上 下
250 / 328
教師2年目

報告

しおりを挟む
「あら、アン。何かいいことがあったの?」

王城を移動していたアンはちょうどすれ違った王妃に声をかけられる。

「お母様、お暇ですか?」
「そりゃあ、もう。私の仕事なんてないようなものだもの」

王妃は優秀な人物である。
王国の実務を任せても上手くやれるだろう。
しかし、王妃という立場から敬遠されている。
曰く、国王に直訴して受け入れられやすい立場の人間が政治に関わるとよくないとか。
なら実子は良いのかという話にもなるが、そこはやはり生まれた時から王族であるかどうかが重視されるのだろう。

「では、少しお話を?」
「大歓迎よ。私の部屋に来るかしら?」


「そう、やっと手を出してもらえたのね」
「その前の記憶は消したいくらいですけど……」
「そんなものよ。男が女を大事に思うのは庇護欲が働いた時なんだから。むしろ、私は安心したわよ。アンにもそんな相手が出来たことにね」
「どういう意味ですか」

どういう意味も何も、言葉通りだと王妃は苦笑する。
人一倍才能に溢れ、努力も怠らない。
そして人の何倍も気が強いアンが素直に頼れる相手など、アンが学園に入学するまではいないだろうとまで王妃は考えていた。
実際には一人の男にメロメロになっているわけだが。
人生とはわからないものである。

「やっと形になったという事でもあるわね。結婚式を挙げてあげられていないのが心苦しいけれど……」
「いえ、無理を言って前倒ししたのは私たちですから。そこは理解しています」

国内ではアンの相手はライヤだという事でもう決定事項のようなものだが、国外となれば話は別だ。
聖王国はミリアリア経由で情報が伝わっているだろうが、犬猿の仲である帝国には正式な情報としては伝わっていない。
利用する余地があると考えているのだ。

「何度も言いますけど、ライヤとの関係を否定するような真似は許しませんよ?」
「もう、そんな怖いこと言わないの。あの人といい勝負するようなあなたたちに喧嘩吹っ掛けるようなことはしないわよ」




「イプシロン。気配を消して近づいてくるのは辞めろ」
「流石隊長。気づかれてしまいましたか」

テストも3日前に迫った放課後。
日も落ちて、街灯が灯りだした道を一人で歩いたライヤがふと茂みに話しかける。

「もうちょっと普通に現れることは出来ないのか」
「性分みたいなもので……」

思えば、イプシロンが正面からライヤの前に現れたことなど無かった気がする。
魔力の流れに気づいてイプシロンだと判別するのに時間がかかるから無駄に緊張してしまう。
勘弁してほしい。

「それで、フィオナじゃなくて俺のところに来たのはなんでだ?」

街路樹にもたれかかって木陰に身を隠したままのイプシロンとひそひそと話す。

「暗部としてはフィオナ様の部下ですが、軍としては隊長の部下のつもりですので」
「そもそも俺は軍属じゃない」

教師だって。

「冗談はさておき。我々が遠征に出そうなのです」
「遠征?」
「はい。国境付近の警戒にあたるのだとか」
「元諸国連合の土地か」
「その帝国と接している地になりますね」

少し考え、ライヤは疑問を口にする。

「厄介払いとか、捨て駒として使われるわけではないな?」
「もちろんです。むしろ、我々のような前線に出したい部隊を国境警戒にあてるなんて余裕があるなという印象ですね」
「そういう言い方は好きじゃない。やめておけ」

イプシロンの言葉は自分たちがBクラス以下で、戦場でよく前線に送られていたことからくる自虐だった。
ライヤが生まれる前から続いているこの部隊は隊員をつぎ足しながらここまで続いてきているのだ。
貴族の隊長が率いる部隊のように代替わりなどがないのが強みだが。

「それで、なんで俺にそれを?」
「? 上官に報告するのは当然のことでしょう?」
「だから上官じゃないって……。話は分かった。危険度は低いんだな?」
「普段と比べれば」
「お前らの普段が気になるけど……。あぁ、いや、言わないでくれ。まぁ、頑張ってくれ」
「失礼します」

ガサッと草が鳴る音がし、イプシロンの魔力が高速で遠ざかっていくのをライヤは感じる。

「慕われているのか何なのか……」

ライヤは再び、帰路についた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...