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教師2年目

学園の噂

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スタスタ。

「あら、先生じゃないですか」

次の月曜日。
珍しく朝魔法を使うことなく出勤し、校庭を歩いているところをウィルに見つかった。

「今日はお早いですね。魔法が降り注いだりします?」
「どんな天変地異だよ……」

ライヤが普段始業ギリギリにしか来たことないというのを鑑みてもそれほど大事ではないだろう。

「それに、なぜ生徒用の門から?」
「時にはそんなこともあるってだけだよ」
「嘘ですね。理由のない面倒なことは先生はしない人です」

よくお分かりで。

「わかってるなら今は聞かないでおいてくれ」
「わかりました。私は理解のある女ですからね」

スルリとライヤの腕をとりながらそんなことを言う。

「学園で王女がそれはまずいんじゃないですかね?」
「いいんですよ。むしろこのくらいしないと追い付けもしないですから」

恐らく、アンのことを言っているのだろうが。
確かにアンとライヤの仲はかなり有名だ。
恋仲とまでは言われていないが、近しい噂があるのも確か。

「俺の意思は?」
「あら、それはもちろん大前提ですよ? それでも私たちには立場がありますから。周囲からの認識も大切なのです」

「……あ、おはようございます……?」
「お、シャロンもこの時間か」

周りの生徒に見せつけるかのようにライヤの腕を引っ張ってゆっくりとウィルが歩いていたので後ろから普通に歩いてきていたシャロンにも追い付かれた。

「早いな」
「……あ、はい……。……授業の復習とかしているので……」

真面目だな。

「ちょうど良かったです。シャロンさん、そちらの腕をお願いします」
「……?」
「ですから、先生と腕を組んで登校しようと言っているのです」

ボッとシャロンの顔が赤くなる。

「……そんなの、恥ずかしいよ……」
「何を恥ずかしがることが? エスコートされていると思えば恥ずかしいことなんて何もないでしょう」
「登校にエスコートされるのがまずどうなのかって議論は置いておくのか?」
「何のことでしょうね?」

置いておくんですね……。

「ほら、早くしてください?」
「……うぅ……」
「いや、強要するなって。シャロン、無理するな。ただでさえ注目浴びてるんだから」

勇気を振り絞って話しかけてきたのを褒めたいくらいだ。
貴族用の生徒門から入ってきているので、ウィルと腕を組んでいる俺への視線が非常にきついのに。

「……うぅ……!」
「頑張りすぎだろ」

もはや目を瞑って腕に縋りつくかのようにくっついてくるシャロン。

「ティムとエウレアも何か言ってやれよ」
「……」
「王妃様より自由を尊重せよとのことですので」
「甘やかすのとはまた話が違うと思うけどなぁ」

ウィルは年齢相応な発育をしているため腕を組まれてもまぁそれほど脅威は感じない。
だが、シャロン。
こいつはまずい。
年齢と相まってアウト感がやばい。

……。

「さっさと教室行くか」




「それで、朝から2人を侍らせて何してたんだよ先生」
「何もしてない。誓ってな」

2年にもなって生徒たちともかなり打ち解けた。
ゲイルの言葉遣いは敬語から元に戻ったが、敬意を持っているのはわかるので良しとしている。
いつまでも敬語というのも少し思うところがあるからだ。

「じゃあ、なんで今日に限って早くから来たんだ?」
「まぁ、お前たちには構わないか。ヨルに関して何か噂とか聞いてないか?」
「ヨル先生の?」

首をひねる生徒たち。

「先生と一緒に攫われた生徒を助けに行ったって聞いたけどー」

のーんびりとマロンがそんなことを言う。
そういうことになっているのか。

「その噂の出どころはわかるか?」
「いやー、わからないかなー。お父さんが言ってたのを聞いただけだからー」

ふむ。
マロンの家は貴族としてそれほど大きくはない。
だからこそゲイルに付き従っていたわけだし。
噂を素早く流すなら権力の強い貴族から流すのが手っ取り早いが、その手法を嫌ったのか。
とりあえず、悪い噂は無いようで良かった。




「タット、これでいいのね」
「もちろんです」

アンの執務室で言葉を交わす2人。
アン第一王女と、元王国軍務大臣タット・ヘラルドがそこにいた。

「ヨル様の姿を確認した者はいません。だからこそ、大きな勢力からそのうわさを流せばその噂の真偽を確かめられる可能性があります。逆に小さな勢力からなら噂の出どころがわからずともただの噂として処理されるでしょう。それはそれとして、人はうわさ話が好きなもの。広まるのは時間の問題です」
「いいでしょう。まだまだ働いてもらうわよ」
「御意に」
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