27 / 328
教師1年目
夫婦漫才
しおりを挟む
「えっと、街を案内してもらおうかと思いまして」
「は?」
なんだって?
「いえ、ですから……」
「いや、聞こえてはいるんだけど」
質問があるとかいう話じゃないのか?
「こう見えて私、大人しいんですよ」
「うん?」
何の話だ?
「お姉さまと違って私は勝手に出歩いてたりしてなかったんですよ。年の近い護衛もいることですし」
「それはアンが悪いまであると思うけどな」
見ると、また顔をそむけるアン。
こいつは俺でさえお転婆だと聞いたことがあるくらいには噂になってたからな。
年の近い護衛がおらず、年上をまくという行動しかとってきてない。
「それで、国を見て回ったことがないのですよ。私が一番下の子って言うのもあるのでしょうが……」
特にそういった話は聞かないが、やっぱあの王様でも末っ子には甘いとかあんのかな?
「で、見学に行きたいってことか?」
「そうです。私は別に、デートでも構いませんよ?」
「俺が構うわ。王女とデートとか誰に殺されてもおかしくない。……!?」
背後で膨れ上がる怒気に神速で振り返るライヤだが、そこには普段通りのアンがいるだけだ。
しかし、対面して話しているウィルには見えていた。
デートという言葉に反応してウィルを敵視する姉と、その後のライヤの言葉により今までの2人のお出かけがデートとしてみなされていなかったことが発覚したことによる激情が。
「お姉さまとのお出かけは何なのです?」
「あー、それな。今俺も考えたけど……」
ポリポリと頭をかくライヤ。
「まぁ、ギリギリデートかなと」
パアァァァ!
煌びやかな光が拡がる勢いの笑顔をその本人の後ろで咲かせるアン。
「長い付き合いだし、それに関する嫌がらせとかはもう散々受けてきてるからな。今さら変わんないし。それくらいは背負える範囲だ」
少々照れたように言って背後のアンを腰砕けにさせていたが、途中の一言でアンは現実に戻ってこざるを得なくなった。
「ちょっと待って、ライヤ」
「ん?」
「嫌がらせ、受けてたの?」
「いや、お前の前で絡まれたことも一度や二度じゃなかったと思うんだが」
見解の相違である。
「え、どこよ」
「ほら、例えば4年生くらいか? お前が俺と帰ってる時に絡んできた貴族がいただろ」
必死に記憶をたどるアン。
「そ、そうだったかしら?」
「あの時はお前があいつらを相手にしてお話ししている間に残りの奴から魔法から物理まで色々攻撃されてたんだぞ? 全部封殺してたからお前は気付かなかったのかもしれんが」
「な、なにそれ! 私に言いなさいよ! そしたら……」
「そしたら? やめさせたのにって?」
思ったよりも強いライヤの言葉に詰まるアン。
「いいんだよ。アンと関われば貴族たちから不興を買うことまで織り込み済みだ。だから、決闘の報酬をそれに使ったんだろうが」
「そ、そうだったのね……」
自分のせいでライヤが危険な目に合っていたというのを聞いて落ち込むアンの頭を、ライヤは撫でる。
10センチも差はないので、撫でにくいのだが。
「そこまで含めて、俺はお前と関わってるんだ。そいつらに憤りを向けるより、もっと俺に感謝してくれてもいいぞ?」
「そういうことを言わなければもっと感謝するかもしれないのに!」
「いーや、言うね。誰も言ってくれないから俺は自分で自分を褒めてやることにしてるんだ」
不満げに頬を膨らませながらも撫でられるのは心地よさそうなアン。
普段ならまぁ、良かったのだろうが。
本日はここにもう1人。
「本当に仲がよろしいのですね」
「ちょっ! ライヤ! 妹がいるのよ!」
「今更だろ……。それより、おい。俺の部屋のお菓子を勝手に食べるんじゃない」
「いいじゃない、減るもんじゃなし」
「物理的にしっかり減ってるんだよ!」
そんな夫婦漫才(?)を聞きつつ、ウィルは気になったことを聞く。
「先生、そういえば決闘の報酬については言ってませんでしたよね。結局、何だったのですか?」
「え? あぁ、大したことはない。王家からうちの実家を出来るだけひいきにしてもらえるようにお願いしただけだ」
「先生の実家と言うと……」
「まぁ、商人だな」
なるほどとウィルは納得する。
さっきの話のように貴族から嫌がらせを受けていたのならば、真っ先に影響が行くのは貴族にとって簡単に影響を及ぼせる金銭関係だろう。
そして、その妨害を奇しくもライヤの実家はダイレクトに受けてしまうのだ。
しかし、ライヤが王家に口利きしたことによって手が出せなくなった。
王家の取引先を悪く言う訳にもいかないし、妨害はそのまま王家の妨害にもつながりかねない。
強固な後ろ盾を手に入れたのである。
「そのお話をご両親には?」
「するわけないだろ。余計な心配をかけたくもないしな」
「……先生は、凄いですね」
「何言ってるんだ。そこまで考えが及んでるウィルの方が末恐ろしいだろ」
ライヤとしては、精神的に30年近く生きていることによる考えであったし、高校時代に王朝とかに興味を持って学んでいた時の知見を活かしているだけだった。
しかし、目の前の少女はゼロから考えて今の説明だけでたどり着いたのだ。
とてもじゃないが、9歳がたどり着けるものではない。
「まぁ、そこはいいですよ。それで、私の見聞を広めるのに付き合って頂けますよね?」
「よし、いいだろう。もう今更だし」
先日シャロンを連れて街を歩いたのは記憶に新しい。
「それでどこに行きたいんだ?」
「全部です!」
いつもの落ち着いた空気とは違い、テンションのあがっている様子のウィルに、ライヤは頬を引きつらせるのであった。
「は?」
なんだって?
「いえ、ですから……」
「いや、聞こえてはいるんだけど」
質問があるとかいう話じゃないのか?
「こう見えて私、大人しいんですよ」
「うん?」
何の話だ?
「お姉さまと違って私は勝手に出歩いてたりしてなかったんですよ。年の近い護衛もいることですし」
「それはアンが悪いまであると思うけどな」
見ると、また顔をそむけるアン。
こいつは俺でさえお転婆だと聞いたことがあるくらいには噂になってたからな。
年の近い護衛がおらず、年上をまくという行動しかとってきてない。
「それで、国を見て回ったことがないのですよ。私が一番下の子って言うのもあるのでしょうが……」
特にそういった話は聞かないが、やっぱあの王様でも末っ子には甘いとかあんのかな?
「で、見学に行きたいってことか?」
「そうです。私は別に、デートでも構いませんよ?」
「俺が構うわ。王女とデートとか誰に殺されてもおかしくない。……!?」
背後で膨れ上がる怒気に神速で振り返るライヤだが、そこには普段通りのアンがいるだけだ。
しかし、対面して話しているウィルには見えていた。
デートという言葉に反応してウィルを敵視する姉と、その後のライヤの言葉により今までの2人のお出かけがデートとしてみなされていなかったことが発覚したことによる激情が。
「お姉さまとのお出かけは何なのです?」
「あー、それな。今俺も考えたけど……」
ポリポリと頭をかくライヤ。
「まぁ、ギリギリデートかなと」
パアァァァ!
煌びやかな光が拡がる勢いの笑顔をその本人の後ろで咲かせるアン。
「長い付き合いだし、それに関する嫌がらせとかはもう散々受けてきてるからな。今さら変わんないし。それくらいは背負える範囲だ」
少々照れたように言って背後のアンを腰砕けにさせていたが、途中の一言でアンは現実に戻ってこざるを得なくなった。
「ちょっと待って、ライヤ」
「ん?」
「嫌がらせ、受けてたの?」
「いや、お前の前で絡まれたことも一度や二度じゃなかったと思うんだが」
見解の相違である。
「え、どこよ」
「ほら、例えば4年生くらいか? お前が俺と帰ってる時に絡んできた貴族がいただろ」
必死に記憶をたどるアン。
「そ、そうだったかしら?」
「あの時はお前があいつらを相手にしてお話ししている間に残りの奴から魔法から物理まで色々攻撃されてたんだぞ? 全部封殺してたからお前は気付かなかったのかもしれんが」
「な、なにそれ! 私に言いなさいよ! そしたら……」
「そしたら? やめさせたのにって?」
思ったよりも強いライヤの言葉に詰まるアン。
「いいんだよ。アンと関われば貴族たちから不興を買うことまで織り込み済みだ。だから、決闘の報酬をそれに使ったんだろうが」
「そ、そうだったのね……」
自分のせいでライヤが危険な目に合っていたというのを聞いて落ち込むアンの頭を、ライヤは撫でる。
10センチも差はないので、撫でにくいのだが。
「そこまで含めて、俺はお前と関わってるんだ。そいつらに憤りを向けるより、もっと俺に感謝してくれてもいいぞ?」
「そういうことを言わなければもっと感謝するかもしれないのに!」
「いーや、言うね。誰も言ってくれないから俺は自分で自分を褒めてやることにしてるんだ」
不満げに頬を膨らませながらも撫でられるのは心地よさそうなアン。
普段ならまぁ、良かったのだろうが。
本日はここにもう1人。
「本当に仲がよろしいのですね」
「ちょっ! ライヤ! 妹がいるのよ!」
「今更だろ……。それより、おい。俺の部屋のお菓子を勝手に食べるんじゃない」
「いいじゃない、減るもんじゃなし」
「物理的にしっかり減ってるんだよ!」
そんな夫婦漫才(?)を聞きつつ、ウィルは気になったことを聞く。
「先生、そういえば決闘の報酬については言ってませんでしたよね。結局、何だったのですか?」
「え? あぁ、大したことはない。王家からうちの実家を出来るだけひいきにしてもらえるようにお願いしただけだ」
「先生の実家と言うと……」
「まぁ、商人だな」
なるほどとウィルは納得する。
さっきの話のように貴族から嫌がらせを受けていたのならば、真っ先に影響が行くのは貴族にとって簡単に影響を及ぼせる金銭関係だろう。
そして、その妨害を奇しくもライヤの実家はダイレクトに受けてしまうのだ。
しかし、ライヤが王家に口利きしたことによって手が出せなくなった。
王家の取引先を悪く言う訳にもいかないし、妨害はそのまま王家の妨害にもつながりかねない。
強固な後ろ盾を手に入れたのである。
「そのお話をご両親には?」
「するわけないだろ。余計な心配をかけたくもないしな」
「……先生は、凄いですね」
「何言ってるんだ。そこまで考えが及んでるウィルの方が末恐ろしいだろ」
ライヤとしては、精神的に30年近く生きていることによる考えであったし、高校時代に王朝とかに興味を持って学んでいた時の知見を活かしているだけだった。
しかし、目の前の少女はゼロから考えて今の説明だけでたどり着いたのだ。
とてもじゃないが、9歳がたどり着けるものではない。
「まぁ、そこはいいですよ。それで、私の見聞を広めるのに付き合って頂けますよね?」
「よし、いいだろう。もう今更だし」
先日シャロンを連れて街を歩いたのは記憶に新しい。
「それでどこに行きたいんだ?」
「全部です!」
いつもの落ち着いた空気とは違い、テンションのあがっている様子のウィルに、ライヤは頬を引きつらせるのであった。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる