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教師2年目
バレンタインデー特番
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「さて、ライヤの居ぬ間になんとやらよ」
「いや、居ぬ間にというか、さっきすぐそこで追い出してませんでした……?」
第何回目かもはや定かではないカサン家家族会議が行われていた。
ただし、家長であるライヤの姿はそこにはない。
「それで、何の集まりです?」
「ヨルは知らないわよね。ライヤへのプレゼントをどうするかという話よ」
「? ライヤさんの誕生日って……」
「誕生日じゃないわ。バレンタインデーよ」
「「??」」
ヨルだけでなく、ウィルの頭の上にもはてなマークが浮かぶ。
「ライヤが言ってたのよ。どこかの国でこの日は女の子が男の子に甘いものを作ってプレゼントする日らしいわ」
「恐らくですけど、この大陸じゃないですよね? ライヤさんはどうやってそれを知ったんでしょうか?」
「知らないわ。ライヤのおかしな知識なんて今に始まったことじゃないでしょ」
「おかしだけにね~」
空気が凍るが、その空気を生み出したフィオナは我関せずといった様子。
「……それで、折角同士がいるのだから協力しましょうって話よ」
「協力と言っても、私にはフィオナさんみたいな料理スキルはないですし……」
「私もです……」
落ち込む2人をアンが慰める。
「気にしないことよ。私も出来ないから」
「そんなに胸を張ることでしょうか……」
「いいのよ。今年はフィオナが味方だから」
「教えてあげるよ~」
「「是非っ!」」
こうして女性陣の共闘が決まった。
「ちなみにですけど。去年までのバレンタインデー? はどうしてたんですか?」
「……がんばった結果マシなのを何個か……」
「あんまり休まないライヤが学校を休む数少ない機会だったよね~」
「ちょっと! それは言わないって……!」
「というわけで、買い出しに行くわよ」
「今からですか!?」
「? 当然でしょ?」
「なら、ライヤさんを外に放り出さなくて良かったんじゃ……」
「今頃外で震えてるかもしれませんね」
「可哀想~」
「な、何かやることくらいあるでしょ。ほら、早く行くわよ!」
ライヤを自作お菓子で体調不良に追いやっていたというのが判明してからアンの立場がすこぶる弱い。
彼女たちの間に上下関係がないその証左とも言えるだろうか。
「まず、前提としてライヤはあんまり甘いのが好きじゃないから、砂糖は入れ過ぎないようにね~」
フィオナによるお菓子づくり講座だ。
「皆作るものは違うけど、私が書いた通りにやればまず失敗はないから、ちゃんと守るようにね~」
「こっちの方がおいしそうとか思っても?」
「それで今まで失敗してきたのを忘れたのかな~?」
「わ、わかった。ちゃんとやるわ」
買い出しをしながらアン、ウィル、ヨルがそれぞれ作ろうと思ったもののレシピを即興でフィオナが書き起こした。
料理の才能に溢れすぎである。
「あのー、この湯煎というのは……」
「あ~、それはね~……」
それぞれがフィオナに質問をしながら順調にお菓子作りは進んでいく。
「そう言えば、フィオナさんは作らなくていいんですか? 私たちのフォローばかりで何も作っていないように見えるんですけど……」
「そうだね~。でも、心配しなくても大丈夫だよ~。私はもう作ってあるからね~。というか、当日に買い出しから作るのまでやる方がおかしいと思うよ~」
グサッ。
アンに何かが突き刺さる幻聴をその場にいる全員が聞いた。
「そんなだから今まで失敗してきたんだろうね~」
グササッ!
もうやめて、とっくにアンのライフはゼロよ!
「大事なのは愛とは言うけど、レシピを守る前提の話だよね~」
「……」
ガクリと膝をつくアン。
ニコニコと笑いながらなお追撃をやめないフィオナにウィルとヨルは戦慄する。
あ、この人敵に回したらダメな人だ……。
「それで、その恰好は?」
朝一番に放り出されたライヤが帰宅を許されたのはもう日も落ちる頃。
「プレゼントは私よ、的な~?」
4人ともがメイド姿で頭にリボンをつけている。
「止めろよ、アン」
「今私の立場は弱いのよ……」
真っ赤になっているアンに苦言を呈するが、謎の理由により聞き入れてもらえない。
何があったのか。
「「ご主人様、何でもお申し付けください」」
「じゃあ寝かせてくれ」
「「それは無理です」」
結局、普段と変わりはないかもしれない特別な1日だった。
「いや、居ぬ間にというか、さっきすぐそこで追い出してませんでした……?」
第何回目かもはや定かではないカサン家家族会議が行われていた。
ただし、家長であるライヤの姿はそこにはない。
「それで、何の集まりです?」
「ヨルは知らないわよね。ライヤへのプレゼントをどうするかという話よ」
「? ライヤさんの誕生日って……」
「誕生日じゃないわ。バレンタインデーよ」
「「??」」
ヨルだけでなく、ウィルの頭の上にもはてなマークが浮かぶ。
「ライヤが言ってたのよ。どこかの国でこの日は女の子が男の子に甘いものを作ってプレゼントする日らしいわ」
「恐らくですけど、この大陸じゃないですよね? ライヤさんはどうやってそれを知ったんでしょうか?」
「知らないわ。ライヤのおかしな知識なんて今に始まったことじゃないでしょ」
「おかしだけにね~」
空気が凍るが、その空気を生み出したフィオナは我関せずといった様子。
「……それで、折角同士がいるのだから協力しましょうって話よ」
「協力と言っても、私にはフィオナさんみたいな料理スキルはないですし……」
「私もです……」
落ち込む2人をアンが慰める。
「気にしないことよ。私も出来ないから」
「そんなに胸を張ることでしょうか……」
「いいのよ。今年はフィオナが味方だから」
「教えてあげるよ~」
「「是非っ!」」
こうして女性陣の共闘が決まった。
「ちなみにですけど。去年までのバレンタインデー? はどうしてたんですか?」
「……がんばった結果マシなのを何個か……」
「あんまり休まないライヤが学校を休む数少ない機会だったよね~」
「ちょっと! それは言わないって……!」
「というわけで、買い出しに行くわよ」
「今からですか!?」
「? 当然でしょ?」
「なら、ライヤさんを外に放り出さなくて良かったんじゃ……」
「今頃外で震えてるかもしれませんね」
「可哀想~」
「な、何かやることくらいあるでしょ。ほら、早く行くわよ!」
ライヤを自作お菓子で体調不良に追いやっていたというのが判明してからアンの立場がすこぶる弱い。
彼女たちの間に上下関係がないその証左とも言えるだろうか。
「まず、前提としてライヤはあんまり甘いのが好きじゃないから、砂糖は入れ過ぎないようにね~」
フィオナによるお菓子づくり講座だ。
「皆作るものは違うけど、私が書いた通りにやればまず失敗はないから、ちゃんと守るようにね~」
「こっちの方がおいしそうとか思っても?」
「それで今まで失敗してきたのを忘れたのかな~?」
「わ、わかった。ちゃんとやるわ」
買い出しをしながらアン、ウィル、ヨルがそれぞれ作ろうと思ったもののレシピを即興でフィオナが書き起こした。
料理の才能に溢れすぎである。
「あのー、この湯煎というのは……」
「あ~、それはね~……」
それぞれがフィオナに質問をしながら順調にお菓子作りは進んでいく。
「そう言えば、フィオナさんは作らなくていいんですか? 私たちのフォローばかりで何も作っていないように見えるんですけど……」
「そうだね~。でも、心配しなくても大丈夫だよ~。私はもう作ってあるからね~。というか、当日に買い出しから作るのまでやる方がおかしいと思うよ~」
グサッ。
アンに何かが突き刺さる幻聴をその場にいる全員が聞いた。
「そんなだから今まで失敗してきたんだろうね~」
グササッ!
もうやめて、とっくにアンのライフはゼロよ!
「大事なのは愛とは言うけど、レシピを守る前提の話だよね~」
「……」
ガクリと膝をつくアン。
ニコニコと笑いながらなお追撃をやめないフィオナにウィルとヨルは戦慄する。
あ、この人敵に回したらダメな人だ……。
「それで、その恰好は?」
朝一番に放り出されたライヤが帰宅を許されたのはもう日も落ちる頃。
「プレゼントは私よ、的な~?」
4人ともがメイド姿で頭にリボンをつけている。
「止めろよ、アン」
「今私の立場は弱いのよ……」
真っ赤になっているアンに苦言を呈するが、謎の理由により聞き入れてもらえない。
何があったのか。
「「ご主人様、何でもお申し付けください」」
「じゃあ寝かせてくれ」
「「それは無理です」」
結局、普段と変わりはないかもしれない特別な1日だった。
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