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教師1年目

立場問題

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授業は3日間お休みとなった。
天下の王立魔術学校で王女の誘拐なんて言う大事件が起きたのだ。
当然の措置とも言える。
だが、逆に言えば3日だけで授業を再開したのも学校の意地ともとれる。

その3日間、ライヤはと言えば、査問会に呼び出されていた。

「アジャイブ魔術学校教諭、ライヤ・カサンで相違ないな?」
「はい」

ライヤからすればこなれたものである。

「今回貴殿を呼び出したのは他でもない。貴殿の担当する学級である1年Sクラスに在籍するウィル王女が攫われ、あわや殺害されるという憂き目に……」

わざわざ周知の事実をあたかもライヤの落ち度であったかのように述べる。
これも慣れたことである。
しかし、慣れたことによって得られた教訓が一つ。
どうせ大したこと言ってないからと聞き流しているといつの間にかまじで知らない罪を被せられて事実と同列であるかのように扱われるので注意が必要だ。

「ライヤ殿はウィル様を意図的にFクラスに向かうように仕向けていたと確かな筋からの情報があり、これが事実であれば貴殿はウィル様の誘拐を画策していた側だということになり……」

こういうことだな。

「……以上により、ライヤ殿は教職から退くべきだと考えられる。異論あるか?」
「異論しかないんですけど……」

これもいつものこと。

「ふむ、更にはウィル様が攫われた際、現場にいて助けようと動いたFクラスの担当教諭を殴り倒して妨害したとの報告もあるが、如何かね?」

お、一番面倒なとこだな。
ライヤがFクラスの担任を殴ったのは紛れもない事実である。
そしてこの査問会、ライヤに都合の良い人物が呼ばれることなんてないに等しい。
特にこの件に関しては俺が妨害したわけではないというのを証明できるのはその場にいた一般市民の子どもたちだけである。
そんな彼らを呼ぶはずがない。

「事件後、事を止められなかったショックで彼は寝込んでしまったらしい。彼の職をも奪っておいて何か思うことはないのかね」

あんな奴は失職してよかったと思いますよ、生徒のためにも。
と言いたいところだが、我慢だ。
ここでそんなことを言ったら不利な方向に持っていかれるだけである。
この状況で俺が出来ることは限られている。
違うものをしっかりと違うと否定し、あとは黙秘を続けること。
精神をすり減らして俺がへばることを狙っているのだろうが、2年前にもっとえげつないの受けてるからな。
そう簡単に折れると思うなよ?


「いい加減認めたらどうです? この査問会は王族認可のもとで行っているものであり、粘ってもあなたに都合の良い条件が引き出されることなんてありえませんよ」
「ほう、それはどこの王族の認可を得ているんだ」
「こ、国王陛下……」

2日目に入り、査問会が夕方まで続いて間延びしてきた頃。
国王が怒気をはらんだ声でそう告げる。

「言ってみろ。発言を許す。誰の命令でこのようなことをやっていると?」
「い、いえ、それは……」

国王直々の登場とは。
俺はアンが助けに来てくれるまで待つつもりだったのに。

「お前がこの場で王家の名を使ったことでもしこの査問が不当なものであったときに相応の対応が必要になるとわからんのか!」
「そ、それは……」

あー、なるほど。
そういう絡繰りか。
俺を追い詰めるためにこいつらが「王家の代弁だ」と口を滑らせるのを待っていたわけか。
それにしてもタイミングが良すぎるけど。

「アン」
「はい」

王様に呼ばれてアンが入ってくる。
その姿は、正装。
漆黒のドレスに身を包み、文書を片手に進み出る。

「査問会の皆様にはこちらの資料をご覧いただきます。ここには、ライヤ・カサンがウィル第三王女の誘拐に関わっていないと示す証拠があります。これまでにライヤ殿が誘拐に協力したと主張してきたお歴々はこれにはどうお考えか」

配られた資料を手に取り、既に青かった顔が赤黒くなる査問会のメンバー。

「さらには、査問会のメンバーもひどく限定的ではありませんか? 本来ならこのような小さな会議室でなく、大きな場でこの3倍ほどの人員が動員されるものと記憶されていますが」
「ほ、他のメンバーは都合がつかないと……」
「はい、そしてこれがその都合がつかないと思われる貴族の方々が本日査問会に参加できる旨を示した書状になります」

アンが紙の束を議長の机の上に叩きつける。

バッと周りを見渡すアン。
その白く輝く髪が黒いドレスに浮かび、まるで夜空の星々のようだった。

「私の友人に手を出したこと、後悔していただきます。お父様」
「あぁ、アンの友人という事を差し置いても、これだけの不当な拘束に査問。そもそもがウィルを救出したという功績があるものに対する仕打ちではない。お前らの家に、使いを送るとしよう」
「お、お待ちください!」

家に関わると聞いて静かだった貴族たちは騒ぎ始める。
それもそのはず。
このような法をいくつもすっ飛ばしているようなことを家族ぐるみでやっている者など数えるほどしかいないのだから。

「なんだ? 俺に指図するのか?」

普段あまり話さない王が、殺気を放つ。
厳密には殺気ではないのかもしれないが、為政者の持つ他人に対する威圧感のようなものは殺気にもなり得る。
それが一国の主、そして武勇で名をはせたともなれば大概である。

「連れて行け。牢は分けるように」

査問会の面々は王直属の部隊に連れられて部屋から姿を消した。
今回は1日と半日か。
かなり短かったな。

「ごめんね、ライヤ。待たせちゃって……」
「いや、かなり早い方だろ。正直、助かったよ」

王様は自分の役目は終わりだと言わんばかりにライヤに頷いて帰っていった。

「それで、さっきの話は理解したわよね?」
「どれのことだ?」
「要するに、ライヤに公的な立場が必要だって話よ」
「ん?」

そんな話あったか?

「と、いうわけではいこれ」

ポンと手渡されたのは丸められた紙。
王家の印が入った蠟で止められている。
うーん。
嫌な予感しかしない。

「王家からライヤ・カサンをアン第一王女の専属家庭教師とする……?」
「どう?」

ふふんとその綺麗な胸を張るアン。

「王女の家庭教師よ。貴族になる、王城で立場を持つ、以外なら最大限のものだと思うわ」
「実質王城で立場貰ったようなもんじゃないか?」
「いいえ? これはあくまで私からのものだもの。王城に入るならどんな形ででもお父様の許可がいるわ。でもこれは家庭教師を雇うというのを私が許可してもらって、私が指名した形よ。少なくとも、第一王女のものであるという証明になるわ」

なるほど。
直接ではないからセーフってことか。

「これって内密な事か?」
「いいえ? もう公布されると思うわよ?」

多くの人に知られるなら変わらないだろ……。
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