一妻多夫の奥様は悩み多し

たまりん

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一章

2話

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 縁談の話を告げられた日、母がそっと美琴に言った。

「お兄様達には秘密にしておくんですよ。特に月良兄様は美琴さんのことになると手がつけられないんですから。」


 美琴には同じ父親の子である兄がひとり、父親違いの兄が二人、弟が一人いる。長兄、三兄は正夫である正義の子供で次兄と美琴は実の兄弟である。第3夫道雄の子供が弟である。兄弟仲はとても良好で異父兄達はそれ程頻繁に会うわけではないが会った時には歓迎して接してくれる。弟は、たまに別邸に遊びに来てお行儀よく甘えてくれる。美琴にとって異父兄弟といえど今のところたった1人の弟で非常に可愛いがっていた。

同父兄の 月良つきよしは父親似で美琴のことを心から大切に思っておりいつも守ってくれるし困った時は何でも打ち明けられる心強い味方だ。少々過保護なところがあって玉に瑕だが。


1番先に報告したい人だが両親から兄に告げられるまで待っていた方が良さそうだ。

 

 3日後に見合いということで随分急な話だったが、それは生来美琴が心配しやすい性格のため、もう少し前にまとまっていた話を直前までは伝えない両親の配慮だった。
実際美琴は猶予が3日しかないと思うと少し開き直るような形になって気持ちが楽になったのだった。
それから当日まで美琴は母と支度や衣装選びをした。長兄もまだ結婚していないため、美琴の母にとっても子供の初めての縁談、更には自分と同じ産胎の子の縁談ということで母は気合いが入っているようだった。
特注は時間的に無理なので今までに仕立ててきたセミフォーマルな服から選んだ。母は相変わらず可愛らしいカントリー風の一式を勧めてきたが、美琴は自分が好きなだけで似合わないと思い、都会風でスマートなものを選んだ。






ー 初顔合わせの日 ー-

父に言わせると形ばかりのお見合い、ないし初顔合わせは某有名プラザホテルのラウンジで行われた。

(よかった、あまり高級な料亭とかじゃなくて…足も楽だし。)

根が臆病な美琴は緊張しながらも、ホテルの雰囲気に安堵した。

ラウンジの入り口で相手方と仲人が美琴達を出迎えてくれた。

 初めて実際に見る間宮清鷹、美琴にとって初めての夫になるその人の姿は圧巻だった。美琴より20cm以上は背丈が高く胸板も厚い筋肉質でがっしりとした体型。とても姿勢がいい。母の言っていたように脚はスラリと長い。直線型の眉の下にあるその人の名前に入っている通り鷹のように凛々しい漆黒の瞳は、真剣な眼差しで美琴を捉えていた。微笑みを浮かべることもなく口元は静かに結ばれている。


「本日はよろしくお願いいたします。私仲人を務めさせて頂きます小松川健と妻の綾太でございます。ーー 美琴さんは覚えていないかな?昔おじちゃんとお父様と一緒に船釣りに行ったんだよ。」


堅苦しい挨拶は早々に切り上げて人の良さそうな紳士が笑顔で美琴に話しかけてくれた。隣には朗らかそうな奥様らしき人が微笑んでいた。


「こちらがお相手の間宮清鷹さんでございます。」

清鷹がスッと一歩前にでて挨拶をする。

「初めまして。間宮清鷹です。本日はどうぞよろしくお願いします。」


にわかに美琴の胸が高鳴った。初めて聞いたその人の声は低く深く心臓に静かに響く感覚がした。美琴はやはり昔の時代の若き将校さんみたいだ、と思った。

「そしてご両親の智鷹さんと清さんです。」


控えていた美しい夫婦とも深々とお辞儀をし挨拶を終えた。

(清鷹さんのご両親も背が高くてピンとしててかっこいいなあ。顔はキリッとしてるし。スーツも似合ってる。僕はまるで馬子にも衣装だ。こんなひよっ子みたいななよなよした見た目でついていけるのかな…)

清鷹の両親共にとてつもない威厳を感じる。さすが上流階級の家庭である。父親は清鷹が歳をとったらこんなふうになるんだろうか、と思わせるほどそっくりな強靭な印象の風貌である。また清鷹の切長な目と強い眼差しは母親譲りに見えた。清隆の母親の清はスラリと細身で例えるなら竹を思わせるようなまっすぐな印象の産胎である。


ラウンジに入り席について、軽く自己紹介をした後、仲人がそれぞれの人柄を伝えてくれたり当たり障りのない質問を促してくれたりした。両人の経歴や良いところを褒めそやす手腕はなかなか手練たものだった。
美琴はあれだけ練習したのにほとんどの会話は小さな消え入りそうな声でしか答えられなかった。
仲人の奥さんが、微笑んで

「美琴さんはまだ14歳だしこんなに大人ばかりでは緊張してしまいますよね。」

と優しくフォローしてくれた。
美琴はちゃんとした大人にならなきゃ、と強く自分を戒める反面、子供のように甘やかしてくれる大人が好きだ。
美琴は恥ずかしくて相手の顔も碌に見れなかったが、目線を外していても清鷹の圧倒的存在感だけは感じていた。



1時間ほど家同士の自己紹介兼世間話をしてから、仲人が

「少し二人きりでお話しをされてはいかがでしょう。私たちは少しロビーに控えて…」

と両親達に促そうとした。

清鷹が無表情のまま口を開き、

「そういえばこのホテルには1階に有名なアクアリウムゾーンがありましたね。美琴さんはご興味ありますか?」

と初めて直接美琴に真っ直ぐと問いかけてきた。

「は、はい。知っています。調べたことがあって」

「まだ解散予定の時間まではだいぶありますし、ラウンジの利用者は無料で見られます。今からよければ少しだけ一緒に見にいきませんか?」

それを聞いた仲人も勧めてきた。

「それは丁度いい!多分平日の今の時間帯なら空いているから静かに話しながら見られるでしょうし。」

どうかな?という具合に首を少し傾けて美琴に確認をとる。


「は、はい!僕、前からここのアクアリウム気になっていて…」


美琴も初めてはっきりとした口調で興味があると伝えられた。
清鷹の口からそれが出るとは思っていなかった美琴の気持ちがパッと華やぎ期待が膨らんだ。
このプラザホテルが会場と知ってからというもの 、心が幼い美琴は正直お見合いなんかより話題の巨大水槽に惹かれていた。

清鷹に促され席をたち両親に行ってくるね、と視線で合図をした。2人は社交辞令で微笑みこそしていたけれど美琴の両親、特に父親の眼差しは美琴を手元から一瞬でも離すことを心配しているようだった。
仲人が場を和ごますように

「清鷹さんがいるから安心ですね。それでは早速いってらっしゃい、私たちはここでお話をして待っていますよ。」

と見送った。

 
 未婚の産胎は両親や成人した真性の兄弟が付き添わない限り、基本的に家毎に用意されたお供と一緒に外出しなくてはいけない、と建前上はそうなっている。それは単純な理由からで真性の男性が多過ぎるあまりに性犯罪のリスクが多いからだ。重罪で罰も重いが起きる時には起きる。あまり芳しくない家庭で生まれ、家が手放さないで育てていて人手を確保する余裕がない場合は国の制度で別に補ってくれる。
 とにかく産胎のひとり外出は大変なのだ。

勝手にひとり外出している未婚の産胎もいなくはないが、世間的には誉められたことではない。
 中流家庭以上は柔軟に対応できる民間のセキュリティの担当を契約している場合がほとんどだし、上流階級に至っては使用人の中で専任がいるものだ。美琴の母親には当然ついていたし未婚ではなくなった今も夫達の不在時の急用は本宅の警備員が護衛する。美琴にも専任をつけることを度々両親に提案されていたが、断ってきた。深窓で育ってきた美琴に遊ぶ友人はほぼいないに等しいし、親の庇護下にあり、一家を取り仕切っているわけでもないのでそう度々外出する用事もない。美琴自身、家で一人で作業をして過ごす方が好きだった。専任と言っても形式上で美琴が外出しない時は美琴の世話や他の業務を手伝わされるだろうしそうなると気の毒だ。

 自分で断った手前、ただでさえ忙しい両親に特に用事もないプラザホテルのアクアリウムに話題になっていて興味があるから遊びに行きたいなどとわがままを言って、それぞれ仕事がある使用人の一人割いてもらう手配をしてもらうのは忍びなかった。

今日の顔合わせも終わったら美琴に父は仕事に戻り母はそのまま帰宅して一度、弟のいる別邸へ向かわなければいけない。

 だからこの見合い中にアクアリウムを見ようと清鷹が誘ってくれたのは美琴にとって願ったり叶ったりだったのだ。

(マンタがみたかったんだ!関東ではここでしか見られないし)

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