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教師2年目

ファンタジーとは

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「まさかあの男が犯人だとは思わなかったわ!」
「そうだな」

アンは興奮して頬を少し赤くさせている。

「ああいう読み物をどういった表現するのかわからないけれど、これは話題になるのも納得ね!」
「推理ものって感じじゃないか?」
「採用!」

アンに対してライヤのテンションが低い理由。
どこかで読んだことがあると感じたのだ。
推理ものというジャンルすら確立されていないこちらの世界ではまず間違いなくないだろう。
ということは、日本にいた間に読んだのではないだろうか。
駄菓子屋のおばあちゃんはあり得ない。
やるならもっと早くやっていただろうから。
そして恐らく日本人だと思われるキリトとミクも違うだろう。
どこかにまだまだ隠れているだけで存在しているのだろう。

簡単な物資ではなく、本を出すというところがずるい。
存在は知っていても作り方を知らなければ埒が明かない食品などとは違い、物語は文字に書き起こすことが出来れば一応、誰にでも書ける。
文章のうまさなどはあるだろうが、前の世界で誰にでも読まれていたようなベストセラーを出せば多少の文章能力の低さはカバーできる。

「でも、孤島の洋館に閉じ込められることなんてあるのかしら。飛んで逃げればいいじゃない」
「そもそも誰にでも飛行魔法が使えるわけじゃないだろ? それに飛んだ方向が陸と逆方向だったらどうするんだ。流石に魔力がもたないだろ」
「確かに……」

多少どころか大きく文明に差があるのでそのあたりのすり合わせは行わなければならないが。
例えば、「ハ〇ー・ポッター」。
世界に轟く大名作だが、魔法が前提であるためこちらの世界ではウケないだろう。
ならば逆に日本の様子を物語にすれば売れるのだろうとは思うが、そんな文章能力はない。
ライヤも、挑戦したことはあったが諦めた道であった。

「この作者の素性はわかってるのか?」
「さぁ、知らないわ」
「そりゃそうか」

特に知る必要もない情報だ。
この作者が次はどんな話を書くのか楽しみにしておくことにしよう。




「ねぇ、ライヤ」
「うん?」

本を読んでいる時は向かい合わせに座っていたが、アンはそこからライヤの隣に移動して体重を預けている。

「イリーナに聞いたわよ。また何かしようとしてない?」
「いやぁ……」

ライヤにはアンとイリーナの関係性がわからない。
姉妹である。
アンはイリーナのことを特別意識していないが、イリーナは明らかにライバル視している。
だが、城に帰ればライヤのことについて報告がなされるくらいには会話がある。
わからん。

「そういえば、まだ私に言う段階じゃないみたいな事案があったわよね。あれのことかしら」

察しが良い。

「戦争も終わったし、終戦処理も佳境よ。何してるのか教えなさい」

目をそらしていたライヤの顔を両手で挟み、自分の顔の前に持ってくる。

「……情熱的なキスでもするのか?」
「いいから吐きなさい」
「あっ、はい」

思っていたよりマジだった。


「……なるほどねぇ」


ポスンとライヤの膝に頭をのせながら嘆息する。

「そんなことを隠してたんだ?」
「いや、隠してたわけでは……」
「まぁ、いいけど。これからは私も混ぜなさい」
「混ぜるって言ってもまだ何も手掛かり無いし……」
「そういうのいいわ。ライヤがそこら辺までやってるならほぼ確定でしょ」

まぁ、ライヤとて確信はある。
フィオナとのすり合わせでライヤの勘違い説も否定されてる。
怪しいやつの目星もついてる。
だが、方法がわからなければ、目的もわからない。

「最悪、私の名前でしょっぴけばいいでしょ?」
「さっきまで推理ものでキャッキャしてた人間のセリフとは思えないな」
「現実と物語は違うもの。だから物語が素晴らしいのよ。孤島に王様がいて怪しいやつ皆殺しにしたら萎えるでしょ?」
「萎えるとかじゃないな」

駄作も駄作。
その出版社はまず間違いなく潰れるだろう。

「とにかく、一枚噛ませなさい。アンネ先生久しぶりの出勤よ」
「……怒られないか?」
「……一緒に怒られてね♪」

やめるという選択肢は既になかった。
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