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教師2年目
誤算
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「じゃあ、やろうか」
「最後に確認しておきますけど、先生はB級なんですよね」
「まぁ、そうだな」
「わかりました、大丈夫です」
わざわざ自分がB級であるという事を思い出させてくれるキリトには感謝してもしきれない。
心置きなく戦える。
「アン、号令頼んでいいか」
「わかったわ。キリト君もそれでいいわね?」
「構いません」
「では、始め!」
「炎よ!」
アンの号令に合わせてキリトがイリーナ戦でも見せた炎による槍を作り出す。
「そこまで!」
だが、それが完成することはなく、決着はついた。
氷漬けにされたキリトの喉元にライヤの剣が添えられたのだ。
「例えどれだけの魔力量があっても、魔力制御がままならなければ発動に時間がかかる。その間にどんな小さな魔法でも当てられればきついし、今の俺みたいに体全体に干渉できるくらいの魔法を使われたらそれだけで負けだ。互いの良いところを出し合って最後は実力で、なんて起こるわけがない。勝った奴が勝ちだ」
あまりの展開に呆然としているキリトに淡々とライヤは述べていく。
「そもそも、俺のことをよく知らないのに勝てると判断する根拠がわからない。それこそ世界ランキングでもついていて、互いに差があるとかならわかるがそんなもんはないしな。その時点でキリトは俺のことを舐めてるし、最後の煽りも逆効果だ。何もさせずに勝とうと俺も思ったからな」
語気は強め。
キレ気味である。
「要するに、あまり教師を舐めるなよってことだ」
「いやー、圧巻だったねー」
その日の夕食。
「大人げなかったですかね?」
「いいと思うよー? 中途半端に調子に乗ってたみたいだからねー。これで自分を見つめ直してくれればいいけどねー」
「私も良かったと思います。最初の確認の時に口出そうかすっごく迷いました」
フィオナとヨルは肯定派らしい。
「あ、おかわりお願いします。なんにせよ、キリトが強くなりたいなら謙虚に努力することは必須ですからね。俺にはない才能を持ってるんですから、それに胡坐をかいてほしくはないです」
「ライヤってずっと魔力量で苦労してるよねー。嫌になったりしないのー?」
「もちろん、嫌な時期はありましたけど。もう過去のことですね。教師になるときにその辺りは消化しきってます。1年目からとは思いませんでしたけど、S級の担任になることもあるかもとは思ってましたし。実際にはたぶんないだろうと考えてましたけど」
学内でB級がS級やA級の担任になることをよく思わない者がいるのはわかりきっていたから、そうそうならないだろうと思っていた。
「魔力量を至上として掲げている人達は何を以てそう思ってるんですかね? 私なんて魔力量はそれなりにありますけど、攻撃魔法は一切使えないんですよ? それこそ馬鹿にされる存在だと思うんですけど」
「ヨルの場合は出自が守ってくれてるのもあるだろうな。俺は平民だし、アンとの関わりもかなり情報として出回っていたから。出る杭だったんだろう」
叩かれても曲がったり折れなかったり。
強靭な杭だったと自負している。
「とにかく明日だな」
「……?」
「「おはようございます」」
「あ、うん、おはよう」
教室に入り、いつもの挨拶を忘れるほどに困惑したライヤ。
昨日の手合わせではライヤはキリトに傷一つつけていない。
氷で覆った部分が多少かじかんでいたくらいだ。
だというのに、なぜかボコボコになったキリトの姿がそこにはあった。
しかも、見るからに傷が新しい。
今朝つけられたものではないか?
「キリト、大丈夫か?」
「……うす」
本人は話すつもりはなさそうだが、ふてくされている。
ライヤにちゃんと返事を返すあたり、反省はしているのだろうが。
遡ること20分ほど前。
「あのライヤってやつがズルをしたに決まってる! お前たちだってB級なんかに教わるのは嫌だと思ってるんじゃないのか!?」
キリトが教壇のあたりから熱弁を振るっていた。
「ちょっとキリト君」
「ミクは黙っててくれ。みんなで学園長に言いにいかないか?」
「……何をです?」
静かに聞いていた7人。
ウィルが代表して発言する。
「もちろん、教師の交代をだ! 何なら、教師として相応しくないという話をしてもいい!」
そこで、耐えられなかった。
ガタリと席を立つ面々。
引っ込み思案なシャロンさえ立ち上がっている。
「ど、どうした?」
キリトの誤算は、彼らが1年生の時からライヤの生徒であったこと。
そして、わざわざ続投を願い出るくらいには懐いていたこと。
「ま、待ってくれ」
そして、そんな彼らの前でぽっと出の奴がライヤを批判し、貶し、あまつさえ自分たちの下から取り上げようとしたのだ。
そりゃキレる。
「授業やってくけど、いいよな?」
「「はい」」
何があったかは、ご想像にお任せしよう。
「最後に確認しておきますけど、先生はB級なんですよね」
「まぁ、そうだな」
「わかりました、大丈夫です」
わざわざ自分がB級であるという事を思い出させてくれるキリトには感謝してもしきれない。
心置きなく戦える。
「アン、号令頼んでいいか」
「わかったわ。キリト君もそれでいいわね?」
「構いません」
「では、始め!」
「炎よ!」
アンの号令に合わせてキリトがイリーナ戦でも見せた炎による槍を作り出す。
「そこまで!」
だが、それが完成することはなく、決着はついた。
氷漬けにされたキリトの喉元にライヤの剣が添えられたのだ。
「例えどれだけの魔力量があっても、魔力制御がままならなければ発動に時間がかかる。その間にどんな小さな魔法でも当てられればきついし、今の俺みたいに体全体に干渉できるくらいの魔法を使われたらそれだけで負けだ。互いの良いところを出し合って最後は実力で、なんて起こるわけがない。勝った奴が勝ちだ」
あまりの展開に呆然としているキリトに淡々とライヤは述べていく。
「そもそも、俺のことをよく知らないのに勝てると判断する根拠がわからない。それこそ世界ランキングでもついていて、互いに差があるとかならわかるがそんなもんはないしな。その時点でキリトは俺のことを舐めてるし、最後の煽りも逆効果だ。何もさせずに勝とうと俺も思ったからな」
語気は強め。
キレ気味である。
「要するに、あまり教師を舐めるなよってことだ」
「いやー、圧巻だったねー」
その日の夕食。
「大人げなかったですかね?」
「いいと思うよー? 中途半端に調子に乗ってたみたいだからねー。これで自分を見つめ直してくれればいいけどねー」
「私も良かったと思います。最初の確認の時に口出そうかすっごく迷いました」
フィオナとヨルは肯定派らしい。
「あ、おかわりお願いします。なんにせよ、キリトが強くなりたいなら謙虚に努力することは必須ですからね。俺にはない才能を持ってるんですから、それに胡坐をかいてほしくはないです」
「ライヤってずっと魔力量で苦労してるよねー。嫌になったりしないのー?」
「もちろん、嫌な時期はありましたけど。もう過去のことですね。教師になるときにその辺りは消化しきってます。1年目からとは思いませんでしたけど、S級の担任になることもあるかもとは思ってましたし。実際にはたぶんないだろうと考えてましたけど」
学内でB級がS級やA級の担任になることをよく思わない者がいるのはわかりきっていたから、そうそうならないだろうと思っていた。
「魔力量を至上として掲げている人達は何を以てそう思ってるんですかね? 私なんて魔力量はそれなりにありますけど、攻撃魔法は一切使えないんですよ? それこそ馬鹿にされる存在だと思うんですけど」
「ヨルの場合は出自が守ってくれてるのもあるだろうな。俺は平民だし、アンとの関わりもかなり情報として出回っていたから。出る杭だったんだろう」
叩かれても曲がったり折れなかったり。
強靭な杭だったと自負している。
「とにかく明日だな」
「……?」
「「おはようございます」」
「あ、うん、おはよう」
教室に入り、いつもの挨拶を忘れるほどに困惑したライヤ。
昨日の手合わせではライヤはキリトに傷一つつけていない。
氷で覆った部分が多少かじかんでいたくらいだ。
だというのに、なぜかボコボコになったキリトの姿がそこにはあった。
しかも、見るからに傷が新しい。
今朝つけられたものではないか?
「キリト、大丈夫か?」
「……うす」
本人は話すつもりはなさそうだが、ふてくされている。
ライヤにちゃんと返事を返すあたり、反省はしているのだろうが。
遡ること20分ほど前。
「あのライヤってやつがズルをしたに決まってる! お前たちだってB級なんかに教わるのは嫌だと思ってるんじゃないのか!?」
キリトが教壇のあたりから熱弁を振るっていた。
「ちょっとキリト君」
「ミクは黙っててくれ。みんなで学園長に言いにいかないか?」
「……何をです?」
静かに聞いていた7人。
ウィルが代表して発言する。
「もちろん、教師の交代をだ! 何なら、教師として相応しくないという話をしてもいい!」
そこで、耐えられなかった。
ガタリと席を立つ面々。
引っ込み思案なシャロンさえ立ち上がっている。
「ど、どうした?」
キリトの誤算は、彼らが1年生の時からライヤの生徒であったこと。
そして、わざわざ続投を願い出るくらいには懐いていたこと。
「ま、待ってくれ」
そして、そんな彼らの前でぽっと出の奴がライヤを批判し、貶し、あまつさえ自分たちの下から取り上げようとしたのだ。
そりゃキレる。
「授業やってくけど、いいよな?」
「「はい」」
何があったかは、ご想像にお任せしよう。
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