上 下
26 / 328
教師1年目

情報網

しおりを挟む
「「お久ぶりです、フィオナ先輩!」」
「うんうん、苦しゅうないよー」
「「!!??」」

 フィオナの現役時代からのギャップに驚きを禁じ得ない後輩一同。

「先輩は今までどこに行方をくらませていたんです? クラブに顔を出して欲しいと家の方に連絡を差し上げても知らないとの一点張りで……」
「うーん、敢えて言うなら花嫁修業かなー?」
「え、先輩ご婚約されたんですか!? お話は聞かなかったのですけど……」
「そりゃ、実家には話し通してないからねー」
「は、はぁ。では、そのお相手とは……?」

 あ、まずい。

「そこにいるよー」

 バッと一斉にこちらを向く生徒一同。

「誤解だ! そんな事実はない! 先輩が勝手に言ってるだけだ!」
「先輩からのアプローチを断るとは何様だぁー!」

 イリーナを筆頭に、先ほどの数倍の数の投げナイフがライヤを襲うのであった。




「流石にあの数はきついな……」

 ただ回避することは不可能だと判断し、氷の壁を立てるほかなかったのだ。

「流石の発動の速さだったよー」
「なんの証拠もないことを言うのはやめてくださいよ……」
「こんなに好きなのに、悲しいなぁー」

 またも生徒たちからじろりと視線を浴びる。

「とにかく、ここではナシです。いいですね? 先輩もコーチとしてきているのですし、ちゃんと生徒たちに教えてあげてください」
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど……」

 フィオナは困ったようにその端正な顔に眉を寄せる。

「どこから?」




 実は、ライヤが見学に来た時から感じていたのは、「あまりにも魔術クラブが実戦から遠ざかっている」ということであり、それをフィオナも感じたという事だった。
 魔術クラブは基本的に対人戦を目標としており、生徒同士の模擬戦も積極的に行われていたと記憶していた。
 しかし、現在は順に的に向かって魔法を撃ってみたり、体術の訓練も魔法無しでいわば柔道のようなものをしているだけである。
 教員が足りず、何かあった時に危ないからされていないだけかと思っていたのだが、たった2年前に在籍していたフィオナでさえ違和感を感じるというのはよほどの方針変更がないとあり得ないだろう。

 だが、一番の問題は在学生が疑問を感じていない様子だということが言えた。
 1,2年生に関しては、魔術クラブがどういったクラブだったのか知らないだろうからおかしくはない。
 しかし、上級生たちは模擬戦を頻繁に行っていたことを知っているし、何なら自分たちが行っていたはずなのだ。

「なんか、おかしいですよね?」
「そうね」

 だが、違和感程度なのでどうすることもできない。




「先生は魔術クラブの顧問になられたそうですね?」

 翌日、クラスに行くとニコニコとウィルがそんなことを言ってきた。

「耳が早いな」
「先生のことに関しては先生より知っているつもりですので」
「ゾッとしないな」

 その気になれば本当に俺のパーソナルデータから何から全て知ることが出来るだろうから、それが怖いところではある。
 だが、ウィルに仕えている人達も命令されるままに一般国民の情報をほいほい流す人たちではないと信じたい。

「それで、なぜ顧問に?」
「なぜも何も、学園長から言われたからだよ」
「えっ!」

 本気で驚いた顔をするウィル。

「先生は在学中先生のいう事を聞かなかったことで有名では……?」
「誤解を生むような言い方をするな! 俺は何の根拠もない誹謗中傷をしてくる奴から学ぶことはないと思っただけだ」

 なんだその俺に対する認識は。
 ウィルはチラリとライヤの顔を伺う。

「先生は、私が魔術クラブに入ったらちゃんと指導してくれますか?」
「ん? あぁ、別に魔術クラブに入る必要はないんじゃないのか?」
「え?」

 キョトンとするウィル。

「いや、俺はお前の担任だし、アンにもクラブ関係なく教えてたりしたしな。担任ともなればクラブなんて関係なく、来てくれれば教えてあげるよ」

 なまじ全員出来がいい分、質問とかが学問に関してなくてちょっと寂しかったんだよな。

「休日に訪ねてもいいのですか?」
「あぁ、そりゃまぁ先に連絡とかあった方が好ましいけど、常識的な範囲ならな」

 既にシャロンの来訪を許している手前、ダメとは言えなかったし言う気もなかった。
 人によって学びの効率が違うというのがライヤの持論だが、ウィルは自らの疑問を順に解決していくことによって成長するタイプだと見ていた。
 そして、その解決には他人から指導されることが最も効率の良い方法の一つだといえる。

「先生は優しいですね」

 他の生徒に構うために移動していくライヤの後ろ姿を見ながら呟くのであった。




「来てしまいました♪」

 その週の休日のことである。
 惰眠をむさぼっていたライヤはいつぞやのようにフィオナに脅されながら起こされ、ドアを開けたところでこれまたいつぞやのように小さな来訪者に対面したのであった。

 ただ、以前とは違う点が一つ。

「……アンまでついてきたのか?」
「な、なによ。悪い?」

 その姉が一緒に来ていたことである。

「姉が暇なら姉に習えばいいだろうが」
「いえ、お姉さまも脱走中ですので」

 それを聞いて視線を向けるとバッと顔をそらすアン。

「……公務サボってんのか」
「し、仕方ないじゃない。折角口実があるのに……」
「妹を送るのは公務をサボる口実になるのか……?」
「そうじゃないわよ!」
「は?」

 理解が及ばないライヤにアンとウィルは顔を見合わせる。

「お姉さまも苦労されているようですね」
「そうなのよ。全く、私がこんなに……」
「いや、苦労してないだろ。こうしてサボりにきてるんだから」
「「そういうことじゃない!」です」
「??」

 謎は深まるばかりであるが、自分に明かす様子もないので放っておく。

「それで、なんで今日は来たんだ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

公爵夫人のやけごはん〜旦那様が帰ってこない夜の秘密のお茶会〜

白琴音彩
ファンタジー
初夜をすっぽかされ続けている公爵夫人ヴィヴィアーナ。今日もベットにひとりの彼女は、仲間を集めて厨房へ向かう。 公爵夫人が公爵邸の使用人たちとおいしく夜食を食べているだけのほのぼのコメディです。 *1話完結型。 *リアルタイム投稿 *主人公かなり大雑把なので気になる人はUターン推奨です。 *食べ盛りの女子高校生が夜中にこっそりつくる夜食レベル

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...