80 / 328
教師1年目
体育祭当日 14:43
しおりを挟む
「それにしても、どこにいったのでしょうね?」
「クンが申し訳ありません、お姉さま……」
「マオさんが謝ることではないでしょう。それに、怒ってもいませんから。単純な興味です。午前の競技には参加していたはずですが……」
「あ!」
ウィルとマオがそんな話をしていると、周りにいた生徒が声を上げる。
その生徒の指さす方を見ると、少し目の周りを赤くしたクンがこちらへ歩いてくるのが見えた。
「クン! どこ行ってたの? 心配したんだよ」
「あぁ……、すまなかった」
「!?」
普段ならどんなことがあっても謝らないクンが素直に謝ったことによりマオは困惑する。
それは普段のF級での様子を知っているクラスメイト達も同様であった。
S級の皆はなぜそれほど驚いているのかわからなかったが、1人ゲイルだけは察していた。
(俺もあんな感じだったんだろうな……)
今では丸くなろうと努力しているゲイルだが、なまじ貴族であるという後ろ盾があった分厄介であった。
「ウィル王女も、俺の身勝手で……」
そう言うクンの言葉にはただいなくなっただけではない何かが込められているような気がしたが、ウィルは深くは聞かなかった。
「戻ってきてくれたという事は、競技に参加してくれるという事ですか?」
「作戦も何も聞いていない俺でいいなら、もちろん参加させてほしい」
「もちろんです! 人数が足りなかったのでありがたいですね」
各連合の人数の少ない方に合わせられるのだが、今回はS・F級連合の方が人数が少なかった。
よって、その人数で登録されているのだが、クンがいなければそこから1人減ってしまう。
さらに言えば、クンはF級でリーダー格であることからもわかる通り、ある程度能力が高い。
この競技においては重要な人材であると言えた。
「さぁ、みんなそろったことですし! 勝ちましょう!」
皆を鼓舞するウィルを眺めているクンにマオは声をかける。
「何してたの?」
「お前には関係ない」
「ふーん……。まぁ、泣くだけ泣いたならいいんじゃない?」
「!?」
泣いていたのがバレないようにできるだけ目元を冷やしてきたのだが、どうやらバレバレだったようだ。
「何してたか知らないけど、お姉さまの邪魔だけはダメよ?」
「あぁ、身に染みてわかってるさ」
遡ること15分前。
「ライヤ先生も仕事をしていることだし、私も仕事をしなくてはなりません」
泣き崩れているクンに立ったままそう語りかけるアンネ先生。
「本来であれば王女の誘拐など企てるだけで重罪です。酒場で冗談として言っただけでも裁かれるでしょう。今回は実行にまで移しているのですから、それなりの罪になるでしょうね」
淡々と事実を述べる。
「教師としては生徒を守りたい気持ちももちろんありますが、罪をなかったことにはできません。これほどの大事であれば王族による裁定が下されるでしょう。事情を鑑みるに多少の恩赦はあるでしょうが、それも私の知るところではありません。ここまでで何か言いたいことは?」
「……ありません……」
「そうですか。生徒という事もあるので、あなたは守りたいですがね……」
「いえ、悪いことをしていたのはわかっています。悪いことをした人は、罰を受けないといけません」
「いい心がけですね」
「顔を上げなさい」
アンネ先生の声がして、クンが顔を上げるとそこには髪がきれいな真っ白になり、瞳が真紅になったアンが立っていた。
教師用の白ローブを着ているのでわかりにくかったが、少しポカンとした後にクンは叫びをあげる。
「あ、アン王女!?」
「えぇ、そうです。妹がお世話になっていますね」
何と言う事だ。
狙っていたウィルの姉の目の前で計画を聞きだされていたのだ。
あまりの事態に土下座して震えることしかできないクン。
「王家として、あなたの処遇を決めたいと思います。異論はありませんね?」
「……」
「肯定とみなします。では、クン。あなたは学園での7年間をすごしたのち、軍で働いてもらいます」
「え……?」
すぐに罰が与えられるというわけでないのに驚き、クンは顔を上げる。
「利用されていたという事とまだ子供であるという点を鑑みて罰としては労働が適当でしょう。しかし、あなたのような子供が必要とされる仕事など我が国では認めていません」
「よって、成長したのちに軍で10年間の兵役を命じます。F級ということもあって軍での立場はひどく厳しいものとなるでしょう。ですが、これは罰です。異論はありますか?」
「……」
反論など、できるはずもない。
そもそもこの罰でさえ軽い方なのだ。
「では、学園生活をこれからも送るにあたって今すべきことはわかりますね?」
「体育祭を、頑張ることです」
「よろしい、ではいきなさい」
「あぁ、そうそう」
ぺこりと頭を下げて立ち去ろうとするクンをアンが呼び止める。
「私がアンネ先生であることは他言無用です。もちろん、これ以降ウィルに手出しするようであれば容赦はしません」
ボンッ!
アンが開いた手のひらで火が爆ぜる。
「いいですね?」
コクコクと必死に頷いたクンはその場から逃げるように走り去っていった。
「容赦ないな……」
男たちを連行して戻ってきていたライヤはその様子を見てそう呟くのだった。
「クンが申し訳ありません、お姉さま……」
「マオさんが謝ることではないでしょう。それに、怒ってもいませんから。単純な興味です。午前の競技には参加していたはずですが……」
「あ!」
ウィルとマオがそんな話をしていると、周りにいた生徒が声を上げる。
その生徒の指さす方を見ると、少し目の周りを赤くしたクンがこちらへ歩いてくるのが見えた。
「クン! どこ行ってたの? 心配したんだよ」
「あぁ……、すまなかった」
「!?」
普段ならどんなことがあっても謝らないクンが素直に謝ったことによりマオは困惑する。
それは普段のF級での様子を知っているクラスメイト達も同様であった。
S級の皆はなぜそれほど驚いているのかわからなかったが、1人ゲイルだけは察していた。
(俺もあんな感じだったんだろうな……)
今では丸くなろうと努力しているゲイルだが、なまじ貴族であるという後ろ盾があった分厄介であった。
「ウィル王女も、俺の身勝手で……」
そう言うクンの言葉にはただいなくなっただけではない何かが込められているような気がしたが、ウィルは深くは聞かなかった。
「戻ってきてくれたという事は、競技に参加してくれるという事ですか?」
「作戦も何も聞いていない俺でいいなら、もちろん参加させてほしい」
「もちろんです! 人数が足りなかったのでありがたいですね」
各連合の人数の少ない方に合わせられるのだが、今回はS・F級連合の方が人数が少なかった。
よって、その人数で登録されているのだが、クンがいなければそこから1人減ってしまう。
さらに言えば、クンはF級でリーダー格であることからもわかる通り、ある程度能力が高い。
この競技においては重要な人材であると言えた。
「さぁ、みんなそろったことですし! 勝ちましょう!」
皆を鼓舞するウィルを眺めているクンにマオは声をかける。
「何してたの?」
「お前には関係ない」
「ふーん……。まぁ、泣くだけ泣いたならいいんじゃない?」
「!?」
泣いていたのがバレないようにできるだけ目元を冷やしてきたのだが、どうやらバレバレだったようだ。
「何してたか知らないけど、お姉さまの邪魔だけはダメよ?」
「あぁ、身に染みてわかってるさ」
遡ること15分前。
「ライヤ先生も仕事をしていることだし、私も仕事をしなくてはなりません」
泣き崩れているクンに立ったままそう語りかけるアンネ先生。
「本来であれば王女の誘拐など企てるだけで重罪です。酒場で冗談として言っただけでも裁かれるでしょう。今回は実行にまで移しているのですから、それなりの罪になるでしょうね」
淡々と事実を述べる。
「教師としては生徒を守りたい気持ちももちろんありますが、罪をなかったことにはできません。これほどの大事であれば王族による裁定が下されるでしょう。事情を鑑みるに多少の恩赦はあるでしょうが、それも私の知るところではありません。ここまでで何か言いたいことは?」
「……ありません……」
「そうですか。生徒という事もあるので、あなたは守りたいですがね……」
「いえ、悪いことをしていたのはわかっています。悪いことをした人は、罰を受けないといけません」
「いい心がけですね」
「顔を上げなさい」
アンネ先生の声がして、クンが顔を上げるとそこには髪がきれいな真っ白になり、瞳が真紅になったアンが立っていた。
教師用の白ローブを着ているのでわかりにくかったが、少しポカンとした後にクンは叫びをあげる。
「あ、アン王女!?」
「えぇ、そうです。妹がお世話になっていますね」
何と言う事だ。
狙っていたウィルの姉の目の前で計画を聞きだされていたのだ。
あまりの事態に土下座して震えることしかできないクン。
「王家として、あなたの処遇を決めたいと思います。異論はありませんね?」
「……」
「肯定とみなします。では、クン。あなたは学園での7年間をすごしたのち、軍で働いてもらいます」
「え……?」
すぐに罰が与えられるというわけでないのに驚き、クンは顔を上げる。
「利用されていたという事とまだ子供であるという点を鑑みて罰としては労働が適当でしょう。しかし、あなたのような子供が必要とされる仕事など我が国では認めていません」
「よって、成長したのちに軍で10年間の兵役を命じます。F級ということもあって軍での立場はひどく厳しいものとなるでしょう。ですが、これは罰です。異論はありますか?」
「……」
反論など、できるはずもない。
そもそもこの罰でさえ軽い方なのだ。
「では、学園生活をこれからも送るにあたって今すべきことはわかりますね?」
「体育祭を、頑張ることです」
「よろしい、ではいきなさい」
「あぁ、そうそう」
ぺこりと頭を下げて立ち去ろうとするクンをアンが呼び止める。
「私がアンネ先生であることは他言無用です。もちろん、これ以降ウィルに手出しするようであれば容赦はしません」
ボンッ!
アンが開いた手のひらで火が爆ぜる。
「いいですね?」
コクコクと必死に頷いたクンはその場から逃げるように走り去っていった。
「容赦ないな……」
男たちを連行して戻ってきていたライヤはその様子を見てそう呟くのだった。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう!
そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね!
なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!?
欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!?
え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。
※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません
なろう日間週間月間1位
カクヨムブクマ14000
カクヨム週間3位
他サイトにも掲載
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!
つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが!
第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。
***
黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
公爵夫人のやけごはん〜旦那様が帰ってこない夜の秘密のお茶会〜
白琴音彩
ファンタジー
初夜をすっぽかされ続けている公爵夫人ヴィヴィアーナ。今日もベットにひとりの彼女は、仲間を集めて厨房へ向かう。
公爵夫人が公爵邸の使用人たちとおいしく夜食を食べているだけのほのぼのコメディです。
*1話完結型。
*リアルタイム投稿
*主人公かなり大雑把なので気になる人はUターン推奨です。
*食べ盛りの女子高校生が夜中にこっそりつくる夜食レベル
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる