上 下
46 / 328
教師1年目

小さな勇気

しおりを挟む
「先生、助けてください!」

二日後。
今日も今日とて放課後にウィルたちはF級(クラス)に話をしに行ったのだが、ティムが慌てた様子で戻ってきた。
いずれなにか起こるとは思ってたけど。
何だ?

「ウィル様が攫われてしまった!」
「はぁ!?」

想像の8倍くらい重大なことになってないか!?

「エウレアは?」
「ウィル様を追っています! 僕は警備隊の方に連絡しに行かなくては……」
「わかった。その後はどうするんだ?」
「僕もウィル様を……」
「ダメだ。お前が来ても足手まといにしかならない。それより、他の王族の警護の人たちに話を通すべきだ。ウィル個人ではなく、王族を狙ったものである可能性がある」

「シャロン、すまないが……」
「……先生、ウィルちゃんを……」
「あぁ、出来る限りのことはする」

「ティム! Fクラスの教室から攫われたのか!?」
「は、はい!」
「よし!」

学校初日に授業に遅刻しかけた時と同等の風魔法を用いてFクラスの教室に向かう。

「失礼!」

教室内は騒然としていた。

「あ、あぁ……」

気の弱そうな男性の先生が犯行現場と思われる散らかっている場所にへたり込んでいる。

「何があったんですか!」
「も、もう僕は終わりだ……。目の前で王女を……」

ライヤのどこかでブチっとキレる音がした。

ガッ!

「自分の心配よりも先に攫われたウィルの心配だろ! 腐ってんのかお前は!」

殴られても正気に戻らない先生を放り投げ、現場の痕跡を探る。
しかし、ライヤに捜査の心得などなく、自分よりも詳しいであろう王国軍のために現場を保存しなければならない。
パッと見ではわかることなんてない。

「誰か! どんな奴らがウィルを攫ったのか見ている奴はいないか!」

生徒たちに呼びかけるが、皆怯え切っていて誰も口を開かない。

「くそっ!」

そう言い残してライヤは教室をあとにした。




「ここにライヤが来なかった!?」
「アン王女!」

ライヤが教室をあとにした十数分後。
顔色を変えたアンがFクラスに飛び込んできた。
驚きから立ち直りつつあったクラスの生徒たちはアン王女の登場に声を上げる。

「ここに! ライヤが! 来なかったかしら!」

偶々近くにいた女生徒をガクガクと揺らしながら聞くが、あまりの勢いに答えることが出来ない。

「そういえば! このクラスの先生は!?」

サッと周りを見渡したアンはライヤに殴りつけられ床に転がったままぶつぶつと独り言を言っている先生を見つけ、ため息をつく。
そして、女生徒に向き直る。

「お願い。あなただけが頼りなの。ライヤが来たかどうかだけでもいいから……!」

あまりの必死さに女生徒は詰まりながらも言葉を繋ぐ。

「ら、ライヤ先生は先ほど、来られました。現場だけ見て、焦った様子で出ていかれましたけど……」
「そう、ありがとう」

アンはそれだけ言って踵を返す。

「アン王女!」
「なにかしら」
「あの、ライヤ先生をどうして気にかけるのですか? 先生も何も情報を得ていませんし、ウィル王女に追い付くなんてことは……」
「あるから焦ってるのよ」




「形跡から見て、素人の犯行じゃない。そもそも、学園に侵入することすら難しいはずだ。なら、犯人たちはどこから入った……?」

学園の主な門以外の場所はそれこそ管理職にある名だたる先生たちの魔法で封じられているはずだ。
それも一人の離反で大事にならないように各箇所に複数人の魔法が施されている。
その人選はできるだけ関わりの無いようになっているし、誰と担当が重なっているかは学園長しか知らないはずだ。

「となると、門だけど」

今は帰宅時間帯である。
生徒たちが通るような一般的な門はどうしても人目があり、ウィルを攫うような輩が通るには不適切だ。
なら、社員用か。

すぐに風魔法を身に纏い、教師用に用意されている門へ向かう。
学園の地理関係的に教師用の門までは3キロほどあるが、本気で向かうのならば数十秒でつく。

「やっぱりか……」

案の定、警備員のおじちゃんが倒れていた。
幸運にも命は奪われていないようだが、起きたところで証言は難しいだろう。
だが学園の門の警備を受け持つおじちゃんも半端な実力者ではない。
そのおじちゃんがベルも押せないまま倒されているというのは相手の実力の高さが伺える。

しかし、少なくとも人質であるウィルを抱えている以上逃げ足はそれほど早くはないはずだ。
そのまま上空に上がり、周りを見渡す。

学園の出口は全て大きな道に面しているが、見晴らしがいいのは今回に限ってはプラスだ。
少なくとも通行人にはおかしな動きをしている人達はいない。
それもそうか。
そのままのウィルを連れていたらその白髪から王族を連れていると多少なりとも騒ぎになるはずだし、袋のようなものを担いでいる人は人目を引く。
基本的に教師は貴族しかいないため貴族街に面しているからだ。
となると、この道を通っていてもおかしくない者たちが犯人である可能性が高い、か。

きな臭いことになってきやがった。




「急ぎなさい! またライヤに手柄をとられるわよ!」
「「はい!」」

Fクラスの教室では生徒が追い出され、アン主導のもと現場検証が行われていた。
ライヤは決して認めないが、他の人間はわかっている。
平たく言えば、ライヤは巻き込まれ体質なのだ。
普通の人間なら一生に一度起これば珍しいだろうということをかなりの頻度で経験している。
その度に他人に相談することなく一人でどうにかしようとするのだ。
その中には王国としては見逃せないものも多く、王国軍が出張ることもしばしばなのだが、ある程度ライヤが勝手に進んでしまっており面子を潰されているのだ。
結果的にライヤ本人に応援を待つという頭があるのでどうにか決着には間に合っているのだが、捜査がライヤの後を通っているだけなのである。

「私も一刻も早く行きたいんだから!」
「アン王女!」
「なに!」
「この少女が話があると……」

それは先ほどアンが肩を揺さぶった女の子であった。

「当時の様子をお話しできればと……」
「教えて! どんな些細なことでもいいから!」

ライヤに追い付く光明が見えた瞬間であった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...