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教師1年目

国境の様子

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「今日は別行動だな」

ウィルの体調も良くなり、落ち着いた翌日。
アンとライヤは外套を着て少し遠出する準備をしていた。

「私も一緒に……!」
「……ウィル様」

ついて行こうとするウィルをエウレアがいつになく強い力で引き留める。

「……!」

それを見て、ウィルは察する。
自分が行くことは許されない領域に、2人は行くのだと。
ウィルもただ遊び半分で来ているわけではない。
ここに来る前の王妃との話し合いの段階で王国と周辺諸国の現状の関係については聞かされているし、この場所の危険性も聞いている。

「……お気をつけて」
「あぁ、偵察だけだからな。いざとなれば俺たちだけなら逃げてこれるだろ」
「大人しく待ってるのよ。一番ダメなのは、分不相応なことをしようとすること」
「心得ています」

普段とは違い、暗い色の外套姿で国境の方へと飛んでいく2人にウィルは深々と、お辞儀をするのであった。




「それで、何をすればいいんだ?」
「なんでもよ。気になることがあれば逐一言って」
「んな無茶苦茶な……」

アンの言う事も間違ってはいない。
戦争が予期されるこの状況で海洋諸国連合が何も仕掛けてこないことなどあるだろうか、いやない。
十中八九、偵察くらいは放っているだろう。
戦争を起こして攻め入るにしても地形理解が進んでいなければ進軍が遅れ、相手に対策を講じる時間を与えかねないからだ。
だが、その偵察がバレた時点で追及は免れないだろう。
だからこそ慎重に行動しているはずであり、わずかな違和感も見逃してはいけないのだ。

「湿気が凄いな、ここは」
「そうね、ここで戦うことになったら機動力はなくなりそう」

海洋諸国連合と王国との国境は帝国とのものに比べれば格段に狭い。
したがって交戦となるであろう場所の見当もつけやすいが、海部分を除けば湿地部分が大半を占める。
海でつながっているのだから海戦が想定されそうなものだが、魔法が一般的であるこの世界では基本的に海戦は起こらない。
なぜなら、ある程度の規模の魔法が船にぶち当たれば転覆は免れないからである。
陸戦であれば避けることも視野に入るが、小回りの利かない船ではそれも難しい。
選択肢としては風魔法を多用して船の機動力を上げるか、相手の魔法を魔力制御で奪って逸らすかになる。
前者はそこに割く人員が多くなりもったいない。
後者はリスクが高いうえに失敗すれば一発でお釈迦である。
必然的に選択肢からは外れる。

「見通しも悪いから、少なくとも王国軍は苦労しそうだな」
「そうね、もっと実戦的になってもいいと思うのだけど……」
「しょうがないだろう。基本的には帝国との威信比べみたいなところあるからな」

王国軍は正面からのぶつかり合いを良しとする文化を持っている。
昔から帝国軍とそういう戦いを繰り広げていたという過去があり、その上で勝ることが最上のものだと思っているのだ。
だが、ライヤはともかくアンでさえそろそろ見直すべきではと考えている。
現状の王国軍の考え方は受け身のものであり、それこそ帝国が戦い方を変えてきたときに対応できない。
今回も恐らく、何をしてでも勝ちをもぎ取りに来るであろう海洋諸国連合が正面からぶつかってくれるわけもない。
考え得る全ての手段を使って勝ちにくるだろう。
特にこんな場では正面からぶつかる余裕もあるわけもない。

「!?」
「どうしたの?」

ライヤの感覚がアンでさえつかめない人の気配を捉える。

「洞窟……?」

近くの壁面に小さな洞窟を見つけた。

「ひいぃ……!」

その奥には14歳くらいに見える女性が頭を抱えて震えていた。

「なんで……?」
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