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教師2年目
人生そう上手くはいかないもので
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「で、どうだった?」
ヨルに回復してもらっているキリトに話しかける。
「……」
ぶすっとしたまま口を開かない。
拗ねてやがる。
「あの、先生。私にはなぜキリト君が負けたのかわからないんですけど……。使ってた魔法もキリト君の方が強かったですし……」
「強い魔法を使うのが必ずしも結果に結びつくわけじゃないってことだ。仮にそうなら、魔力量に恵まれない者たちは戦闘用の魔法を覚える意味ないよな? どうせ負けるんだから」
実際は違うから学ぶ意味がある。
「私たちはとある領主様の下で魔法を学んだのですが、そちらでは規模の大きな魔法の使い方を学んでいたんです」
「もちろん、使えるに越したことはないぞ? 魔力量は立派な才能だし、それを活かせる術はもっておくべきだ」
「……」
「はい、回復終わり!」
ヨルの処置が終わっても拗ね続けているキリト。
「どうせ手合わせじゃなくて実戦だったらでかい魔法一発撃って勝ってたとか考えているんだと思うが、間違いだからな? 現状の魔力量は、確実にイリーナの方が多いし」
「キリト君よりも多いんですか?」
「そりゃそうだろ。キリトもミクもこれから成長するだろうから最終的な量はわからないが、2年生と6年生だ。イリーナは王族だし、王国で屈指の魔力量を誇ることは間違いない。そんな相手に魔力量での勝負を挑む時点で間違っている」
まぁ、そもそも。
それ以外を知らないのだろうが。
「それはともかくとして。お前たちも自分たちがまだまだだという事がわかっただろうから、謙虚に授業を聞いてくれると助かる」
「私はそのつもりです」
「……」
「ま、いいけどな。少なくとも、強くなろうとしない限り強くはなれないから。勝負なんだから、負けた理由が相手にないなんてことは絶対にない。その代わり、自分にないなんてことも絶対にないんだ。なんであれ、勝負事ってそんなもんだろ」
例えば、テニスをしていたとしよう。
中学校に始めて頑張ってきた人と、小学校からやっていてその大会の優勝候補が当たったとする。
まず間違いなく後者が勝つし、チャンスはほとんどない。
勝てるか、と言われれば無理だろうが、その結果よりも善戦できる可能性はあったのではないだろうか。
例えば、日々の練習でもっとやるべきことがあったり。
試合の場で勝てないからと投げやりになることなく少しでも爪痕を残そうと頑張ってみたり。
格下と対戦するときでも舐めたりせず、ちゃんと勝ち切る。
……。
これはまた別か。
それはともかく。
「多少なりとも自分に非があることを認められたら強くなれると思うぞ」
その日はそれで解散となった。
「くそぉっ!!」
王国から用意された家に帰ったキリトとミク。
帰ってから自分の布団で悔しさを発散するキリト。
「異世界に転生したら全部上手くいくようになるんじゃないのかよ……!」
「まだそんなこと考えてたの? たぶん無理だって前に話したでしょう?」
異世界で活躍するには大抵、特殊な能力を持っていることが前提だ。
それが戦闘に向いているものにしろ、そうでないにしろ。
魔力量には恵まれたが、人外というほどではない。
あくまで世界の枠組みの中だ。
ならば努力しなければ上位に行けないのは道理である。
ライトノベルやアニメに疎いミクは単純な話だろうとそれを飲み込んでいたのだが、キリトはそういった文化に近しかったために夢を見てしまったのだ。
名前が名前だっただけに、運命だと感じてしまったというのもある。
彼は別に異世界転生は一応、していないのだが。
「……」
まだじたばたと暴れているキリトを置いて、部屋を出る。
「(転生しただけで上手くいくなら、諸国連合に生まれ落ちるわけがないわ。遅かれ早かれ周りの三国のどこかには合併されていたもの。それが今だったというだけ。むしろ、成長段階にある時点で王国に来ることが出来たのを幸運に思うべきだわ)」
ミクは現実的であった。
転生してしまった時には途方に暮れ、何もできないほど気力がなくなってしまった彼女だが、幸いにも赤ちゃんなんてそんなもんである。
自分で何かをするようになる頃には既に落ち着いていた。
「(クラス内に王女様がいるのも非常に好ましいわ。友達になれれば他国といえど、満足に生活は出来るでしょう)」
ついでに言えば、ミクにはキリトのような英雄願望などない。
魔力量という才能を貰った分、それを活かせるようにはなりたいが、戦争で活躍したいなど、これっぽっちも思っていなかった。
「(狙うのは王女様の友人兼護衛ってところかしら。いずれお役御免になるにしろ、それまでの働きで次の職場に口を利いてくれるでしょう)」
一方、キリト。
「(ミクの前で恥をかかせるなんて……!!)」
恥ずかしさのあまり怒りを超え、どこにぶつけるかという段階になっていた。
ヨルに回復してもらっているキリトに話しかける。
「……」
ぶすっとしたまま口を開かない。
拗ねてやがる。
「あの、先生。私にはなぜキリト君が負けたのかわからないんですけど……。使ってた魔法もキリト君の方が強かったですし……」
「強い魔法を使うのが必ずしも結果に結びつくわけじゃないってことだ。仮にそうなら、魔力量に恵まれない者たちは戦闘用の魔法を覚える意味ないよな? どうせ負けるんだから」
実際は違うから学ぶ意味がある。
「私たちはとある領主様の下で魔法を学んだのですが、そちらでは規模の大きな魔法の使い方を学んでいたんです」
「もちろん、使えるに越したことはないぞ? 魔力量は立派な才能だし、それを活かせる術はもっておくべきだ」
「……」
「はい、回復終わり!」
ヨルの処置が終わっても拗ね続けているキリト。
「どうせ手合わせじゃなくて実戦だったらでかい魔法一発撃って勝ってたとか考えているんだと思うが、間違いだからな? 現状の魔力量は、確実にイリーナの方が多いし」
「キリト君よりも多いんですか?」
「そりゃそうだろ。キリトもミクもこれから成長するだろうから最終的な量はわからないが、2年生と6年生だ。イリーナは王族だし、王国で屈指の魔力量を誇ることは間違いない。そんな相手に魔力量での勝負を挑む時点で間違っている」
まぁ、そもそも。
それ以外を知らないのだろうが。
「それはともかくとして。お前たちも自分たちがまだまだだという事がわかっただろうから、謙虚に授業を聞いてくれると助かる」
「私はそのつもりです」
「……」
「ま、いいけどな。少なくとも、強くなろうとしない限り強くはなれないから。勝負なんだから、負けた理由が相手にないなんてことは絶対にない。その代わり、自分にないなんてことも絶対にないんだ。なんであれ、勝負事ってそんなもんだろ」
例えば、テニスをしていたとしよう。
中学校に始めて頑張ってきた人と、小学校からやっていてその大会の優勝候補が当たったとする。
まず間違いなく後者が勝つし、チャンスはほとんどない。
勝てるか、と言われれば無理だろうが、その結果よりも善戦できる可能性はあったのではないだろうか。
例えば、日々の練習でもっとやるべきことがあったり。
試合の場で勝てないからと投げやりになることなく少しでも爪痕を残そうと頑張ってみたり。
格下と対戦するときでも舐めたりせず、ちゃんと勝ち切る。
……。
これはまた別か。
それはともかく。
「多少なりとも自分に非があることを認められたら強くなれると思うぞ」
その日はそれで解散となった。
「くそぉっ!!」
王国から用意された家に帰ったキリトとミク。
帰ってから自分の布団で悔しさを発散するキリト。
「異世界に転生したら全部上手くいくようになるんじゃないのかよ……!」
「まだそんなこと考えてたの? たぶん無理だって前に話したでしょう?」
異世界で活躍するには大抵、特殊な能力を持っていることが前提だ。
それが戦闘に向いているものにしろ、そうでないにしろ。
魔力量には恵まれたが、人外というほどではない。
あくまで世界の枠組みの中だ。
ならば努力しなければ上位に行けないのは道理である。
ライトノベルやアニメに疎いミクは単純な話だろうとそれを飲み込んでいたのだが、キリトはそういった文化に近しかったために夢を見てしまったのだ。
名前が名前だっただけに、運命だと感じてしまったというのもある。
彼は別に異世界転生は一応、していないのだが。
「……」
まだじたばたと暴れているキリトを置いて、部屋を出る。
「(転生しただけで上手くいくなら、諸国連合に生まれ落ちるわけがないわ。遅かれ早かれ周りの三国のどこかには合併されていたもの。それが今だったというだけ。むしろ、成長段階にある時点で王国に来ることが出来たのを幸運に思うべきだわ)」
ミクは現実的であった。
転生してしまった時には途方に暮れ、何もできないほど気力がなくなってしまった彼女だが、幸いにも赤ちゃんなんてそんなもんである。
自分で何かをするようになる頃には既に落ち着いていた。
「(クラス内に王女様がいるのも非常に好ましいわ。友達になれれば他国といえど、満足に生活は出来るでしょう)」
ついでに言えば、ミクにはキリトのような英雄願望などない。
魔力量という才能を貰った分、それを活かせるようにはなりたいが、戦争で活躍したいなど、これっぽっちも思っていなかった。
「(狙うのは王女様の友人兼護衛ってところかしら。いずれお役御免になるにしろ、それまでの働きで次の職場に口を利いてくれるでしょう)」
一方、キリト。
「(ミクの前で恥をかかせるなんて……!!)」
恥ずかしさのあまり怒りを超え、どこにぶつけるかという段階になっていた。
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