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教師1年目

兵の詰め所

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「もし。少しよろしいですかな」

ライヤは珍しく放課後に学園外に買い物に出ていた。

「なんですか?」
「私、帝国から来た商人でして。初めて王国を訪れたものでどちらで商品を卸したらいいのかわからないんです。良ければ案内などしていただけませんか?」
「ふむ、別に構いませんが……」

どうやら、道に迷っているらしい商人は後ろに控えている大きめの馬車を示しながら言う。

「積み荷はどういったものですか? 商品によって卸す場所が変わってくると思いますが」
「今回は小麦を持ってきたのですが……」
「なるほど。では食料品の方ですね」

談笑しながら道案内をする。

「ところで、初めてお越しになったのなら大変な道のりではなかったですか?」
「と、言いますと?」
「帝国と王国の間には山地が横たわっていますから。荷車が小麦で重くては移動もそれなりにゆっくりになったでしょうから」
「そうですねぇ、初めてといいましても商人仲間から助言を貰っていましたので準備をちゃんとしていましたから。それほど苦労というものはしていませんよ」
「そういうものですか」

話している内容は他愛のないものだ。

「よぉ、おっさん」
「おっさんじゃないわ! ん、なんだ坊主」

辿り着いたのは兵士の詰め所。

「俺のことを坊主って言ってる時点でおっさんはおっさんだろ」
「俺まだ30代だぞ」
「十分言われる年だろ。もうちょっと若作りならまだ可能性はあるけど」
「そこに関しては否定できねぇ」
「あのー、ここは……?」

商人さんは不安そうだ。

「あぁ、おっさん。この人道案内が必要らしいんだ。兵士の領分だよな?」
「もちろんだ。どこに行きたいんだ?」
「えっと、小麦を卸しに……」
「なるほど。じゃあ食品の方か……」
「おっさん、この人帝国から来たらしいんだ」
「ほお?」

怪訝な顔をするおっさん。
ライヤが数ある詰所の中でここへ連れてきたのはわけがある。
おっさんが有能なのだ。

「そりゃおかしな話だな?」
「えっと、何がでしょう? なにぶん、初めて来たもので……」
「王国は帝国と小麦の取引をしてないんだよなぁ。長らく緊張状態にある国に主食を任せるわけにはいかんだろう?」
「な、なるほど。そんな事情があるとは知りませんでした……。なら、この積み荷は持って帰るしかないですね」
「いや、そんな必要はないだろ? 大したものは入ってないんだから」

ここでライヤも口を開く。

「荷車のサイズに合わせて小麦を積んでいるなら、沈み込み方が不自然すぎる。明らかに重いものを積んでいない。だから確認しただろ? 山道は辛かっただろうって。重いものの取引がないのはあまりにも輸送で馬に負担をかけてしまうからだ。これも、王国か帝国の商人なら常識だ。商売始めたての奴でも周りから聞かされることだな」
「ということは、坊主」
「まぁ、何を企んでいたのか知らないけど諸国連合の方じゃないか? 旅をしてきたにしては荷車の状態も良すぎるし」
「くそっ!」

遂に言い逃れが出来ないの判断したのか服についていたフードを深く被り、逃げ出そうとする。

バシーンッ!

そしてこける。

「こ、これは!」

自称商人の足には泥がまとわりついていた。

「お、横暴だ! なんの証拠もなく魔法を一般人にかけるなんて……!」
「もし、何もなかった場合はちゃんと保証をさせてもらいますよ。ただ、一般にはあまり知られていないことがありましてね。俺みたいな一兵卒よりもこいつみたいな学園の教師の方が権限は高いんですわ。怪しいと思ったやつを独断で取り締まれるくらいにはね」

流石にそれは初耳だったのか、驚く自称商人。
学園教師が戦争に徴用される場合、最低でも士官で、将官もあり得る。
それだけの価値があると王国は見ているのだ。

「最悪王国から保証が出るよ。商人だったら無礼を補って余りあるほどのね。おい、こいつ連れてけ」
「はい!」

若手の兵士が自称商人を連れて行く。

「それにしても、坊主。俺のところに厄介ごとを持ち込むなっていつも言ってんだろうが?」
「俺の理由の付け方は特殊だからな。おっさんぐらい情報もってないと信用されないんだよなぁ」
「俺のことを買ってくれてるってことでいいのか?」
「間違いない。たかが一兵卒でそこまでの知識を持ってるやつは他にいないよ。20年前の学力3席さんよ」
「まだ18年前だ!」
「変わんねぇだろ」

このおっさんはC級(クラス)でありながら学力テストにおいて3位を学園で守っていたのだ。
そんな人物がなぜ一兵卒なのか。
それはこのおっさんが賢いからに他ならない。
当時、3席という事もあってあまり注目されていなかったにも関わらず余計な軋轢を貴族との間に生んでいたらしい。
将来にまで面倒なことを長引かせたくないと考えた結果、こうなったそうだ。
だが、ただの兵士にしてはあまりにも学力が高く、成果を残すため出世のスピードは異例らしい。

「またおっさんの手柄にしといてくれ」
「俺はもう出世はいいんだがな……。そろそろお偉いさん方の目が俺に向くぞ?」
「それ以上に俺に向いてるから大丈夫だ」

ライヤがこうして時折しょっ引いてきてそれをおっさんの手柄にしているから出世が早いという側面もある。
ライヤが平民出身で苦労しているというのを誰よりもわかるからこそライヤの手柄として報告しないのだ。

「諸国連合の人間がわざわざ白ローブの俺に案内を頼む、ねぇ……?」

嫌な予感を、ライヤは感じ取っていた。
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