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教師1年目
大陸の動向
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「それで、どう思う?」
「何が?」
「わかってるでしょ。賢者の話よ」
テストまで残り1週間と少しとなった休み前最後の授業日の夜。
アンがライヤの自宅を訪ねていた。
「……まぁ、現実的なんだろうな。あの爺は性的なこと以外なら割とまともな人だからな」
「それにしてはライヤって賢者に対してだけ当たりが強いわよね」
ライヤとしても言い分はある。
この世界では強い遺伝子を残すという考えがあるのもわかってるし、生物としてはむしろ正しいとさえ思っている。
しかし、賢者の子供は作っておいてあとは知らんという考えがライヤにはどうしても許せなかった。
だが、国として賢者の役割と功績は理解しているし、他の部分では尊敬できるのもわかっている。
魔法についても助言してもらったことさえある。
それを差し引いて暴言で迎えるというスタンスになっているのだ。
普段から賢者にはそういった感じなのだが、同時に賢者に会うのが初めてだったアンには新鮮だったらしい。
「俺の当たりが強いのはあの爺に対してだけだから気にしないでくれ。それよりも、戦争のことだ」
「そうね、予期していなかったと言えば噓になるけれど……」
この大陸には大きく分けて4つの勢力がある。
まず、ライヤやアンが属している王国。
そして、つい2年ほど前に王国と戦争となった帝国。
王国とはほとんど接点のない公国。
最後に海洋諸国連合である。
大陸をそれぞれの土地をまとめて、正方形であると仮定したとき。
西側の一辺を海洋諸国連合が保持している。
その他の土地を北から公国、帝国、王国の順に領土としているのだが、帝国が海洋諸国までの内陸を公国と王国の両国に挟まれながらも保持しているため、公国と王国との接点は4つの勢力がせめぎ合っている点のみとなる。
そしてこの4つの勢力で問題となるのは、海洋諸国連合の圧倒的な土地不足である。
諸国連合という名前からもわかる通り、そもそも複数の国家が連立しており、内政も特別に上手くいっているわけではない。
さらに、他の三国が盤石な体制であるためにどうしても追いやられてしまうのだ。
「まぁ、うちにくるのかって感じよね」
「三国はそれが狙いだもんな」
海洋諸国連合は圧倒的に土地が足りない。
鉱産資源や、農産物の栽培さえも難しくなってしまう。
しかし、他の三国は助けない。
海洋諸国連合のような、そもそもまとまりが薄い組織が戦争になれば分裂し、自国の領土となる可能性が高いためだ。
そして戦争では三国を一気に相手するわけもないので自国が戦争になる確率は単純に考えれば3分の1である。
「今回は公国や帝国が上手くやったってことじゃないか?」
「うちもそれなりに頑張っていたと思うんだけどね……」
ふぅとため息をついてアンはライヤの膝に頭をのせる。
「この短期間に2回も戦争となると……、疲弊は免れないわね」
「そうだな……。諸国連合の本気度というか、どれだけやっていいと考えているかにもよるけど。後がないほどなのか?」
「それはないと思うわ。そんなに苦しかったのなら、もっと前に何かアクションがあっても良かったはずよ」
「なら、王国が察知できていなかったか、のっぴきならない事情が出来たかだな。それも、他国を狙う理由にならないような」
仮に公国が何かを仕掛けたせいで諸国連合が戦争を起こさなければならないところまでいったのなら、間違いなく公国に対して戦争を仕掛けることになるだろう。
そこで他国に仕掛けてもうまみがない。
「もしくは、他国が王国の仕掛けに見せかけた何かを成功させたか……」
しかし、この案は可能性が低い。
その動きが王国にばれればもちろん阻止に動かれるし、そういった動きをしている国は信用ならないため、他3勢力の不興を一気に買いかねない。
「本当に、王国が諸国連合に対して何かしたってわけじゃないんだな?」
「し、知らないわよ。今年になるまで国政に関わっていたわけじゃないし……」
「それはそうだ、すまん」
「じゃあ、王様たちはどう考えているんだ?」
「今はまだなにも起こっていないし、どうにもできないって感じかしら。賢者の忠告は無視するわけにもいかないけれど、戦争を仕掛けられるような覚えもないって言っていたわ」
王様は戦時に強い代わりに外交にはあまり関わっていない。
むしろ自分が関わることでことがややこしくなるのを嫌うタイプである。
よって、大臣たちが外交を担っているのだが、そこで何らかの手違いがあったか。
どちらにせよ、戦争は起きてしまえばそれを受ける側に選択肢はない。
「まぁ、俺は教師だから関係ないな」
「何言ってるのよ。生徒の時ですら参加した人間が教師になって参加しないで済むと思ってるの?」
「……嫌だ! 俺は信じない!」
「ふぅ~ん。私を一人で行かせる気なんだ」
「え、またアンがいくのか?」
「そうなるでしょうね。これを機とみて帝国が仕掛けてきたら今度こそお父様が出るしかないでしょうから。こっちは私よね」
「……」
ほんっとうに諸大臣方。
どうにか戦争を止めてください!
「何が?」
「わかってるでしょ。賢者の話よ」
テストまで残り1週間と少しとなった休み前最後の授業日の夜。
アンがライヤの自宅を訪ねていた。
「……まぁ、現実的なんだろうな。あの爺は性的なこと以外なら割とまともな人だからな」
「それにしてはライヤって賢者に対してだけ当たりが強いわよね」
ライヤとしても言い分はある。
この世界では強い遺伝子を残すという考えがあるのもわかってるし、生物としてはむしろ正しいとさえ思っている。
しかし、賢者の子供は作っておいてあとは知らんという考えがライヤにはどうしても許せなかった。
だが、国として賢者の役割と功績は理解しているし、他の部分では尊敬できるのもわかっている。
魔法についても助言してもらったことさえある。
それを差し引いて暴言で迎えるというスタンスになっているのだ。
普段から賢者にはそういった感じなのだが、同時に賢者に会うのが初めてだったアンには新鮮だったらしい。
「俺の当たりが強いのはあの爺に対してだけだから気にしないでくれ。それよりも、戦争のことだ」
「そうね、予期していなかったと言えば噓になるけれど……」
この大陸には大きく分けて4つの勢力がある。
まず、ライヤやアンが属している王国。
そして、つい2年ほど前に王国と戦争となった帝国。
王国とはほとんど接点のない公国。
最後に海洋諸国連合である。
大陸をそれぞれの土地をまとめて、正方形であると仮定したとき。
西側の一辺を海洋諸国連合が保持している。
その他の土地を北から公国、帝国、王国の順に領土としているのだが、帝国が海洋諸国までの内陸を公国と王国の両国に挟まれながらも保持しているため、公国と王国との接点は4つの勢力がせめぎ合っている点のみとなる。
そしてこの4つの勢力で問題となるのは、海洋諸国連合の圧倒的な土地不足である。
諸国連合という名前からもわかる通り、そもそも複数の国家が連立しており、内政も特別に上手くいっているわけではない。
さらに、他の三国が盤石な体制であるためにどうしても追いやられてしまうのだ。
「まぁ、うちにくるのかって感じよね」
「三国はそれが狙いだもんな」
海洋諸国連合は圧倒的に土地が足りない。
鉱産資源や、農産物の栽培さえも難しくなってしまう。
しかし、他の三国は助けない。
海洋諸国連合のような、そもそもまとまりが薄い組織が戦争になれば分裂し、自国の領土となる可能性が高いためだ。
そして戦争では三国を一気に相手するわけもないので自国が戦争になる確率は単純に考えれば3分の1である。
「今回は公国や帝国が上手くやったってことじゃないか?」
「うちもそれなりに頑張っていたと思うんだけどね……」
ふぅとため息をついてアンはライヤの膝に頭をのせる。
「この短期間に2回も戦争となると……、疲弊は免れないわね」
「そうだな……。諸国連合の本気度というか、どれだけやっていいと考えているかにもよるけど。後がないほどなのか?」
「それはないと思うわ。そんなに苦しかったのなら、もっと前に何かアクションがあっても良かったはずよ」
「なら、王国が察知できていなかったか、のっぴきならない事情が出来たかだな。それも、他国を狙う理由にならないような」
仮に公国が何かを仕掛けたせいで諸国連合が戦争を起こさなければならないところまでいったのなら、間違いなく公国に対して戦争を仕掛けることになるだろう。
そこで他国に仕掛けてもうまみがない。
「もしくは、他国が王国の仕掛けに見せかけた何かを成功させたか……」
しかし、この案は可能性が低い。
その動きが王国にばれればもちろん阻止に動かれるし、そういった動きをしている国は信用ならないため、他3勢力の不興を一気に買いかねない。
「本当に、王国が諸国連合に対して何かしたってわけじゃないんだな?」
「し、知らないわよ。今年になるまで国政に関わっていたわけじゃないし……」
「それはそうだ、すまん」
「じゃあ、王様たちはどう考えているんだ?」
「今はまだなにも起こっていないし、どうにもできないって感じかしら。賢者の忠告は無視するわけにもいかないけれど、戦争を仕掛けられるような覚えもないって言っていたわ」
王様は戦時に強い代わりに外交にはあまり関わっていない。
むしろ自分が関わることでことがややこしくなるのを嫌うタイプである。
よって、大臣たちが外交を担っているのだが、そこで何らかの手違いがあったか。
どちらにせよ、戦争は起きてしまえばそれを受ける側に選択肢はない。
「まぁ、俺は教師だから関係ないな」
「何言ってるのよ。生徒の時ですら参加した人間が教師になって参加しないで済むと思ってるの?」
「……嫌だ! 俺は信じない!」
「ふぅ~ん。私を一人で行かせる気なんだ」
「え、またアンがいくのか?」
「そうなるでしょうね。これを機とみて帝国が仕掛けてきたら今度こそお父様が出るしかないでしょうから。こっちは私よね」
「……」
ほんっとうに諸大臣方。
どうにか戦争を止めてください!
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