上 下
99 / 328
教師1年目

看病

しおりを挟む
「! おいしいですね……」
「そうか? ならよかった」

致し方なくウィルにおかゆらしきなにかを食べさせるライヤだが、流石にフーフーして冷ますなんてことは出来ないのでウィルは少し熱そうである。
少し外で待たされたこともあってある程度は冷えていたのでなんとか食べれているのが救いである。

「はふはふ……」

しかし、美少女がハフハフと口を開いたり閉じたりするのはなんとなく背徳感がある。

どうにかこうにかおかゆを食べきり、横になるウィル。

「先生の前で横になるなんて失礼では……?」
「お前は先生をなんだと思ってるんだ。その程度一国の王女様が気にすることじゃないだろ……?」
「どうしました?」
「いや、よく考えたら今の俺の方が不敬じゃなんじゃないかということに思い至ってな……」

アンに慣れているので気にしていなかったが、王女の寝所を訪ねる男なんてそれだけで要注意人物である。
現在いかにアンの家庭教師という立場を持っているとはいえ、それはそれでウィルの下を訪れていたら問題になりかねない。

「ということで、俺がここに来たことは秘密で……。そういえば毒見してない料理を食べさせるのも中々か……?」

考えれば考えるほどまずい気がしてくるので不思議である。

「ふふ……。えぇ、では二人だけの秘密という事で」
「頼むわ。じゃあ、安静にしてろよ。どうせ俺がいなくなったらすぐエウレアが来るから、何か困ったらエウレアを通してでも言ってくれ」
「あ、ちょっと……」

ワゴンと共に部屋を去ろうとするライヤをウィルが呼び止める。

「どうした?」
「あの、眠れるまで、手を握ってもらってもいいですか……?」

ベッドの掛布団から顔だけ覗かせてそんなお願いをするウィルはいじらしくもあり、同時に年相応でもあった。

「わかった。片手だけでいいか?」
「もちろんです」

ベッドの横の先ほどまでエウレアが座っていた椅子に腰を下ろし、差し出された手を小さな手で握るウィル。

「しかし、意外だな」
「?」
「ウィルがこんなに甘えん坊だなんて」
「……!(先生にだけですよ!)」
「はは、すまん。そう睨むなって」

ライヤの物言いに恥ずかしくなったウィルだが、ライヤが左手でなにかごにょごにょやっているのに気づく。

「先生、それは……?」
「寝るんじゃないのか?」
「そうすぐには眠れないでしょう?」
「それもそうか。これは俺考案の魔力制御の上達法だ」

正確に言えば、ライヤ考案では決してない。
とある作品の修行法を参考にしてみたら、意外とうまく行ったのだ。

「こうやって手に魔力を集めるだろ? そこからこう、指先に魔力の小さな球を作るんだ」

魔力を纏っている右手の指先からポコッと小さな球が出てくる。

「これを手に沿って移動させていくんだ。慣れてきたら数を増やしてみたり、逆向きの球を作ってみたり、お手玉みたいに一度放ってから帰ってくるように制御してもいい。まぁ、最初は1つの球を正確に動かせるのを目標にするべきかな」
「……それはアン姉さまも?」
「ん? あぁ、まぁそうだな。確か教えたのは3年の時くらいだったと思うけど。ちなみに、ウィルもまだこれをやるには早いからな?」

ぎくりとするウィル。

「物事には大抵順序ってものがある。足し算を習った後に引き算をするようにな。そして、基本的には順序に従った方が覚えもいいんだ。焦らなくてもウィルは1年生の時のアンと比べても遜色ないと思うぞ」
「本当ですか?」
「まぁ、1年生の時のアンを知らないから断言はできないけど。少なくとも2年生になる頃には俺と決闘したときのアンくらいにはなると思うよ」
「……ふふ、あのアン姉さまが先生と決闘だなんて……」
「そう笑ってやるな。人間だれしも恥ずかしい過去の一つや二つあるだろう」

アンの中でそれが甘酸っぱい青春の思い出として昇華されているのは置いておくとして、だが。

「そろそろ本当に寝ようかと思います。手を放さないでくださいね?」
「放そうにもウィルが握ってるから俺にはどうにもできないだろう」
「ふふ、そうですね」

話すのをやめ、ライヤの左手をにぎにぎしながらライヤの右手を自由に動く魔力に目をやる。
さきほどライヤ本人が言っていた通り、小さな魔力の球は手に沿って右に行ったり左に行ったり、はたまたちょっと離れて戻ってきたり。
更には磁石の同じ極のように互いに反発していたりもする。
その全てを支配下に置いて独立させて制御しているライヤの技量に寒気すら覚えるウィルだが、同時に安心もする。
これほどの技量を持ったライヤについて行けば自分も強くなれる、そんな気がするのだ。

「おやすみ、ウィル。ゆっくり休め」

先ほど寝ていた時よりもいくらか穏やかな気持ちで、ウィルは眠りに落ちるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

公爵夫人のやけごはん〜旦那様が帰ってこない夜の秘密のお茶会〜

白琴音彩
ファンタジー
初夜をすっぽかされ続けている公爵夫人ヴィヴィアーナ。今日もベットにひとりの彼女は、仲間を集めて厨房へ向かう。 公爵夫人が公爵邸の使用人たちとおいしく夜食を食べているだけのほのぼのコメディです。 *1話完結型。 *リアルタイム投稿 *主人公かなり大雑把なので気になる人はUターン推奨です。 *食べ盛りの女子高校生が夜中にこっそりつくる夜食レベル

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

処理中です...