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教師2年目

新たな教師と生徒

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「本当に来るとは思わなかったわ」
「……」

所定の時間にちゃんとキリトが現れたことにまず驚くイリーナ。
時間に1秒でも遅れれば速攻帰ってやろうとは思っていたが。

「どういう心づもりかしら?」
「ライヤ先生に負けた時は負けた気がしなかったです。あなたにはちゃんと実力で負けてしまった。教わるなら、イリーナ様の方がいいと判断しました」
「はぁ……」

イリーナに負けた時に拮抗しているように感じたのも、イリーナが余裕をもって立ち回っていたからに過ぎない。
実際は違うが、イリーナにはキリトの言い草が「あんたはライヤよりは弱いから先に踏み台にしてやる」としか聞こえなかった。

「まぁ、いいわ。私が頼まれたのは勉強を教えることだし」
「!? 戦ってくれないのか!?」
「あ?」
「……ですか?」
「なんでそれを私が受ける義理があるのよ。最低限、勉強が出来て進級できる人でないとやる意味がないでしょう」
「なぜです? 強ければ……!」
「強くても、頭がなければ使いつぶされるだけよ。そんな将来性のない相手に使う時間は私はもっていないわ」

ただでさえ王女。
上に3人いるとはいえ、卒業も視野に入ってきた。
そろそろ公務も割り振られてくるだろう。
そんなイリーナが将来一兵卒になって前線で死ぬだろう人物に時間を割く意味がない。

「でも……!」
「これ以上ごねるならこの話は無しよ。いい加減認めなさい。あんたは世に言う天才じゃないの。ライヤ先生だけならまだしも、私にあんな簡単に負けているようじゃね」
「それは年齢が……!」
「離れてるわね。それがどうしたの? 戦場でそんな言い訳しながら死んでいくわけ? 学校内の話でも、少なくともアン姉さまとライヤ先生は学生時代から教師に勝っていたわよ」

アンは正真正銘の天才だ。
妹であるイリーナさえ届かない領域。
そんな才能の持ち主がごく平凡な才能しか持っていないが、教師を上回る能力を身に着けたライヤに師事したのだ。
より2人の距離は開いただろう。
だが、諦めるつもりは毛頭ない。
プライドの高いイリーナだが、いざとなればライヤに教わろうと思うくらいにはライヤのことを評価している。
ただ、今は嫌いだという感情が勝っているだけで。
今回のキリトの件はその試金石である。
いつかこれを代価に教わるつもりだ。

「いつ逃げ出してもらっても私は構わない。始めるわよ」




「イリーナがいつになく疲れて帰ってくるのだけど、何か心当たりは?」
「あるな」
「なぁに?」
「教える側の苦労を理解したってことじゃないか?」

戦後処理に忙しくしていたアンが久しぶりにライヤ家を訪れていた。
隣の部屋で壁にへばりついて聞き耳を立てている存在がいることは2人もわかっているので簡単な遮音魔法を風魔法で展開し、話し続ける。

「あの子にはまだ早いと思うけど」
「向き不向きってものがある。アンは確実に不向きだけど、イリーナはけっこう向いていると思うぞ。ああ見えて理論派だしな」
「私が感覚派みたいな言い方ね」
「異論があるのか」
「……ないけど」

偽装教師をやっていた時も普通の勉強の教え方はある程度うまかったが、魔法となると自分が感覚でしか魔法を使っていないので説明に苦労していた。

「ねぇ、明日は久しぶりにデートしましょ?」
「いいぞ。どこへ行く?」
「私が決めておくわ。明日また迎えにくるから」
「やけに早いな」
「……抜け出してきてるの。今から帰って明日の分も終わらせるわ」

颯爽と帰っていくアンの背中は格好良かったが、この後怒られるであろうことを予見してライヤはその背中に合掌した。
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