上 下
58 / 328
教師1年目

土魔法

しおりを挟む
「さて、今日も今日とて魔力制御をやっていくわけだが……」

Sクラスの生徒たちはライヤに感化されて家でも自主練習を行っているらしく、例年の生徒に比べて魔力制御の上達が格段に早い。
そもそも魔力制御自体3年生からやっと学び始める内容なのだが。

「はい」
「なんだマロン」

珍しくマロンが手を挙げる。

「土魔法が出来るようになりたいですー」
「お、どうしてだ」
「んーと、僕は見ての通り動けないから。体育祭で役に立ちたいなら土魔法かなーって」
「ほう」

考えは悪くない。
自分が素早く移動して物陰に隠れるなんて挙動は出来ないので自分で土壁とか地形を変えてしまえばいいだろうという考えだろう。

「なら、放課後教えてやろうと思うが、いいか? 授業ではみんなの相手をしたいからな」
「わかったー」

のーんびりと答えるマロン。
切羽詰まってるのか余裕なのかわからんが、余裕を持っていて損はないだろう。


放課後。

「よし、待たせたな」
「全然大丈夫だよー」

行儀よく自分の席に座って待っていたマロンと向かい合う。
他のクラスの面々はFクラスとまた練習だろうか。

「土魔法を覚えたいってことだったが、試したことはあるんだろ? それで出来なかったのか?」
「んー。出来ないというより、難しいって感じー」
「なるほどな」

まぁ、苦手といったところだろう。

「それを教えるにあたって、俺よりたぶん適役な人がいるから呼んできた」
「おぉー」

パチパチと太った手で拍手をするマロン。

「いいぞ、入って」
「一生徒のために私を呼びつけるなんていい度胸ね」
「アン王女!?」

ライヤが呼んだのはアン第一王女その人であった。

「アンも土魔法が苦手だったからな。一応、俺が教えたから俺がもう一度それをやっても良かったんだけど、あと1週間しかないわけだし、先輩の経験も活かせないかなと」
「はぁ、珍しく呼ばれたから来てみれば……」
「お礼はするからさ。そこを頼むよ」
「じゃあ、1日デートね」
「お?」
「で、デートよ! 何度も言わせないで!」

甘々な会話をする2人だが、さしものマロンも混乱しており頭が追い付いていない。

「えっとー、僕は王女様に魔法を教わるの……?」
「そうかしこまらなくてもいいわ。ウィルだって王女でしょう。一旦、先生と生徒という形でいいでしょう」

実はアンネ先生として教壇に立ったりしているのだが、ウィル以外には怪しまれていないので大丈夫であろう。

「それで、土魔法よね。どう苦手なの?」
「あ、はいー。なんか、他の魔法と違って発動に時間がかかるというかー……」
「なら私も同じよ」
「え、王女様もー?」

そう、アンも同じ悩みを抱えていたのだ。

「先生と呼びなさい」
「はーい、先生」

普段はアンとして先生呼びされないのでこの機会にと先生呼びを強要するアン。

「恐らく、土魔法に苦手意識があるのはその構成要素のせいよ」
「コウセイヨウソ?」
「ちょっと難しいかしらね。要するに、複数のもので作られているのよ」

火・水・風・光に関しては作りが単純であるが、土魔法に関しては小さな石や砂、それも成分が違うものが集まってできている。
複数のものを同時に作ろうとしているので魔法としてより難しくなっているのだ。

「でも、それだと、みんなも苦手になるんじゃないのー?」
「いいところに目をつけるわね。その理由はやってみればわかるわ。時間をかけてもいいからちょっとした土魔法をしてみなさい」

言われるままに土魔法でこぶし大の丸い塊を作り出すマロン。
確かに10秒ほど時間がかかっており、苦手だというのも頷ける。

「そして、これが私のよ」

コンマ数秒にも満たない速度で同じ大きさの土の塊を作るアン。

「見比べてみなさい。何が違うのか」

手に取ってのんびりと眺めていたマロンだが、何かに気づいてカッとその目を見開く。

「混ざってない……?」
「その通りよ」

複数の物質で構成されているのが原因ならば、1つに限定してしまえばいい。
石英なら石英だけで作ればいいのだ。

「いきなりはイメージがつきにくいでしょうから、そこらの土を観察してどれを軸にするか決めるといいわ。魔力制御が上達すれば自然と複数構成でも出来るようになるから」
「ありがとうございますー! やってみますー!」

マロンはアンにお礼を言って帰っていった。
早速実践するのだろう。

「ちゃんと先生してるじゃん」
「仮にも、先生だからね。ライヤも約束忘れるんじゃないわよ?」
「そうだな、まぁいつか……」
「今週末! いいわね?」
「はい……」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

公爵夫人のやけごはん〜旦那様が帰ってこない夜の秘密のお茶会〜

白琴音彩
ファンタジー
初夜をすっぽかされ続けている公爵夫人ヴィヴィアーナ。今日もベットにひとりの彼女は、仲間を集めて厨房へ向かう。 公爵夫人が公爵邸の使用人たちとおいしく夜食を食べているだけのほのぼのコメディです。 *1話完結型。 *リアルタイム投稿 *主人公かなり大雑把なので気になる人はUターン推奨です。 *食べ盛りの女子高校生が夜中にこっそりつくる夜食レベル

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...