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教師1年目

転入生?

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「こんにちは! 今日から転入してきましたヨルと言います! 仲良くしてくださいね!」

普段は鉄壁の笑顔をほこるウィルですら顔に戸惑いが見える。
学園長が含んだ言い方をしていたのはこのためだ。
まさか既に21歳なのに学園に1年生として転入してくることなどあるだろうか、いやない。
実際には起こっているのだが。

「……というわけで、転入生のヨルだ。先に言っておくが、ヨルは攻撃魔法が得意じゃない。その代わりに回復が得意なんだ。攻撃に関すること以外ならお前たちよりも多分数段上だからな? 攻撃できないからと言っていじめたりしないように」

そんなライヤの言葉に無理に笑っているウィルの頬がぴくぴくしている。
ヨルの立場を知っているが故になぜヨルがここに来ているのか想像がつくからだろう。
エウレアの表情は全く変わらないが。
なぜ変わらないのかがわからない。
単純にそれほど驚いていないのか、それとも先に知っていたのか。
真相は闇の中である。

「いきなりの転入生で慣れないことも多いだろうが、一番心細いのはヨルだからな。みんなで助けてやってくれ」

そう言って笑うライヤの額にも青筋が浮かんでいる。
というのも、この事態を知らされたのが当日の朝礼での事だったのである。
結局連絡がなかったので転入の話は無くなったものだと思っていたらこのざまである。
しかも理由は「本人がそれを望んだから」。
そこについて問い詰めたところ。

「人生には、驚きってものが必要でしょ?」

きゅるんっとわけのわからん事を言っていたのでとりあえずライヤは頭を一発しばいておいた。


こうして8人体制になったS級だが、そのうちの一人は成人済み。
何なら教師よりも年上である。
そしてそれを知っている生徒が2人いるという何ともややこしい状況。

「じゃあ、歴史から始めていくかー」

そんな中でも通常通りに授業は進む。

「今日は王国史だ。みんなも夏休みで授業内容飛んでるだろうし、ヨルはどこまで習ったかわかってないから、今日は前期の復習にしよう」

簡単に言えば、夏休みの宿題の振り返りである。
この宿題の量に関してだけはライヤに決定権はない。
テスト範囲は各教師のすり合わせによって行われるが、長期休みの課題の分量は学年主任に委ねられることになっている。
1年目のライヤに口が出せるものではない。

「さて、うちは王国という名の通り、王家が統治する国家なわけだけど……」


「先生!」
「……なんだヨル」
「なぜこの代の王家の代替わりは早かったんですか?」
「それはだな……」

基本的な勉学はもはや10年ほど前に修めているヨル。
大体の内容は復習になるはずだ。
いかに辺境の貴族とはいえ、いや辺境だからこそ教養は叩き込まれたことだろう。
だがしかし。
王国史に関してはその限りではない。
関係諸国の歴史を学ぶ機会もあっただろうが、どうしても自国の内容よりは薄くなってしまう。
単純に密度も他に三国あることから考えれば3分の1だし、そんなに詳しくやれるほど他国の歴史の趨勢を把握しているわけがない。
よって、ヨルが初めて学んでいるのは王国史だけなのだが、そこへの食いつきがエグイ。
質問も21歳だけあって的を射ているので他の生徒の勉学のためにも無視できないのがまたつらい。
なぜ自分より4つ5つ年上の人に授業をしているのか。


「休み明け初日だからここまでだな。昼ご飯を食べて帰るもよし、そのまま帰るのもよしだ。ちなみにゲイルはどうだ?」
「今日は早く家に帰って休もうかと」
「それもいいな。久しぶりの学校で疲れてるだろうから、ゆっくり休めよ。じゃあ、さよならー」
「「さようならー」」

学校初日は昼までで終了だ。
あまり初日から詰め込み過ぎるものじゃない。
なにせまだ9歳だ。

「せーんせっ」
「……」
「私も久しぶりの学校で疲れたなぁー」
「……」
「お姫様抱っこ、してくれてもいいよ?」
「誰がするか!」

ライヤの帰路にぴったりとついてくるヨル。
……もう、お分かりかな?

「じゃあせんせ。私今から窓を開けて寝るから、夜這いしにきていいよっ」
「真昼間だわ! 誰が行くか!」
「じゃあ、夜になるまでお預けかー」
「夜にも行かんわっ!」

そう、ヨルが教員寮に住むのである。
安住の地は、ない。
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