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春休み

馬鹿の処理

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「凱旋だぁ!」

諸国連合との戦争は予定と大きくずれることなく終えた。
開戦のタイミングこそカムイの暴走によって早まったが、結果は海戦側でじり貧になって陸戦側の結果待ちに落ち着いたことで既定路線に戻った。
ろくな結果を残せなかった海戦側とは違い、戦争の勝利を決定づけたアン率いる陸戦側は王都への凱旋で賑やかな出迎えを受けることとなった。

「カサン大佐だ!」
「敵将を一騎打ちで打ち負かしたそうだぞ!」
「平民の希望だ!」

そして、ライヤ。
前回とは違い、軍の人間としての立場を以て臨んだライヤはその功績を大々的に報じられることになった。

「ほら、平民の希望らしいわよ? 手を振ってあげたら?」
「絶対に嫌だ」

そのライヤはと言えば、アンが馬車から外に手を振っているのに対し、しゃがみこんでいた。
元々ライヤに目立ちたいという欲はない。
凱旋用にオープンカーのような馬車が用意されており、ライヤは元々軍の列に混ざってやり過ごすつもりだったのがアンに無理やり乗せられたのだ。
少し車高が高いことを利用してしゃがんでおけばバレないかと隠れていたのだが、民衆で家の屋根に登っていた人がいて、バレたのだ。

「そこらへんはメンデス大将の受け持ちだろ……」
「大将は大将で受けているでしょ」




「良く帰った。無事で何よりだ」
「「はっ!」」
「此度の戦争、愚息のせいで世話をかけたが、よくやってくれた」

先に帰っていたらしいカムイが王様の横で正座している。
顔を真っ赤にしてプルプルしていることから、碌に反省はしていないんだろうなとは思いつつ、とりあえずは後回しにする。

「メンデス。諸国連合軍はどうだった?」
「端的に言えば、実力不足ですな。まかり間違っても、うちと事を構えるには足りない」
「そうか……。だが、その話は後だ。報奨は十分に出す。今は休んでくれ。アンは残り、他は下がれ」

ガッ!

どさくさに紛れて帰ろうとするライヤをアンが片手で捕まえる。
ため息をついて、また膝をつく。

「さて、アン。良く戻った」
「私は特に何もしておりませんので」
「そんなことはない。メンデスも褒めておったぞ。上に立つ者として相応しい立ち振る舞いであったとな。我慢できずに一度暴れたようだが」
「何のことでしょうか」

意味のない白を切るアン。

「ライヤ、お主には辛い役目をさせた。済まなかった」
「父上! 平民に謝るなど……!」
「いつ口を開いていいと言った?」

カムイに対し、圧を発する王様。
忘れがちだが、歴戦の王なのだ。
その圧は計り知れない。

「ヨル殿にも酷なことをした」
「直接言ってあげてください。回復魔法も大活躍でした。一つくらい、願いを聞いてもらえると」
「考えておこう。だが、まずはアン」
「はい」
「このバカのことだが、どうする」

びくりと肩を震わせるカムイ。
なぜこの場にいるのかと思ったが、陸軍側の責任者であったアンに判断をゆだねるためか。

「相談しても?」
「構わん。お前の家庭教師なのだからな」

家庭教師の権限でかすぎません?

「ライヤはどう思う?」
「まぁ落ち着け。整理しよう。まず、取り決めで会った同時の開戦を独断で変更だろ?」

「そんで、最初に襲った船から女性船員だけ攫ってたとか?」

「で、きつくなってきたら中将に丸投げして船室に引きこもってたんだろ?」

「情状酌量の余地ないだろ。単純に、軍を率いる権利をはく奪。王位継承権を下位にして、期間は任せるけど謹慎だろうな」

これでも王子だから許されている方だ。
軍の人間がやっていたら、即解雇から処刑。
家族までいかれていた可能性もある。

「じゃあ、それに私が殴るも追加で」
「え!?」

カムイが一番反応したのはそこ。

「場は改めますが。物理的な仕置きがないというのは納得がいきませんので」

ブルブルと先ほどとは違う方向で震えだすカムイ。
生きているか、見ものである。
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