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教師1年目

剣術指南

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ヨルが学園に来てから1か月が経った。

「ふっ!」

現在は剣術の授業だ。
貴族出身ではないライヤにとっては一番の不得意分野かもしれない。
だが、いかに幼少期から剣を学んできているとはいえ、17歳の体がかなり出来上がっているライヤとの筋力差などは歴然だし、ライヤが剣術を共に特訓した相手を考えると、不得意と言っても比較的という話にはなる。

「ゲイルは決めれると思った瞬間に大振りになる癖が抜けないな。前から言っているように、まだ相手の隙を判断する経験が圧倒的に足りない。迂闊に踏み込むのは危険だぞ。今は俺とやっていて、おれは明らかな格上なんだから例えば戦場で出会った時とかは時間稼ぎに徹するべきだ。ここで功を急いでゲイルが負ければ次は誰かがやられる。格上を足止めできている時点で勝っていると思っていい」
「すみません……」
「謝ることじゃない。多分カリギュー家で格上に勝つことを教えてもらっていたんだろうけど、その英雄視されるような誰かの功績の陰で何人が死んでるかって話だ。そんな挑戦をする必要はないってことだけ考えておいた方がいい。よし、次はシャロンいくか」
「……お願いします」

シャロンも学んできていたようだが、そもそもの性格も相まってあまり剣を得意としてない。
前提として戦いが苦手なのでしょうがないところではあるのだが。
将来Sクラスとして戦場に出る可能性があるのだ。
魔法で好戦することになるとしても、ひとまず身を守れるくらい。
敵の一太刀を受けきれるくらいには上達しておいた方がいい。

ということで、メインはライヤの攻撃を防ぐことになる。

「基本的に防ぐことだけ意識するなら、むしろ相手に近いところで戦った方がいい。普通の剣ならシャロンの持っている小太刀に対しては小手先が難しくなる。そこに付け込んで一回受けきるべきだ。距離をとれば踏み込みから強力な一撃も考えられる。より内側で戦った方がいい」
「……はい!」

「ふんっ!」
「……!?」

一瞬の鍔迫り合いの瞬間にライヤが力を籠める。
圧倒的に力で負けているシャロンは押され、一歩二歩と体勢を崩して後退してしまう。
気付いた時にはもう遅い。
ライヤが剣を大上段に構えている。

ガキィッ!

シャロンの小太刀が手から離れ、床に転がる。

「力負けしている相手への対処も考えておくべきだ。言いたくはないが、どうしても男女の筋力差というものはある。一部の例外を除いてだが。ああいった形で距離をとって一発を狙ってくる相手がくることもあるだろう。戦場ではなく、ここは一対一の形をとっているからさっきは大上段に構えたけど、集団戦ならもうちょっと工夫してくるかもな」
「……ありがとうございました」
「さっきの剣をはじいた時に手首とか痛めてるかもしれないから、ヨルに見てもらってくれ」
「了解―。ほら、シャロンちゃんおいでー」

トコトコとヨルの方へ向かうシャロンを見送る。

「次はウィルいくか」
「お願いします」

悠然と細剣を構えるウィル。

「ウィル、自分のやることは?」
「護衛の後ろからの牽制、もしくは一撃必殺。詠唱のための時間稼ぎです」
「よし」

ウィルも王女としてそれなり実力は求められるようになるだろう。
だが、ウィルはアンとは違う。
単騎で圧倒的な性能を誇るアンと違い、ウィルは細々としたところからポイントを取っていくタイプだ。
魔法が得意なこともあり、剣に頼るよりはあくまで補助。
それも他に人がいることを想定してもいい立場だ。
それに絞れば自然とやるべきことも見えてくる。

「細剣は普通の剣よりも懐に入られた時が弱い。より距離感に気を遣うべきだ。よほどの使い手でない限り宙を飛んで距離をつめてくることはない。むしろ身をかがめて姿勢を低くしてくることが多いだろう。そこに注意を払うべきだ」
「はい。ありがとうございました」

ライヤの剣がウィルの喉元でぴたりと止まり、ウィルが両手を上げて指導が終わる。

「じゃあ今日の最後はマロンいくか」
「はいよー」

ゴトンと大きめの盾を構えるマロン。
授業の初めの方、剣の授業の時にマロンが自ら持ってきたのだ。
曰く、

「僕が剣を振る暇があるなら3回ぐらい殺されてるよー」

とのこと。
あながち間違っていないのでライヤも否定しづらかった。
しかし、マロンは自分で考えて盾を用いることを思いついた。
要するに、壁役タンクを目指したのだ。
これはマロンの得意とする土魔法と非常に相性がいい。
Sクラス壁役タンクをするのは非常に珍しいことではあるが、はまれば強固な盾となる。
その間に周りは攻撃を加えることが可能であろう。
そして、この場合盾の持ち主は攻撃のことを一切考えなくていい。
最も隙のできやすい攻撃と防御の転換点というものが存在しなくなるので現状のSクラスの生徒たちの中ではライヤが最も時間をかけないといけない相手となっていた。

「ふぅ。上達はしてきているが、盾をかちあげられた時に咄嗟に顔ごと隠す癖だけはどうにかしないとな。ヤバい時ほどちゃんと相手の動きを見ないと足とかからじわじわ削られるぞ。相手の動きが見えないだけで戦いにおいてはもったいない」
「はぁいー」
「慣れてくれば盾のふちで剣をはじくことも出来るようになるけど……。まぁ、そこまで急ぐことじゃない。ゆっくりやっていこう」
「はぇー」

その様子を口を開けて間抜け面で見ていたヨル。

「……なんだ」
「いや、先生って凄いなーって。一通りの武器使えるじゃないですか? 一つ使えるようになるまでけっこう時間かかると思うんですけど……」

うんうんと頷く他の生徒たち。
ヨルは年齢もあってこの中で最も経験値が高いが、剣術として綺麗すぎたため実戦的なものに改編中だ。
ライヤの教えなんてこすいものばかりで碌なものでもないのだが。
アンに通用するというこれ以上ないお墨付きである。

「アンに対抗してたらこうなったんだよ。剣一本であんな強さしてるやつに対抗するにはこっちは手数を増やして選択肢を増やすしかなかったんだ。結果としてこうして教えられてるから無駄にならなくて良かったよ」
「そういえば、先生はアン王女と何度も決闘をされたんですよね」
「いや、決闘は最初の一回だけだろ。あとは手合わせだ。……後の方が死ぬかと思ったけど」
「良ければどうやって勝ったのか教えていただけませんか?」
「参考になるか? いや、聞いておくだけでも価値があるのか……。じゃあ、今度の戦術講義でなんか一個話すか」
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