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教師1年目

戦争Ⅳ

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「さて、これからあなたたちは戦場に向かうわけですが……」

出立の日。
学園長が見送りの挨拶をするのを戦場に向かう面々が聞いている。
そしてその周りには各学年の一般生徒たち。
この時だけは学年の垣根などなく、ただ戦場に向かう生徒たちへ敬意を表していた。
ただでさえ、戦争に関わる人たちへの畏敬の念は当然だが、ここにいるのは自分たちに身近な学園の中で選ばれた猛者たちである。

「……」

俺への「なんでBクラスがそこに?」っていう目は凄いあるけど。

「では、これから諸君にはこれから各地に散ってもらい、そこで部隊に合流してもらいます。基本的に上官の命令は絶対ですが、明らかに間違っていると判断した場合、反抗し、逃げてきても構いません。あなたたちにはその権利があります」

学園長としては、むしろそうなって欲しいとまで思っているのではないだろうか。
少なくとも生きて帰ってこれるのだから。
しかし、学園長のそんな意図を知らない生徒は煽りを含めた激励だと捉えるだろう。
果たして、ここにいる40人近くのうち何人が無事に戻ってこれるだろうか。

「ほら、ライヤ! 行くわよ!」

アンの声で我に返る。
どうやら壮行会は終わり、各地に向けて出発のようだ。

「ライヤ、騎乗苦手だったわよね」
「まぁ、何とかなるだろ」

一応授業で乗ってはいるが、数回で慣れるようなものでもない。
周りは貴族なので家で経験があるんだろうが、こちとら商家から学園だぞ。
軍に入れば訓練もされるだろうが、生徒ごときに出来るスキルは限られている。

「なら、私と一緒に乗りなさい」

自分の乗った馬車の入り口を開けるアン。

「いや、それはまずいって……」

ここにいるのがアンとライヤ。
そしてフィオナ達生徒だけならばぎりぎりどうかというところだが、周りには一緒の戦地に向かう軍の人たちや志願兵(?)のような人たちもいる。
そのような衆人環視の中で王女の乗る馬車にライヤが乗るのはリスキーだろう。

「お願い」
「……わかった」

しかし、いつになく真剣なアンの声色にライヤは頷く。
横で聞いていたフィオナも「アンがお願いした」事実がとれたので口を出すような真似はしない。

ライヤは危惧していたが、アン王女の周りにいる兵などよほどの手練れで、王族の意志に背くようなことはしない一級の兵のみである。
もちろん、ライヤが咎められることはなかった。




「なんだよ。絶対なんか変な目で見られたってこれ……」

バッ!

「うおっ!」

馬車の扉を閉めると同時に腰のあたりに抱き着いてきた(しがみついてきた?)アンにライヤはバランスを乱す。

ガタン。

そしてそのまま発車した馬車の慣性でアンを腰に引っ付けたまま席に座ることとなった。

「おい、ほんとにどうしたんだよ……」

ガタゴトと揺られながらアンが離れるのを待っていたライヤは2分ほどして声を上げる。
さすがのアンでも長くないか?

「怖いのよ……」
「ま、そりゃそうだろうな」

床に膝をつき、座っている俺の腰に顔をうずめたままのアンの頭を撫でる。
こんな状況誰かに見られれば即死刑まであるが、馬車の窓にはカーテンがかかってるし大丈夫だろう。

「こっちの大将首は自然にお前になるだろうからな。劣勢なとこに行くってのはかなり……」
「そうじゃないわよ!」

顔を上げたアンにライヤはギョッとする。
もう3年間ほぼ毎日顔を合わせている間柄ではあるが、アンの涙を見たのは初めてだったのだ。
それに、アンの言葉の意味もわからない。

「そうじゃないってなんだよ」
「私が脅かされるってことは、ライヤが戦ってるってことじゃない! 万が一、目の前でライヤが……」

そこまで言ったアンは続きの言葉を言えなくなる。
言ってしまえば、それが現実になってしまうような気がしたのだ。

「いやー、俺は戦えるかどうかも怪しいと思うけどな」
「……なんでよ。ライヤは強いじゃない」

あくまで決闘ではな。
ぬくぬくと日本で育ってたんだから戦争なんて過去の事象としてしか知らない。
いざ戦場に出て戦えるかと言われれば、まず無理だろうと答える他ない。
ってか戦時中の日本でどれだけ鍛えられてても戦地に赴いて戦えるかどうかは別じゃね?
いざとなったら足が竦むだろ。

「まぁ、俺もそこまで無茶するつもりはないって。普通に敵が来たらアン連れて逃げるから」

大将の目前まで敵が迫っている状況なんざ考えたくもないけど。
そんなことになる前に逃げるべきだからな、どう考えても。
ただ、実際にはそうは問屋が卸さないんだろうな




出発から丸1週間が経った。
ここからあと5日ほどかけて目的地へと到着する予定だ。
国の端に馬で行くんだからこのくらいは妥当なのだが、もう少しどうにかならないのかと思ってしまう。
帰ったら簡単な蒸気機関試してみるか……?
あまりの長旅にライヤは辟易としていた。
その大半は食事が粗末なことによるものだったが。
いくら王女のお付きとはいえ、貴重な食料が優遇されるわけではない。
むしろ、前線で働く兵に回せとライヤは固辞したほどだ。
しかし、断ったからと言ってお腹がすかないわけでもないし、味に満足するわけでもない。日に日にアンの食事へのまなざしは鋭くなる一方であった。

「ライヤ、そこまで見られると食べづらいのだけど……」
「気にするな」
「気にしないようにして尚気になるから言ってるのよ……」
「精神修行だ」
「どちらにとっても、ね」

言い得て妙である。

「お邪魔しても?」
「あら、フィオナさん。もちろんです」
「今のところ順調に来ています。予定通りの日程で到着できそうです」
「そう、良かったわ」

「それで、ライヤ君は何しているの?」
「精神修行だ」
「?」

「ライヤ、君……?」

引っかかる言葉遣い。

「フィオナさん、ライヤと仲良くなりました?」
「あら? いえいえ、匂いを嗅ぎ合った程度ですよ」
「どんな仲よ!?」

ひどい誤解が生まれている。
ん?

「嗅ぎ合った?」
「いい匂いでしたよ?」

形の良い鼻を指して微笑むフィオナ。
相手を嗅いでいる時、お前もまた相手から嗅がれているのだ……!
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