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教師1年目
大人の階段
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「ようこそいらっしゃいました!」
3日後。
王女直々の訪問とあって
従業員全員がお辞儀している中をおどおどしながら進む。
「もっと堂々としてなさいよ」
「無理だろ。俺はお前と違って周りに人を従えて普通でいられるような生活は送ってきてない」
普段からアンに振り回されてるライヤだ、寝不足からの馬車での旅で瀕死である。
もちろん、アンがペースを握る。
「部屋は用意できてるかしら?」
「もちろんです。ご要望通り、一フロア貸し切りで最も良い部屋を用意させていただきました。布団も2つ」
「よろしい。価格はそっちのと交渉しなさい。ライヤ、行くわよ」
ロビーのイスに座って転寝していたライヤを引きずっていくアン。
「……よろしかったので?」
「もはや公認なので。しかし、他言した場合は……」
「もちろん、言いませんとも。これほどのチャンスを逃すわけにはいきませんからな」
旅館の支配人とアンから決済を頼まれたメイドは2人についてそんな話をするのであった。
ちなみに。
このメイドは賢者が来た時に応対していた者であり、アンから抜擢されている。
「ほら、ライヤ。ここなら寝ていいから」
「……おやすみー……」
何の疑いもなく目の前に差し出された高級ベッドに沈むライヤ。
一度立ったまま気絶するほどにまで追い詰められていたのだ。
アンも少しは悪いと思っている。
「あのライヤがこんなに無防備に……」
だがしかし。
悪いと思っていながらも、これはアンが意図した結果である。
基本的にライヤは寝ている間も周りの魔力の動きに敏感である。
それこそ、アンやフィオナのような鍛えられたS級の気配が近づいてきていたら起きてしまうのだ。
毎度毎度2人だとわかっているから体も起こさず放っているのだが、奇襲は成功しないだろう。
そして今。
こちらの世界ではかつてないほど限界に追い込まれたライヤは極限の眠りに落ちていた。
当然、周りでアンが何をしようが起きないだろう。
「襲うには今しかない。それはわかってるけど……!」
アンはフィオナほど割り切れていない。
既成事実を作れるならどうにでもなれとまでは思えないのだ。
なまじ両想いだとわかっているから希望を抱いてしまう。
ライヤの方から求めて欲しいと。
「でも、決めきらないと……!」
ライヤの周りに悪い虫が群がってきているのは感じていた。
今まではフィオナだけで、彼女よりは優位であると確信があったのだ。
比較対象が1人であればどのくらいの割合で勝っているのかの概算も簡単だ。
だが、それが複数になると話が変わる。
それぞれの行動の把握などできないし、更に増えていても感知できないかもしれない。
そんなことになるより今こそっ……!
良からぬ決心をし、ぐってりと寝ているライヤに襲い掛かるアン。
「ほおおぉぉ……!!」
とりあえずシャツをめくり、奇声を上げる。
王女にあるまじき行為である。
ライヤの上半身程度なら見慣れているアンだが、こうして意識してみるとまた違う。
そもそもこんな距離でまじまじと見ることなどない。
馬乗りになったアンはライヤの薄く浮き出た腹筋をさする。
ライヤの信条として、パワー勝負になったら勝ち目がないからスピード重視である。
よって、薄く筋肉を全身に纏い、余計な筋肉で重くならないようにしている。
日本にいた時には考えられないような剣術の特訓でついた傷も多々あるが、こちらの世界の人間であるアンにはそれは修練の証として好ましく受け取られる。
そして胸から腹のあたりまで続く一際目を引く大きな傷。
比較的新しいその傷はもう3年前になる戦争で帝国の近衛騎士と一騎打ちしたときにできた傷だ。
「すごいなぁ……」
細い指でその傷をなぞる。
アンは修練で傷などできたことはない。
才能があった。
鍛える場もあった。
それに、たとえ練習でも王女に傷をつけるなど死罪では済まないかもしれないのだ。
慎重にもなるだろう。
しかし、それでもアンには命を懸けた戦いの経験はない。
戦争時のライヤは、それこそアンに巻き込まれただけ。
それで、命を懸けて戦ってくれたのだ。
少しの間感慨にふけったアンはふと自分が乗っているライヤの腹の部分から後ろに手を回す。
「ひゃっ!?」
そうすると、まぁブツがあるわけで。
そーっと覗いてバッと隠す。
そしてまたそーっと覗く。
「これがライヤの……!」
生娘であり、王家の性教育を受けてこなかったアンにはそれがとてもおぞましいものに見えた。
だが、その印象もライヤを想えば消えてしまう。
「……うん、こういうのは良くないわよね!」
そっと胸の内に見たという事実をしまうアン。
秘かに大人の階段を登ったのだ。
3日後。
王女直々の訪問とあって
従業員全員がお辞儀している中をおどおどしながら進む。
「もっと堂々としてなさいよ」
「無理だろ。俺はお前と違って周りに人を従えて普通でいられるような生活は送ってきてない」
普段からアンに振り回されてるライヤだ、寝不足からの馬車での旅で瀕死である。
もちろん、アンがペースを握る。
「部屋は用意できてるかしら?」
「もちろんです。ご要望通り、一フロア貸し切りで最も良い部屋を用意させていただきました。布団も2つ」
「よろしい。価格はそっちのと交渉しなさい。ライヤ、行くわよ」
ロビーのイスに座って転寝していたライヤを引きずっていくアン。
「……よろしかったので?」
「もはや公認なので。しかし、他言した場合は……」
「もちろん、言いませんとも。これほどのチャンスを逃すわけにはいきませんからな」
旅館の支配人とアンから決済を頼まれたメイドは2人についてそんな話をするのであった。
ちなみに。
このメイドは賢者が来た時に応対していた者であり、アンから抜擢されている。
「ほら、ライヤ。ここなら寝ていいから」
「……おやすみー……」
何の疑いもなく目の前に差し出された高級ベッドに沈むライヤ。
一度立ったまま気絶するほどにまで追い詰められていたのだ。
アンも少しは悪いと思っている。
「あのライヤがこんなに無防備に……」
だがしかし。
悪いと思っていながらも、これはアンが意図した結果である。
基本的にライヤは寝ている間も周りの魔力の動きに敏感である。
それこそ、アンやフィオナのような鍛えられたS級の気配が近づいてきていたら起きてしまうのだ。
毎度毎度2人だとわかっているから体も起こさず放っているのだが、奇襲は成功しないだろう。
そして今。
こちらの世界ではかつてないほど限界に追い込まれたライヤは極限の眠りに落ちていた。
当然、周りでアンが何をしようが起きないだろう。
「襲うには今しかない。それはわかってるけど……!」
アンはフィオナほど割り切れていない。
既成事実を作れるならどうにでもなれとまでは思えないのだ。
なまじ両想いだとわかっているから希望を抱いてしまう。
ライヤの方から求めて欲しいと。
「でも、決めきらないと……!」
ライヤの周りに悪い虫が群がってきているのは感じていた。
今まではフィオナだけで、彼女よりは優位であると確信があったのだ。
比較対象が1人であればどのくらいの割合で勝っているのかの概算も簡単だ。
だが、それが複数になると話が変わる。
それぞれの行動の把握などできないし、更に増えていても感知できないかもしれない。
そんなことになるより今こそっ……!
良からぬ決心をし、ぐってりと寝ているライヤに襲い掛かるアン。
「ほおおぉぉ……!!」
とりあえずシャツをめくり、奇声を上げる。
王女にあるまじき行為である。
ライヤの上半身程度なら見慣れているアンだが、こうして意識してみるとまた違う。
そもそもこんな距離でまじまじと見ることなどない。
馬乗りになったアンはライヤの薄く浮き出た腹筋をさする。
ライヤの信条として、パワー勝負になったら勝ち目がないからスピード重視である。
よって、薄く筋肉を全身に纏い、余計な筋肉で重くならないようにしている。
日本にいた時には考えられないような剣術の特訓でついた傷も多々あるが、こちらの世界の人間であるアンにはそれは修練の証として好ましく受け取られる。
そして胸から腹のあたりまで続く一際目を引く大きな傷。
比較的新しいその傷はもう3年前になる戦争で帝国の近衛騎士と一騎打ちしたときにできた傷だ。
「すごいなぁ……」
細い指でその傷をなぞる。
アンは修練で傷などできたことはない。
才能があった。
鍛える場もあった。
それに、たとえ練習でも王女に傷をつけるなど死罪では済まないかもしれないのだ。
慎重にもなるだろう。
しかし、それでもアンには命を懸けた戦いの経験はない。
戦争時のライヤは、それこそアンに巻き込まれただけ。
それで、命を懸けて戦ってくれたのだ。
少しの間感慨にふけったアンはふと自分が乗っているライヤの腹の部分から後ろに手を回す。
「ひゃっ!?」
そうすると、まぁブツがあるわけで。
そーっと覗いてバッと隠す。
そしてまたそーっと覗く。
「これがライヤの……!」
生娘であり、王家の性教育を受けてこなかったアンにはそれがとてもおぞましいものに見えた。
だが、その印象もライヤを想えば消えてしまう。
「……うん、こういうのは良くないわよね!」
そっと胸の内に見たという事実をしまうアン。
秘かに大人の階段を登ったのだ。
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