上 下
38 / 328
教師1年目

戦争Ⅶ

しおりを挟む
「流石ですね、殿下! どうやったかはわかりませんが、あのようなことを立案されていたとは!」
「え、えぇ……」
「明日からも同じようにするのですかな!?」
「いえ、明日からは通常通りで構いません。今日のことを警戒して数日は足が鈍るはずですから」
「なんと! そこまで計算づくであったとは! 学園創立以来の天才だというお話しは大げさではなかったようだ!」

司令官の立場にあるおっさん共に囲まれながらアンは翌日以降の戦争についての話し合いをしていた。
どう考えても自分の力ではない事柄に関して名声を得ているが、これもライヤから指示されたことなので仕方がない。
曰く、求心力がマイナスであるBクラスの学生ごときの作戦だと発表して少しは態度が改善されるか、なんならよりマイナスになるより元から慕われている王女が戦争においても有能であったと知らしめる方が圧倒的にやりやすくなるというものだった。

理解はできる。
しかし、納得はいっていない。
他の人の手柄を自分のものにするというのはアンが最も嫌う貴族の悪いところであるからだ。

「失礼します。明日の戦闘開始時の布陣について将軍からお話があると……」
「あら、そうですか。では、私はここで失礼しますね」

伝令が来たことに内心ほっとしながら天幕を出る。
司令官と将軍は別物であり、将軍は司令官によって登用された戦争のエキスパートのことを指す。
司令官は自軍の奥深くで何もしないのに対し、将軍は前線で指示を出す役目がある。
将軍が活躍すれば本人の名も売れるし、それを登用した司令官の名も売れる。
Win-Winの関係なのである。

「お、王女様じゃねぇか。何か用か?」
「あら? 将軍からお話があると聞いて伺ったのですけど……」
「ん? あぁ、そうか! あれだ! 王女様んとこの若造から言われてな。『そろそろ意味のないおべっかが飛び交っている頃だろうから王女を呼びに行って解放してあげてくれ』ってよ! あいつはいいな! 俺の部下にくれないか!」
「……ダメです。ライヤは私のですから」

ライヤが気を遣ってくれたという事実に嬉しくなる自分を感じながら、言葉を続ける。

「それで、当の本人はどちらに?」
「あ? 聞いてないのか? なんか明日の準備があるとか言ってどっかに行ったけどな」

聞いてないわよっ!




「それで、明日は私たちは何を?」
「……熱心なのはいいんですけど、大丈夫ですか? 今日も決して楽な仕事ではなかったと思うんですけど」

ライヤのもとに昨晩のメンバーが集まっていた。

「戦争中に楽な仕事なんてないですよ。むしろ、前線に出ない分、こちらの方が安全かもしれません」
「それは確かに。失礼しました」

確かに戦争中に熱心も何もあるわけがない。
あまりにも配慮に欠けた言葉だったな。
気を付けよう。

「明日は、アン……、いや王女様の火力を自軍と相手軍に印象付ける必要があると思うんです」
「ほう」
「大将はアン王女がここに来たことで変わりました。大将は強くなければならない、というわけではありませんが強いに越したことはないと思います。現に、現国王はその強さでカリスマ性を身に着けているはずです」

式典などでの王の様子を見るに、あまり話すのが得意なわけではなさそうだ。
ということは、その人柄で国王として君臨しているわけではない。
そして国王には隣国との戦争で大きな戦功がある。
なら、あの王の娘であるアンにも戦功は多少なりともあった方がいい。

「明日は今日のような正体不明の攻撃を警戒して相手軍の歩みが遅くなることが予想されます。よって、そこで山頂を確保し、アン……王女から打ち下ろしの火魔法を撃ってもらいます。火魔法である理由は」
「私たちが支援しやすいから」
「その通りです」

やはり、頭の回転が早い。

「多少の魔力制御であればばれにくいですし、程度が大きくても各個人の影響が小さければそれはより一層顕著です。よって、明日の火魔法の打ち下ろしの際に風魔法での支援を提案したいと思います」
「「了解!」」

既にライヤの話を聞く者たちの中に疑問はなかった。
なぜなら、自分たちの目の前にいる人物がどういう人物なのか、その日の戦闘でわかっていたからだ。
そして無能な指揮官のようにただあれをやれこれをやれと言うのではなく、やることとそれによってもたらされるであろう効果についても説明がなされるため、自信を持ってことに当たりやすい。
彼らは、ライヤのことを上司だと認めていた。

「さて、これをアンにも説明して……」




「正座って言ったよね?」
「はい……」
「いつの間に抜け出してたのかな?」
「いや、あまりにも帰ってこなかったから。ちゃんと助けも送ったし……」
「それはありがとう!」

いかに慣れてると言ってもぶっ続け2時間の正座は耐えられなかった。
痺れた足をフィオナにツンツンされて5分ほど悶え苦しむくらいには我慢したのだ。

「それで、今度は何企んでるの?」
「企むなんてそんな失礼な……」
「戯言はいいから早く言いなさい」
「はい……」

普段は甘々なアンもいざとなればしっかりとライヤの手綱を握れるのであった。
基本的に自分中心な生き方をしているライヤにとっては両親以外に唯一無二の存在と言えるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

公爵夫人のやけごはん〜旦那様が帰ってこない夜の秘密のお茶会〜

白琴音彩
ファンタジー
初夜をすっぽかされ続けている公爵夫人ヴィヴィアーナ。今日もベットにひとりの彼女は、仲間を集めて厨房へ向かう。 公爵夫人が公爵邸の使用人たちとおいしく夜食を食べているだけのほのぼのコメディです。 *1話完結型。 *リアルタイム投稿 *主人公かなり大雑把なので気になる人はUターン推奨です。 *食べ盛りの女子高校生が夜中にこっそりつくる夜食レベル

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...