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教師1年目

洞窟の少女

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「えっと……」
「迷子?」

戸惑っているライヤに代わってアンが予想を口にする。
まぁまず間違ってはいないだろう。

「落ち着いていないで助けてくださいぃー!」
「お、そうだな」

実際のところ何があったのかはわからないが、とにかく何か魔物の気に障るようなことをして逃げ回り、命からがらこの洞窟に逃げ込んだが中まで追われてどうしようもなくなっていたというところか。

「ほい」
「はぁ……」

軽―く人型の魔物の足を氷で縫い付けるライヤと、ため息をつきながら同じく氷の魔法でつららのようなものを作り頭と心臓のあたりをぶち抜くアン。

「え、つよっ……!」
「それで、どうするのよライヤ。こいつ、海洋諸国連合の人でしょ?」
「らしいな」

2人の強さに呆然とする少女だが、2人の意識は既に他のところにある。

「もう王国の領土よね、ここ。それだけでしょっぴいてもいいんだけど……」
「許してください、許してください! 逃げ込んだだけで侵入してやろうとか思ってなかったんですぅ!」

必死に命乞いを始めた少女を見て辟易するアン。

「……本当に命が惜しいなら、嘘は付かない方がいいぞ」

即座にライヤとアンのどちらが偉いかを見抜いてアンに命乞いを始めたのは見事というしかないが、残念。
腹の探り合いそういうはなしはライヤの担当なのだ。

「王国側に来る気がなかったなら、なぜそっち側の国境付近をうろついていたんだ? それもそんな軽装で。精々街の間を移動しようという目的がないとその軽装はあまりにも心もとない」
「……」
「そして足元。どうしようもなくなって洞窟に逃げ込んだ設定にしたかったならもっと汚れているべきだ。外套とかを汚しておく努力はしたようだけど、必死に走ったんだとしたらあるべき泥の撥ねが少なすぎる」
「……」
「そして何より、君の魔力の流れが綺麗すぎる。見たところ14歳くらいだと思うけど、その年でその魔力制御は子供の頃からしっかりとした教育を受けていないとそうはならない。そんな人物が1人で国境付近を彷徨っていることがあるかな。あっても、あの程度の魔物に追い詰められることは?」
「……」
「以上、とりあえず気になったところを言ってみた。反論があれば聞きたい。それと、アン」
「なにかしら」
「俺の髪をわしゃわしゃするのはやめてくれ」
「だって、暇なんだもの」

ライヤの二言目あたりから暇を持て余したアンはライヤをこねくり回していた。
言っていることはまともだったのだが、どうにも周りの光景のせいで間抜けにしか見えなかった。

「私が海洋諸国連合の者だというのは事実です」
「うん」
「だけど、王国に楯突くつもりはありません!」

バッと膝をつく少女。

「王国第一王女のアン王女だとお見受けします! どうか私たちを助けてください!」
「え、嫌です」
「え……?」

今日も今日とて、空は青い。




「そこをなんとか! お話しだけでも!」
「私でも聞かなくてもわかるから十分です! どうせ他国にそそのかされてうちと戦争しようとしているけど一枚岩でもなくてあなたのところは戦争を止めたいと思っているとかそんなところでしょう? 関わるのは御免です!」

察しが良すぎるにもほどがある。

「それに、あなたには言い方が悪いですけど。王国にとってもマイナスな事だけじゃないのですよ」
「戦争が? そんなわけないじゃないですか!」
「じゃあ、聞きますが。そちらと王国が戦争したとして、どちらが勝つと思います?」
「……王国でしょう」
「そうですね。そちらが勝つのであれば私たちに助けを求めにくる理由がありません。そして、裏から他国を操って戦争に持ち込むという手法。これは帝国にはあり得ません。彼らは正面からぶつかることを良しとしていますから。つまり公国の仕業でしょう。となれば、王国が挟撃に合う事もなく間違いなく勝てるでしょうね。となると、領土を広げる機会ともとれます。ただ助けてくれと言われてもメリットがないのです」

現状四すくみのこの大陸において領土を広げる機会というのはあまりに貴重だ。
戦争で多少の被害を被ってもやる意義はある。

「そんな……!」
「メリットを提示できるなら考えなくもないけど、どう?」
「う……」

意を決したようにライヤの方を見る少女。

「私の体を好きにしていいですから、王女を説得してください!」
「おい!?」

アンからの殺気が3割増しに!

「あと、ちなみに私21歳なので!」
「合法ロリ!? あ、口が滑った」

南無……。

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