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春休み
父へ向けて
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「大丈夫か?」
「ライヤさん……」
会議終了後、ライヤはすぐにヨルのもとに向かった。
ライヤの情報が引き金となってヨルの父が殺されるかもしれないのだ。
「ヨルのお父さんがどんな戦い方を指揮する人なのかとか知らないのか? いつもと違えば信憑性は薄くなるんだけど……」
「……わかりません。諸国連合は弱いですから、戦争をしないことで生き残ってきていたので……」
形式上軍はあれど、実際に出陣することは無かったのだろう。
現状でも戦力差はあれど、戦い方が未熟と言わざるを得ない。
ライヤ達が好きに動けていることからもそれはわかる。
「先生、私もついて行っていいですか?」
「ダメだ。お前のためとか、そんな綺麗ごとは言わない。俺が嫌だから、ダメだ」
「先生って、正直ですよね」
「……」
何も額面通りのことを言っているわけではない。
ヨルの父の情報を持ってきた以上、始末をつけるにしろ自分がやらなければとライヤは思っている。
ヨルがそこについてきてしまえばヨルの目の前で父を殺してしまうことになるだろう。
「でも、父の首はそれなりの価値があるでしょう? 照合の必要性も生まれるかもしれません。そうなった時に顔を見るより、生きている時に顔を見たいと思うのは普通では?」
「普通、なのか……?」
ライヤにはそんな考えは浮かばない。
自分の親が殺されるとなれば最後に顔を見たいと思うかもだが、死ぬ未来が決まっているならどうだろうか。
少し考えたが、何とも言えない感情が募るばかりであった。
「少なくとも私はそうです。そして、父を殺すなら、それはライヤさんが良い」
「は?」
予想外の言葉にライヤは呆ける。
「父は王国との戦争は負けるとわかっていたから私を送り出しました。ですが、出来たのはそこまでで私が今こんなにも自由に生きていられるのはライヤさんと、アン王女のおかげです。どこぞの知らない人に殺されるよりは、ライヤさんがやってくれた方がいい」
「でも、お父さんは娘の前で自分が殺されるのを見るのを良しとしないだろ」
「そうでしょうか? 自分の娘を預ける相手かどうかを見極める機会が文字通り命懸けであるのです。むしろ幸運と思うのでは?」
まんま「俺の屍を超えていけ」ってやつか。
「幸か不幸か、子供は私だけなので。私の無事が確認されればかなり気持ちも楽になるでしょう」
「俺の負う心の傷がかなりのもんだが?」
「そこは、ほら。先生として意地見せてください」
「都合の良い時だけ先生の身分出すやん……」
「いいんじゃない?」
「う……」
不意に静かに話を聞いていたアンが口を出す。
隣り合わせで座っていたライヤとヨル。
ライヤの背中にのしかかって重みでライヤが前かがみになることでヨルとアンの目が合う。
「瀬戸際になって命乞いをしたり、邪魔をしたりすることはないのよね?」
「もちろんです」
「なら、いいじゃないの。先生として責任取りなさい」
「仮にちゃんとヨルを生徒としてカウントするとしても生徒の親の生死まで責任負うのはオーバーワークだろ」
「なら、男として責任取るの?」
「え!?」
「嬉しそうな顔をすな。なんでそう極端な話をするんだ……」
冗談めかして言っているが、これはアンなりのヨルの援護だ。
やるなら、ライヤがやれと。
「あ、でも気づいたことがあるんですけど」
「なんだ?」
「ライヤさんって実はけっこう自信家ですよね」
「え?」
ライヤ自身は謙虚な方ではないかと思っている。
隣にアンという自信の権化がいるから比較するとそうなってしまうが。
世間一般的にも、身を弁えた自己評価だと思っている。
「まぁ、アンさんの隣にずっといるんですから、それはそうだろうという感じなのですけど」
言われてみれば、とライヤも振り返る。
今までアン王女の隣から退けと言われてきたが、自分は釣り合わないから退くという考えはライヤにはなかった。
なんでお前らに指図されなきゃいけないんだという反発心で対抗してきていたが、言われてみれば気後れするのが普通である。
「なんで今?」
アンも疑問に思ったのか、ライヤが聞きたいことを聞いてくれる。
「だって、父に負ける可能性を考えてなかったじゃないですか」
「……本当ね。ライヤにしては珍しいんじゃない?」
背中にのしかかったまま、背中にむんにゅりと押し付けてくるアンの感触を心地よいと感じながら、ライヤは言う。
「心持ちの問題だけどな。いつも通り、俺が負けた場合のことも考えてはいるけど」
既にイプシロンたちには伝えている。
ヨルとの関係性もあってヨルの父とは一騎打ちをライヤは望んでいるが、それが叶わなかった時か、ライヤが負けた時は個人に拘らずに物量で押し潰せと。
「自分の娘の周りにいるのが頼りない男だと、心配だろ? 戦い方を曲げることは出来ないから、どうせ搦め手を使うことになる。漢らしい一騎打ちは出来ないからな。せめてものって感じだ」
「……プロポーズですか? 脱ぎます?」
「脱ごうとするな。仮にプロポーズであってもそうはならんだろ」
ライヤの言葉を少し羨ましいと思ったのか、ヨルのいる方とは逆のライヤの耳を甘噛みして不満を露わにしているアンをなだめながら、ライヤは大層なものじゃないのにとまた苦笑する。
ただ、ヨルの父への男としてのプライドである。
「ライヤさん……」
会議終了後、ライヤはすぐにヨルのもとに向かった。
ライヤの情報が引き金となってヨルの父が殺されるかもしれないのだ。
「ヨルのお父さんがどんな戦い方を指揮する人なのかとか知らないのか? いつもと違えば信憑性は薄くなるんだけど……」
「……わかりません。諸国連合は弱いですから、戦争をしないことで生き残ってきていたので……」
形式上軍はあれど、実際に出陣することは無かったのだろう。
現状でも戦力差はあれど、戦い方が未熟と言わざるを得ない。
ライヤ達が好きに動けていることからもそれはわかる。
「先生、私もついて行っていいですか?」
「ダメだ。お前のためとか、そんな綺麗ごとは言わない。俺が嫌だから、ダメだ」
「先生って、正直ですよね」
「……」
何も額面通りのことを言っているわけではない。
ヨルの父の情報を持ってきた以上、始末をつけるにしろ自分がやらなければとライヤは思っている。
ヨルがそこについてきてしまえばヨルの目の前で父を殺してしまうことになるだろう。
「でも、父の首はそれなりの価値があるでしょう? 照合の必要性も生まれるかもしれません。そうなった時に顔を見るより、生きている時に顔を見たいと思うのは普通では?」
「普通、なのか……?」
ライヤにはそんな考えは浮かばない。
自分の親が殺されるとなれば最後に顔を見たいと思うかもだが、死ぬ未来が決まっているならどうだろうか。
少し考えたが、何とも言えない感情が募るばかりであった。
「少なくとも私はそうです。そして、父を殺すなら、それはライヤさんが良い」
「は?」
予想外の言葉にライヤは呆ける。
「父は王国との戦争は負けるとわかっていたから私を送り出しました。ですが、出来たのはそこまでで私が今こんなにも自由に生きていられるのはライヤさんと、アン王女のおかげです。どこぞの知らない人に殺されるよりは、ライヤさんがやってくれた方がいい」
「でも、お父さんは娘の前で自分が殺されるのを見るのを良しとしないだろ」
「そうでしょうか? 自分の娘を預ける相手かどうかを見極める機会が文字通り命懸けであるのです。むしろ幸運と思うのでは?」
まんま「俺の屍を超えていけ」ってやつか。
「幸か不幸か、子供は私だけなので。私の無事が確認されればかなり気持ちも楽になるでしょう」
「俺の負う心の傷がかなりのもんだが?」
「そこは、ほら。先生として意地見せてください」
「都合の良い時だけ先生の身分出すやん……」
「いいんじゃない?」
「う……」
不意に静かに話を聞いていたアンが口を出す。
隣り合わせで座っていたライヤとヨル。
ライヤの背中にのしかかって重みでライヤが前かがみになることでヨルとアンの目が合う。
「瀬戸際になって命乞いをしたり、邪魔をしたりすることはないのよね?」
「もちろんです」
「なら、いいじゃないの。先生として責任取りなさい」
「仮にちゃんとヨルを生徒としてカウントするとしても生徒の親の生死まで責任負うのはオーバーワークだろ」
「なら、男として責任取るの?」
「え!?」
「嬉しそうな顔をすな。なんでそう極端な話をするんだ……」
冗談めかして言っているが、これはアンなりのヨルの援護だ。
やるなら、ライヤがやれと。
「あ、でも気づいたことがあるんですけど」
「なんだ?」
「ライヤさんって実はけっこう自信家ですよね」
「え?」
ライヤ自身は謙虚な方ではないかと思っている。
隣にアンという自信の権化がいるから比較するとそうなってしまうが。
世間一般的にも、身を弁えた自己評価だと思っている。
「まぁ、アンさんの隣にずっといるんですから、それはそうだろうという感じなのですけど」
言われてみれば、とライヤも振り返る。
今までアン王女の隣から退けと言われてきたが、自分は釣り合わないから退くという考えはライヤにはなかった。
なんでお前らに指図されなきゃいけないんだという反発心で対抗してきていたが、言われてみれば気後れするのが普通である。
「なんで今?」
アンも疑問に思ったのか、ライヤが聞きたいことを聞いてくれる。
「だって、父に負ける可能性を考えてなかったじゃないですか」
「……本当ね。ライヤにしては珍しいんじゃない?」
背中にのしかかったまま、背中にむんにゅりと押し付けてくるアンの感触を心地よいと感じながら、ライヤは言う。
「心持ちの問題だけどな。いつも通り、俺が負けた場合のことも考えてはいるけど」
既にイプシロンたちには伝えている。
ヨルとの関係性もあってヨルの父とは一騎打ちをライヤは望んでいるが、それが叶わなかった時か、ライヤが負けた時は個人に拘らずに物量で押し潰せと。
「自分の娘の周りにいるのが頼りない男だと、心配だろ? 戦い方を曲げることは出来ないから、どうせ搦め手を使うことになる。漢らしい一騎打ちは出来ないからな。せめてものって感じだ」
「……プロポーズですか? 脱ぎます?」
「脱ごうとするな。仮にプロポーズであってもそうはならんだろ」
ライヤの言葉を少し羨ましいと思ったのか、ヨルのいる方とは逆のライヤの耳を甘噛みして不満を露わにしているアンをなだめながら、ライヤは大層なものじゃないのにとまた苦笑する。
ただ、ヨルの父への男としてのプライドである。
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