上 下
82 / 328
教師1年目

体育祭当日 16:03

しおりを挟む
「せんせぇ~……」
「おいおい……」

無事に(?)体育祭が終了し、会場から一般客が帰路につくのを確認したライヤは会場警備の任から解かれた。
捕まえた人たちの処遇は気になるものの、ライヤが関与できることなど何もない。
知らない方がいいだろう。

一応、残っている生徒がいないかの確認のために会場内に入ったのだが、珍しく泣いているウィルが抱きついてきた。
横にいつものように控えているティムとエウレアも悔しそうにしているところから見るに、勝てなかったのが悔しかったのだろう。
エウレアの表情はほぼ変わっていないが。

「結果は?」
「ウィルたちは2位よ。優勝はCクラスね」
「順当と言えば順当だな」

Cクラスクラスが7つしかない弊害で唯一1クラスで戦うことになっている。
人数は個人種目はCクラスの生徒が2回ずつ出て、団体戦はCクラスの生徒数に合わせることで解決しているのだが、普段から一緒にいる面子ということで点数配分の高い団体競技においてかなり強い傾向がある。
能力的にも魔法能力と身体能力のバランスが良く、作戦に幅があるというのも要因の一つではある。

「だが、惜しかったんだろ?」
「そうね。例年の1年生の中では、接戦だった方だと思うわよ」

1年生は体育祭の重要性というか、規模の大きさをあまり理解していないことが多い。
日本における体育大会などとは少し趣向が違うのだ。
言うなれば、競技の全国大会のようなものだろうか。
軍であったり、各貴族によるスカウトの対象となるのだ。
陣取りなど、戦争を意識した種目が設定されているのはそういった背景もあるからである。

「でもぉ~……」
「ウィル! 必要以上にライヤにくっつかないの! ライヤが困ってるでしょ!?」
「い、いや、俺はそんなに……」

少し本音が出たライヤをキッとにらむアン。
両手を挙げて降参の意思を伝えるライヤ。
9歳児が泣きついていたところでそれほど負担ではないのは確かだ。
問題は、ウィルがアンに宣戦布告を行っているという点である。
ライヤはそれほど重要視していないようだが、アンはわかっていた。
なぜなら、ウィルがアンに対抗することなんて初めてだったのだから。

「それで、そこにいる俺への殺気が半端ないのは……?」

なぜかライヤがその場に来た時から土下座しっぱなしのFクラスの女の子がいた。

「なぜかこのままなのよねー」
「王妃がいらっしゃるからでは?」
「というか、9歳の女の子の前に王妃と第一王女が現れたらこうなるわよ」

アンの言う事にも一理あるだろう。
普段平民が王女に会うことなどまずない。
ウィルとは同じ学年なため会うこともあるし、もう慣れたのかもしれないが、アンなんて雲の上の存在だ。
普段公の場に出てこない王妃なんてもはやまともに見れないだろう。

「顔を上げないままでも殺気がわかるんだが……」

それもライヤに向いているのが。

「さぁ、それは知らないわ。何かこの子に悪いことした? それならそれで私が直々に手を下すけど……」

スッと握りこぶしを出してくるアンの背後に「ロリコン撃滅」と書いているのが見える。
誤解にも程がある。

「ん……?」

何かぶつぶつと呟いてないか……?

「お姉さまに近づく男は滅ぶべし……」
「……」

これ関わっちゃいけないタイプの奴だ。
恐らくお姉さまとはウィルの事だろうが、どうしてそうなってるんだ。

「頑張って、それでも負けたんだろ? それならまぁ仕方ないだろ。来年また頑張ればいい」
「でも、来年は先生が担任じゃないかもしれないじゃないですか」

真紅の瞳に涙をためたまま抱き着いているウィルが顔を上げる。

「それは、そうかもしれないが……。ほら、来年なら俺も会場で見れるかもしれないし……」

むしろ、そうであってほしいとライヤは願う。
警備に回されて碌なことがなかった。

「うぅ……」
「ほら、もう帰らなきゃだろ? 明日は休みなんだから、しっかりと疲れを癒してくれ。王妃」
「はいはーい。ほら、ウィル、帰るわよ。マオさん、でしたっけ? あなたも親御さんが心配するわよ。早くお帰りなさい」
「は、はい! 失礼します!」

王妃から直々に声をかけられたマオは土下座の体勢のままずりずりと後退していき、姿を消した。

「……」

突っ込まない方がいいんだろうなぁ……。


「いつまでも落ち込んでいられないぞ? 2週間後にはもう期末試験が控えてるからな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

公爵夫人のやけごはん〜旦那様が帰ってこない夜の秘密のお茶会〜

白琴音彩
ファンタジー
初夜をすっぽかされ続けている公爵夫人ヴィヴィアーナ。今日もベットにひとりの彼女は、仲間を集めて厨房へ向かう。 公爵夫人が公爵邸の使用人たちとおいしく夜食を食べているだけのほのぼのコメディです。 *1話完結型。 *リアルタイム投稿 *主人公かなり大雑把なので気になる人はUターン推奨です。 *食べ盛りの女子高校生が夜中にこっそりつくる夜食レベル

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...