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教師1年目

元旦

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「どうした、ライヤ。随分疲れているようじゃが」
「はは、そう見えます?」

元旦。
王家の長子として王様への挨拶を行うアンの隣。
眠れずに定評のある目つきの悪さに拍車がかかったライヤ。

「家に帰してくれれば解決するので、あまり気にしないでもらって……」
「そうか、なら深くは聞くまい」
「お父様、新年を無事に迎えられたこと。ここにお慶び申し上げます」
「うむ、昨夜はよく休めたか」
「久しぶりにしっかりと休養をとれたと思います」
「何よりだ」
「聞いたわよ、ライヤ君。昨日の口上は大層格好良かったそうね♪」
「口上……?」

王妃の言っていることがわからず、ライヤは首をかしげる。

「もう、照れちゃって。アンのことが一番大事だって見得を切ったって聞いたわよ!」
「!?」

その話をしたのは昨晩も夜遅くの事。
エリアルがわざわざ報告に行くとも思えないし、アンとヨルはその時から部屋を出ていない。
どうやってそのことを知ったというのだ……。

「私もその場に居合わせたかったわー」
「ライヤってばすっごく格好良かったのよ!」
「えぇ、メイドから聞いた話だけでもわかるわ。孫の顔を見れるときも遠くないわねー」

メイドという単語に反応し、後ろを振り向くライヤ。
ライヤの視線に気づいたアンお付きのメイドがどや顔をする。
「いい仕事をしました!」という顔。
あのメイドとは後で話をつける必要がありそうだ。

「……まぁ、その程度のこと言えないようならこの場にも来てませんよ」
「乗り気じゃなかったって聞いたけど?」
「そりゃ、この場に王女と一緒に現れたなんてまた反感を買うだけですから」
「でも、来たのね」
「そりゃ、望まれましたから」
「窓から逃げようとしてたじゃない」
「ナンノコトカナ」
「カタコトになってるじゃない」

横からの圧の視線が凄い。

「まぁまぁ、アン。ライヤ君は一般人なのよ? こんな場に引っ張り出されたらそれは逃げ出したくもなるわ」
「お母様はライヤを一般人と思っているので?」
「……それは違うわねぇ」
「なら問題ないでしょう」

論理が飛躍しすぎだろう。

「この場はただの新年のあいさつの場だ。よって、これは独り言である」

和気あいあいとしたムードは王様が話しだしたことによって引き締まる。

「王国は今年中、遅くても来年には戦争状態に入るだろう。アンにはまたかなりの負担をかけることにもなるだろう。その時にアンを支えてくれるものがいれば、嬉しいと思う」

その独り言に、ライヤは大きく首を垂れる。
必ず。
言葉にせずともその意思は確かに王へと届いていた。




「……また会ったな」
「お恥ずかしい限りで……」

挨拶の順番にして4番後。
ライヤの姿がまた玉座の間にあった。

「お父様、お母様。新年あけましておめでとうございます」
「えぇ、ウィルも明けましておめでとう。でも、隣の……」
「先生ですから♪ 一緒に来ていただきました」
「そうなの……」

流石の王妃も困惑している。

遡ること1時間半ほど前。


「じゃあ、俺帰って寝るから」
「えぇ、なんで眠れてないのかわからないけど、睡眠不足はきついから、ゆっくり寝なさいよ」

お前のせいだよ、とはとても言えない。

「じゃあ、行くか」
「はい」

外でヨルの名前を呼ぶことは無い。

「あら、先生と……」
「ウィル?」

丁度挨拶のための準備に来たのだろう。
ウィルが待機部屋に入っていくところだった。
勘が良いウィルはその場をパッと見て状況を察したのだろう。
トトっと歩いてきて、ライヤを摑まえる。

「先生、私と一緒に挨拶に行きましょう?」
「いや、俺今から帰って寝るところで……」
「少しくらいダメですか……?」
「うっ……」

ウルウルと見上げてくるウィル。

「ウィル、ライヤに迷惑でしょう」
「アン姉さま。迷惑かどうかは先生が決めることです。それに、先生が寝不足なのはアン姉さまが原因では?」
「さぁ、どうかしらね」

バチバチと廊下で行われる王女2人の姉妹喧嘩。

「さぁ、その腕を離しなさい」
「嫌ですー!」
「わかったわかった、挨拶だけなら行くから……」

そろそろ有力貴族たちから順に順番待ちを始めるだろう。
こんな王女同士が喧嘩しているところなど見られていいはずがない。
事情はどうあれ、これにかこつけて勢力構築を目論むに違いない。
他の時期ならまだしも、これから他国と戦争が控えている時期にすることじゃない。


「苦労をかけているな……」
「まぁ、この程度なら……」

先ほどよりも目つきがまた悪くなったライヤに王様も同情を禁じ得ない。

「ウィル、お前のことだから先生に迷惑をかけていることは少ないだろう。勉学も熱心に取り組んでいると聞く。学園にも慣れただろう。これから成長することを願っている」
「もったいないお言葉です」
「……これもまた独り言なのだが」
「……」
「ウィルは周りに遠慮しすぎる。それもまたこの子の良いところなのだが、損をしているところもある。その辺りに気が付く者が近くにいてくれればと思う」

再び深く、首を垂れるライヤ。
この場に来たことで王のを聞いてしまうという重責を背負った気もする。
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