上 下
207 / 328
教師2年目

教師の理由

しおりを挟む
「え?」
「ライヤぁ~!」
「ぐふっ!」

思考がまとまっていないのに横から受けたタックルにより押し倒されるライヤ。

「本当にいいの!? お父様!?」
「う、うむ。だが、そういうことは個人的な場でするようにな……」

何もしねぇよ!

「どういう話の流れでそんな話に?」
「不思議なことではあるまい。ライヤ・カサンという人物の有用性は今まで自らが証明してきたであろう? そして、決め手となったのはやはり聖女か。いくら聖女の願いであれ、聖王国が簡単に聖女を王国に派遣してくると思うか?」
「それは思いましたけど……」
「つまり、ライヤを聖王国に引き込めれば上々だと聖王国が判断した、と王国は推測する。俺に限らずな。であれば、他国に流れてしまう前に王国につなぎとめておこうと考えるのは自然だろう?」
「ですが、アンと結婚するのには俺の格が……」
「そうだな。だから、お主に爵位をやる」
「は?」
「男爵位にはなるが、継承権を既に放棄しているアンには外聞的にもぎりぎり見合うだろう」
「えぇ……?」

少々不満げなライヤ。
ライヤの中で貴族に良いイメージなどほぼない。
もちろんフィオナなど例外はあるのだが、学生時代に貴族から散々嫌がらせを受けてきた歴史がある。
今は丸くなったとはいえ、先生になった直後もゲイルから平民だからという理由だけで決闘にまで発展した。
そんな貴族の一員になることに抵抗があるのだ。

「いいじゃない、ライヤ! さっさと受けましょう!」
「いや、でもさぁ……」
「ライヤだって結局は爵位が必要なのはわかっていたでしょ!」

そう、いかに王国内で認められても王族と平民との結婚などあり得ない。
少なくとも他国には王族の相手がそれなりに身分であることを示す必要がある。
そうでなければ、必要以上に軽んじられてしまう可能性がある。
王家の娘を平民に嫁がせるような国だぞと。

だが、ライヤは貴族にはなりたくなかった。
したがって、どうにか平民でもいけるような仕組みを作ろうとしていたのだ。
具体案は全くなかったが。

「今を逃したら次はいつになるかわからないのよ? ねぇ、ライヤ……!」

いつになく必死に懇願するアン。
ライヤだってわかっている。
どれだけこれが恵まれた機会なのか。

「1日だけ猶予くれませんか?」
「1日でいいのか?」
「あんまり長くても意味ないと思うので」
「よかろう」

とりあえず、ライヤはアンを連れて王城を後にした。




「答えは決まってるわよね? 決まってないと怒るわよ」
「いや、怖いよ……。大丈夫、答えは決まってる。ちょっと時間が欲しいだけだ」
「……ならいいけど」

王都の外側の草原。
そこで背中合わせに座る。
時刻は昼過ぎ、太陽光が温かく気持ちよい。
さわさわと鳴る草の音が優しく聞こえる。

「俺は貴族っていう制度が嫌いなわけじゃないんだ。尊敬できる人だっているし、国営を担っているのも貴族たちだ。結果論だけど、それで王国はちゃんと回ってる。納めている税も平民の俺なんかより遥かに多いだろうし」

ライヤが苦笑いしているのをアンは背中越しに感じる。

「魔法においても魔力量っていう才能を持ってる。多少なりとも平民を軽んじるのは当然と言えば当然だ。でもそれは学校で、アジャイブ魔術学校で受ける教育が貴族たちの方が良いからに他ならない。結果として、かなり努力した平民ぼんじんとそれなりの努力しかしていない貴族てんさいでは後者の方が勝ってしまう。そんな状況を変えたくて俺は教師になったんだ。言い方は悪いけど、どうせFクラスの担当だろうと思ったから」

アンは静かに聞いている。

「でも、実際はSクラスの担任になって。いい子たちだし、先生としては嬉しい。けど、俺が教師になった目的をまだ一ミリも達成できていない。俺たちだって、ちゃんと努力すれば、貴族にだって勝てるんだ」

それを学校では習わない。
上下関係が普通であるように刷り込まれている。
それをどうにかしたいと思ったのが、こっちの世界でもライヤが教師を目指した理由だった。

「もちろん、生半可な努力じゃ届きもしない。前提条件が違うんだから。だけど、その選択肢がないのはおかしいと思うんだよな……」

現状、平民で貴族に対抗しうるのはライヤと、王国のイプシロンをはじめとする平民精鋭部隊だけだろう。

「俺が貴族になっても、できると思うか? 『でもお前貴族じゃん』って言われないかな。それか、俺の考え方が曲がっちゃったりしないかな。おっ?」

いきなりアンが立ちあがったのでライヤはそのまま倒れて空を見上げる。

「それ言ったの、私にが初めて?」
「そうだな」

背を向けたままアンが話す。

「じゃあ、行くわよ」
「どこに?
「ライヤの部屋によ」

なんでそんな当然みたいに。




「え、ここ俺の部屋だよな……?」

2人が帰り着くと、部屋の鍵は開いており、当然のように中に人がいた。

「お帰りなさいませ。お茶にしますか?」
「あ、どうも……。じゃなくて! なんでメイドさんも!?」

アンお付きのメイドまでいる始末である。
いるのは、フィオナ、ヨル、メイドさんとウィルまでいる。

「さぁ、さっきの話もう1回して」
「また!? さっきエモい雰囲気だったから言えたのに!? もう1回!?」
「つべこべ言わない!」
「あい……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

公爵夫人のやけごはん〜旦那様が帰ってこない夜の秘密のお茶会〜

白琴音彩
ファンタジー
初夜をすっぽかされ続けている公爵夫人ヴィヴィアーナ。今日もベットにひとりの彼女は、仲間を集めて厨房へ向かう。 公爵夫人が公爵邸の使用人たちとおいしく夜食を食べているだけのほのぼのコメディです。 *1話完結型。 *リアルタイム投稿 *主人公かなり大雑把なので気になる人はUターン推奨です。 *食べ盛りの女子高校生が夜中にこっそりつくる夜食レベル

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...