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教師1年目
軍の意向
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「国の軍を預かる立場にあるあなたがこのようなことをするなんて……」
「おっと、心外ですな」
もう既に60歳を超えなお現役で軍務を預かるタット・ヘラルドは長く伸ばした白髭を触りながら言う。
「だからこそ、です」
「ライヤ先生が国防に関わると?」
「いえ、士気に関わります」
落ち着き払ってタットは言う。
「先生の戦場での活躍は目を見張るものだと聞いています。それこそ軍の士気を上げるものでは?」
「それを立場のある者が行うから意味があるのです。例えばですが、先の戦争の戦功。あれをアン王女が素直に自らのものとしておけば今回のことは起こらなかったと言えるでしょう」
「あまりにも自分勝手な都合ですね」
「えぇ、それが貴族というものでしょう?」
「国軍として先生の力が必要ないとおっしゃるのですか!」
声を荒げるウィルにもタットは動じない。
「必要ないわけがなかろう?」
「!」
「彼が本当に辺鄙なところのでも良いから貴族であればとどれだけ苦悩したことか」
タットはふぅーとため息をつく。
「わしとて率先して彼を排除しようとはしておらんよ。しかし、貴族たちの文句を押さえつけるのももう限界じゃ。どこかで折り合いをつけねばならん」
「しかし……!」
「多くの貴族諸侯とライヤ・カサン1人。どちらの方が国にとって有用か、言うまでもないじゃろ?」
ウィルは知った相手だとわかって説得を試みたが、王女の誘拐なんて大それたことまで実行に移しているのだ。
生半可な覚悟ではないことは確かであった。
「王家が絡めばどうあっても動かざるを得まい。教え子を学園で誘拐され、何も出来なかったとなればどうあっても責任を問われるであろう。都合の良いことに学園内にもライヤ殿を追い出したい勢力はおるようじゃしな」
「なぜ、あなたが……」
「そりゃ他の世代に影響が出ないからじゃろ」
タット・ヘラルドはもちろん貴族である。
しかし、妾も含めても男の子宝に恵まれず、タットの代でヘラルド家は終わりを迎える。
「しかし、奥方たちは!」
「もう、妻ではないよ」
「そんな……!」
ウィルがこのまま無事に生き残れたとしても、ヘラルドへの罪は極刑以外にないだろう。
家族もその対象となりそうなものだが、既に関係を絶っているという。
そうなれば少なくとも法上は裁く事が出来ない。
「ウィル様には悪いが、ライヤ殿と関わりを深く持つのはアン王女とあなただけだ。今現在、国家にとってどちらが重要かは……」
タットはそこで言葉を切る。
暗にこう言っているのだ。
「お前はアンよりも役に立たないから殺されるのだ」と。
「これ以上は、もういいだろう」
部屋を出ようとするタットの背にウィルは言葉を投げる。
「後悔はないのですか!」
60になるまで仕えてきた国家の捨て石となり、国家反逆罪の汚名を着て死んでいくのだ。
あまりにも代償が大きい。
「もちろん、ない」
しかし、振り返ったタットの顔にはその影はなかった。
「こりゃまた大物だな」
「まさか……」
時をさかのぼること少し。
ライヤとアン、そして精鋭部隊はヘラルド家へと到着していた。
学園からウィルを誘拐できる部隊を送れる人物。
それなりに大物だとは思っていたが、大臣とまではライヤも考えていなかった。
「王女、あまりに不敬です! 大臣は長年王家に尽力を……」
「ならあなたにはヘラルド家ではないどこが犯人だと言うのですか」
怒りが一周まわったアンは静かにどすの利いた声で部隊長に言う。
「他の候補を挙げてから物を言いなさい。もちろん、間違っていた場合はどうなるかも承知したうえでです」
「失礼いたしました!」
貴族にあらぬ疑いをかけたとなればいかに精鋭部隊と言えどただでは済まない。
最低でも降格されるだろう。
「それで、どうすればいいと思う?」
「ここにウィルがいるのは間違いないのね?」
「あぁ、この距離なら知ってるやつの魔力を違えたりはしない」
大臣の家だけあって庭も広く、豪邸までの距離は道から100メートルほどあるが、このくらいの距離なら魔力で判別できる範囲内だ。
「なら、部隊長と他数名で王城に戻りなさい。令状を出して家宅捜索の許可をお父様から得ること」
「は!」
「他はこの屋敷を囲むように展開して。必ず逃がすことのないように」
「それで、俺たちは?」
「え? 突入を模索するに決まってるでしょ」
「いや、立場を考えるって話はどこいったよ」
「でも、ウィルがいるのは確実でしょ? 後から怒られてもラ、ライヤと亡命できるなら、それはそれで……」
事ここに至っても顔を真っ赤にしながらそんなことを言うアン。
周りの部隊の方々からの視線が非常に痛い。
「今のところウィルには何もされていないのよね?」
「まぁ、拘束はされてるみたいだがな」
「何かありそうならライヤの判断で突入していいわ」
「そんな許可出していいのか?」
「何よりもウィルを守らなきゃ、でしょ? 最悪ライヤは他国に逃げても重宝されるしね。それこそ帝国に行けばいいんじゃない?」
「まぁ、最悪な」
あの皇子の下で働くのはきつそうだ。
「!」
「なに!?」
「ウィルの部屋に近づいてるやつがいる!」
「! 行くわよ!」
「王女様!?」
精鋭部隊の制止を振り切ってライヤとアンはウィルがいる部屋の窓へ突撃した。
「おっと、心外ですな」
もう既に60歳を超えなお現役で軍務を預かるタット・ヘラルドは長く伸ばした白髭を触りながら言う。
「だからこそ、です」
「ライヤ先生が国防に関わると?」
「いえ、士気に関わります」
落ち着き払ってタットは言う。
「先生の戦場での活躍は目を見張るものだと聞いています。それこそ軍の士気を上げるものでは?」
「それを立場のある者が行うから意味があるのです。例えばですが、先の戦争の戦功。あれをアン王女が素直に自らのものとしておけば今回のことは起こらなかったと言えるでしょう」
「あまりにも自分勝手な都合ですね」
「えぇ、それが貴族というものでしょう?」
「国軍として先生の力が必要ないとおっしゃるのですか!」
声を荒げるウィルにもタットは動じない。
「必要ないわけがなかろう?」
「!」
「彼が本当に辺鄙なところのでも良いから貴族であればとどれだけ苦悩したことか」
タットはふぅーとため息をつく。
「わしとて率先して彼を排除しようとはしておらんよ。しかし、貴族たちの文句を押さえつけるのももう限界じゃ。どこかで折り合いをつけねばならん」
「しかし……!」
「多くの貴族諸侯とライヤ・カサン1人。どちらの方が国にとって有用か、言うまでもないじゃろ?」
ウィルは知った相手だとわかって説得を試みたが、王女の誘拐なんて大それたことまで実行に移しているのだ。
生半可な覚悟ではないことは確かであった。
「王家が絡めばどうあっても動かざるを得まい。教え子を学園で誘拐され、何も出来なかったとなればどうあっても責任を問われるであろう。都合の良いことに学園内にもライヤ殿を追い出したい勢力はおるようじゃしな」
「なぜ、あなたが……」
「そりゃ他の世代に影響が出ないからじゃろ」
タット・ヘラルドはもちろん貴族である。
しかし、妾も含めても男の子宝に恵まれず、タットの代でヘラルド家は終わりを迎える。
「しかし、奥方たちは!」
「もう、妻ではないよ」
「そんな……!」
ウィルがこのまま無事に生き残れたとしても、ヘラルドへの罪は極刑以外にないだろう。
家族もその対象となりそうなものだが、既に関係を絶っているという。
そうなれば少なくとも法上は裁く事が出来ない。
「ウィル様には悪いが、ライヤ殿と関わりを深く持つのはアン王女とあなただけだ。今現在、国家にとってどちらが重要かは……」
タットはそこで言葉を切る。
暗にこう言っているのだ。
「お前はアンよりも役に立たないから殺されるのだ」と。
「これ以上は、もういいだろう」
部屋を出ようとするタットの背にウィルは言葉を投げる。
「後悔はないのですか!」
60になるまで仕えてきた国家の捨て石となり、国家反逆罪の汚名を着て死んでいくのだ。
あまりにも代償が大きい。
「もちろん、ない」
しかし、振り返ったタットの顔にはその影はなかった。
「こりゃまた大物だな」
「まさか……」
時をさかのぼること少し。
ライヤとアン、そして精鋭部隊はヘラルド家へと到着していた。
学園からウィルを誘拐できる部隊を送れる人物。
それなりに大物だとは思っていたが、大臣とまではライヤも考えていなかった。
「王女、あまりに不敬です! 大臣は長年王家に尽力を……」
「ならあなたにはヘラルド家ではないどこが犯人だと言うのですか」
怒りが一周まわったアンは静かにどすの利いた声で部隊長に言う。
「他の候補を挙げてから物を言いなさい。もちろん、間違っていた場合はどうなるかも承知したうえでです」
「失礼いたしました!」
貴族にあらぬ疑いをかけたとなればいかに精鋭部隊と言えどただでは済まない。
最低でも降格されるだろう。
「それで、どうすればいいと思う?」
「ここにウィルがいるのは間違いないのね?」
「あぁ、この距離なら知ってるやつの魔力を違えたりはしない」
大臣の家だけあって庭も広く、豪邸までの距離は道から100メートルほどあるが、このくらいの距離なら魔力で判別できる範囲内だ。
「なら、部隊長と他数名で王城に戻りなさい。令状を出して家宅捜索の許可をお父様から得ること」
「は!」
「他はこの屋敷を囲むように展開して。必ず逃がすことのないように」
「それで、俺たちは?」
「え? 突入を模索するに決まってるでしょ」
「いや、立場を考えるって話はどこいったよ」
「でも、ウィルがいるのは確実でしょ? 後から怒られてもラ、ライヤと亡命できるなら、それはそれで……」
事ここに至っても顔を真っ赤にしながらそんなことを言うアン。
周りの部隊の方々からの視線が非常に痛い。
「今のところウィルには何もされていないのよね?」
「まぁ、拘束はされてるみたいだがな」
「何かありそうならライヤの判断で突入していいわ」
「そんな許可出していいのか?」
「何よりもウィルを守らなきゃ、でしょ? 最悪ライヤは他国に逃げても重宝されるしね。それこそ帝国に行けばいいんじゃない?」
「まぁ、最悪な」
あの皇子の下で働くのはきつそうだ。
「!」
「なに!?」
「ウィルの部屋に近づいてるやつがいる!」
「! 行くわよ!」
「王女様!?」
精鋭部隊の制止を振り切ってライヤとアンはウィルがいる部屋の窓へ突撃した。
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