなど無かった気がする。
魔力の流れに気づいてイプシロンだと判別するのに時間がかかるから無駄に緊張してしまう。
勘弁してほしい。
「それで、フィオナじゃなくて俺のところに来たのはなんでだ?」
街路樹にもたれかかって木陰に身を隠したままのイプシロンとひそひそと話す。
「暗部としてはフィオナ様の部下ですが、軍としては隊長の部下のつもりですので」
「そもそも俺は軍属じゃない」
教師だって。
「冗談はさておき。我々が遠征に出そうなのです」
「遠征?」
「はい。国境付近の警戒にあたるのだとか」
「元諸国連合の土地か」
「その帝国と接している地になりますね」
少し考え、ライヤは疑問を口にする。
「厄介払いとか、捨て駒として使われるわけではないな?」
「もちろんです。むしろ、我々のような前線に出したい部隊を国境警戒にあてるなんて余裕があるなという印象ですね」
「そういう言い方は好きじゃない。やめておけ」
イプシロンの言葉は自分たちがB級以下で、戦場でよく前線に送られていたことからくる自虐だった。
ライヤが生まれる前から続いているこの部隊は隊員をつぎ足しながらここまで続いてきているのだ。
貴族の隊長が率いる部隊のように代替わりなどがないのが強みだが。
「それで、なんで俺にそれを?」
「? 上官に報告するのは当然のことでしょう?」
「だから上官じゃないって……。話は分かった。危険度は低いんだな?」
「普段と比べれば」
「お前らの普段が気になるけど……。あぁ、いや、言わないでくれ。まぁ、頑張ってくれ」
「失礼します」
ガサッと草が鳴る音がし、イプシロンの魔力が高速で遠ざかっていくのをライヤは感じる。
「慕われているのか何なのか……」
ライヤは再び、帰路についた。
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