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教師1年目
テスト開始
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テストまであと3日となり、テスト前最後のクラブ活動の日。
「テスト前最後なので、軽く的あてでもやって終わりましょうか」
「「はい!」」
元気よく散っていく部員たちに、顧問となったライヤとコーチになったフィオナは怪訝な顔をしていた。
「魔術クラブで、的あて……?」
「アップでもそんなことしたことないよー?」
2人はこそこそと言い合うが、イリーナにばれてしまう。
「先生! フィオナ先輩とイチャイチャしている暇があるなら顧問として指導の一つでもしなさい! ほら、見て!」
イリーナが指差す先には熱心に指導をしている顧問の教師の姿があった。
「あ、フィオナ先輩はゆっくりでいいですよ! 先輩の指導を受けたい人はいっぱいいるので!」
「? それだと急がないといけなんじゃないのかなー?」
「いえ! あまりにも多すぎてどうせ消化しきれないので、ゆっくりで大丈夫です!」
「あの、俺、一応先生なんだけど……」
「だから何なの、先生!?」
「すみませんでした……」
圧に押され、指導することとなる。
が。
「あれに当てるのか?」
「そうでーす」
最初に訪れた女子3人のグループは凡そ20メートルほどの距離にある丸い的に当てる練習をしていたのだ。
「ちょっと近くないか?」
「えー、そうですかー? 難しいですよ?」
女子たちは実演してみせてくれるが、不規則な軌道を描いた各属性の魔法弾は半径30センチほどある的のあちこちに当たる。
(これは思ってたより……)
20メートルとは野球のマウンドまでの距離より少し遠いくらいで、半径30センチの円はストライクゾーンよりも広い。
ただ物を投げても当てることが出来る距離で苦戦しているとなれば、確かにこれよりも距離を伸ばすのは難しいだろう。
ライヤが特に注目したのは、魔力制御の脆弱さ。
綺麗な軌道を描けないという事は、最も初歩的な魔法弾の魔力制御にさえムラが出ているという事に他ならない。
聞けば、彼女らは4年生のD級。
いくら平民出身とはいえ、4年生になってこの水準はライヤにとって衝撃であった。
というのも、今のライヤの教え子たちの方が上手くやれると感じたからである。
学園での3年間の差は大きい。
教師により程度の差はあるかもしれないが、それでもおかしすぎるのだ。
「先生?」
「あ、あぁ。すまない。じゃあ、アドバイスしていこうか」
「先輩、どう思います?」
「ちょっと、こっちで調べてみるわ。くれぐれも、ライヤ君は勝手に動かないでね?」
クラブからの帰り道。
生徒たちに気を遣われ、イリーナからの刺すような視線を浴びながら帰路についたライヤとフィオナはそんな話をしていた。
「やっぱり、何かありますよね?」
「そうね、代々かなりの実力者を輩出してきた魔術クラブがたった2年でこんなことになるなんておかしいわ。最もおかしいのはイリーナさんも含めて私がいた時からいる生徒も違和感を持っていないという事。流石に外部からの干渉がなければああはならないわ」
「同感です。ただ、口調が変わってますよ、先輩。仕事モードの時はちゃんと話せるじゃないですか」
「! 何のことかなー?」
誤魔化すように腕に抱き着いてくるフィオナを引き剥がしながらライヤは社員寮を見上げる。
「情報収集、お願いしますね。この頃、きな臭いので」
「二時限目、王国史。はじめっ!」
号令と共に、7人が答案用紙を表にする音が響く。
テスト当日。
3日間にわたるテストの初日がスタートしていた。
『全員教師作戦』の成果は結果が出てみないとわからないが、概ねみんな満足していたように見えた。
あとは生徒たちが上手くいく様に願うしかないだろう。
「(ねむっ……!)」
ライヤはと言えば、当日の早朝までかかったテスト作成によって強烈な眠気に襲われていた。
嫌がらせのように(実際に嫌がらせなのだが)作ってきたテスト案を悉く突き返され、4回目で5年前のテストを試しに持ってきて全くなっていないと突き返された時は温厚なライヤもキレかけた。
そんな紆余曲折を経て、今日を迎えているわけである。
「(ここから午後もあるなんて考えたくもないな……)」
テスト当日で1日に何教科もやらないという方針から四時限目までしかないが、ライヤにとってははるか先の事のように思えた。
「先生」
「はい?」
ボーっとしていたライヤにエウレアが声を上げる。
「どうした?」
「……」
スッと解答用紙を見せてくる。
見ると、明らかに記入ミスをしている場所があった。
この世界では紙と鉛筆なんてものは開発されておらず、羊皮紙にインクで書いているような形だ。
記入ミスはどうすることもできない。
「じゃあ、そこから回答欄一つずつずらして書いていけ。解答用紙に余裕が出来るように作ってあるから」
こう考えると、鉛筆と消しゴムの発明は画期的だと思われる。
一度書いたものを消せるって凄いメリットだ。
「(何かで代用できないか考えてみるか……)」
あくびを噛み殺しながらライヤは考えるのであった。
「テスト前最後なので、軽く的あてでもやって終わりましょうか」
「「はい!」」
元気よく散っていく部員たちに、顧問となったライヤとコーチになったフィオナは怪訝な顔をしていた。
「魔術クラブで、的あて……?」
「アップでもそんなことしたことないよー?」
2人はこそこそと言い合うが、イリーナにばれてしまう。
「先生! フィオナ先輩とイチャイチャしている暇があるなら顧問として指導の一つでもしなさい! ほら、見て!」
イリーナが指差す先には熱心に指導をしている顧問の教師の姿があった。
「あ、フィオナ先輩はゆっくりでいいですよ! 先輩の指導を受けたい人はいっぱいいるので!」
「? それだと急がないといけなんじゃないのかなー?」
「いえ! あまりにも多すぎてどうせ消化しきれないので、ゆっくりで大丈夫です!」
「あの、俺、一応先生なんだけど……」
「だから何なの、先生!?」
「すみませんでした……」
圧に押され、指導することとなる。
が。
「あれに当てるのか?」
「そうでーす」
最初に訪れた女子3人のグループは凡そ20メートルほどの距離にある丸い的に当てる練習をしていたのだ。
「ちょっと近くないか?」
「えー、そうですかー? 難しいですよ?」
女子たちは実演してみせてくれるが、不規則な軌道を描いた各属性の魔法弾は半径30センチほどある的のあちこちに当たる。
(これは思ってたより……)
20メートルとは野球のマウンドまでの距離より少し遠いくらいで、半径30センチの円はストライクゾーンよりも広い。
ただ物を投げても当てることが出来る距離で苦戦しているとなれば、確かにこれよりも距離を伸ばすのは難しいだろう。
ライヤが特に注目したのは、魔力制御の脆弱さ。
綺麗な軌道を描けないという事は、最も初歩的な魔法弾の魔力制御にさえムラが出ているという事に他ならない。
聞けば、彼女らは4年生のD級。
いくら平民出身とはいえ、4年生になってこの水準はライヤにとって衝撃であった。
というのも、今のライヤの教え子たちの方が上手くやれると感じたからである。
学園での3年間の差は大きい。
教師により程度の差はあるかもしれないが、それでもおかしすぎるのだ。
「先生?」
「あ、あぁ。すまない。じゃあ、アドバイスしていこうか」
「先輩、どう思います?」
「ちょっと、こっちで調べてみるわ。くれぐれも、ライヤ君は勝手に動かないでね?」
クラブからの帰り道。
生徒たちに気を遣われ、イリーナからの刺すような視線を浴びながら帰路についたライヤとフィオナはそんな話をしていた。
「やっぱり、何かありますよね?」
「そうね、代々かなりの実力者を輩出してきた魔術クラブがたった2年でこんなことになるなんておかしいわ。最もおかしいのはイリーナさんも含めて私がいた時からいる生徒も違和感を持っていないという事。流石に外部からの干渉がなければああはならないわ」
「同感です。ただ、口調が変わってますよ、先輩。仕事モードの時はちゃんと話せるじゃないですか」
「! 何のことかなー?」
誤魔化すように腕に抱き着いてくるフィオナを引き剥がしながらライヤは社員寮を見上げる。
「情報収集、お願いしますね。この頃、きな臭いので」
「二時限目、王国史。はじめっ!」
号令と共に、7人が答案用紙を表にする音が響く。
テスト当日。
3日間にわたるテストの初日がスタートしていた。
『全員教師作戦』の成果は結果が出てみないとわからないが、概ねみんな満足していたように見えた。
あとは生徒たちが上手くいく様に願うしかないだろう。
「(ねむっ……!)」
ライヤはと言えば、当日の早朝までかかったテスト作成によって強烈な眠気に襲われていた。
嫌がらせのように(実際に嫌がらせなのだが)作ってきたテスト案を悉く突き返され、4回目で5年前のテストを試しに持ってきて全くなっていないと突き返された時は温厚なライヤもキレかけた。
そんな紆余曲折を経て、今日を迎えているわけである。
「(ここから午後もあるなんて考えたくもないな……)」
テスト当日で1日に何教科もやらないという方針から四時限目までしかないが、ライヤにとってははるか先の事のように思えた。
「先生」
「はい?」
ボーっとしていたライヤにエウレアが声を上げる。
「どうした?」
「……」
スッと解答用紙を見せてくる。
見ると、明らかに記入ミスをしている場所があった。
この世界では紙と鉛筆なんてものは開発されておらず、羊皮紙にインクで書いているような形だ。
記入ミスはどうすることもできない。
「じゃあ、そこから回答欄一つずつずらして書いていけ。解答用紙に余裕が出来るように作ってあるから」
こう考えると、鉛筆と消しゴムの発明は画期的だと思われる。
一度書いたものを消せるって凄いメリットだ。
「(何かで代用できないか考えてみるか……)」
あくびを噛み殺しながらライヤは考えるのであった。
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