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☆4話:この壁 なんの壁?
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「……で、おまえたち。今度はどんな謎を見つけたんだ?」
壁の謎を解明するため職員室に押し掛けた後、生徒指導室に通された4人。どことなくムスッとした表情の4人を見て、都先生は厄介なことに絡まれるのではないかと苦い表情を浮かべた。特に一番不服そうな顔をしているのは、画鋲を刺すことができなかった海巳だ。
猫足のアンティークテーブルの上に広げている図面を指しながら、海巳は眉間にしわを寄せて訴えた。
「都先生。私たち……とんでもミステリーに遭遇しちゃったかもしれないんです」
「ほう。澄川、それはどんなミステリーだ?」
「私たち、部室には2種類の壁があるってことに気付いたんです。こっちの白い壁は画鋲が刺さる壁、そしてこっちの灰色の壁は画鋲がビクともしない壁」
「ほう。それで?」
「まずはじめに、志帆が理科室と準備室を区切ってる白い壁に画鋲を刺したら刺さったんです。次に、うららが流し台のある、この白い壁に刺したときは画鋲が刺さったんです。その次に、セリナが理科室にある例のPSに画鋲を刺したら刺さったんです。だから私も、流し台の鏡がある壁に画鋲を刺してみようと思ったら……ここの壁だけ白い壁なのに画鋲が刺さらなかったんです!!! 私が非力なわけではないです。強くなりたくて毎日少し筋トレしてるので、決して非力なわけではないんですっ!!!」
「わ、わかったわかった。おまえが非力じゃないことは十分わかった。それはそうと、中々いい所に気付いたな。おまえたち、この壁の謎を解明したいか?」
ソファに深く腰を沈めていた4人は、背筋を伸ばしてコクリと頷いた。
「はいっ!! 知りたいです!!」
都先生はフッと小さく笑い、生徒指導室にある本棚の中から1冊のアルバムを手に取り、4人が見えやすい位置に置いた。
「このアルバムにはな、この才華女子高等学校の旧校舎が建つまでの経過を写した工事写真が入っているんだ」
4人がアルバムを開くと、広大な土地をショベルカーで掘っている風景、職人たちが汗を垂らしながらコンクリートを打設している風景、様々な業種の人たちが内装工事をしている様子が映っていた。
「この写真をよーく見てみろ。何か気付かないか?」
都先生が指した一枚の写真。4人は頭をくっつけながら、じっくり写真の隅々まで観察した。
「あっ!!ここってもしかして、理科準備室ですか?」
いち早く気付いた志帆に続き、3人からも驚きの声が漏れた。
「その通りだ。写真と図面をよーく見比べてみろ。図面の灰色の壁は、コンクリートで出来ていることが分かるだろう。そして白い壁は、『LGS』と呼ばれる軽量鉄骨下地に『石膏ボード』を貼った壁ということがこの写真から分かるだろう」
規則正しく配列された軽量鉄骨下地と、どっしり構えているコンクリート壁を見た4人はキラキラと目を輝かせた。
「そっか……灰色の壁はコンクリートの壁だったから、画鋲が通らなかったのか。でも、ちょっと待てよ!? 都先生、流し台に面した壁の謎がまだ解けていません。うららは画鋲が刺せて、私がなぜ刺せなかったのか。白い壁なのに、なぜ刺せなかったのでしょうか?」
「まぁそう焦るな。美園と澄川に聞きたいのだが、美園は流し台に面していない短手方向の壁、澄川は流し台に面している長手方向の壁を画鋲で刺したんじゃないか?」
4人は顔を見合わせて、ゴクリとつばを飲み込んだ。まるで金田〇少年や名探偵コ〇ンが推理がはじめようとしているかのような、都先生の鋭い眼光に4人は圧倒されたのだった。
「都先生、その通りですっ!! でも、なぜわかったんですか?」
「美園、それはな……おまえたちが可愛がっている、ガウディくんが逐一報告してくれるからだ」
《ひぇええええーーーー!!!!!ガウディくん黒幕説!?!?!?》
「……っというのは冗談でな。この写真を見れば答えが分かるだろう」
アルバムのページを数枚めくった後、都先生は一枚の写真を指した。そこには、理科準備室に流し台が設置された頃の様子が写っていた。
「この流し台に面している壁、つまり澄川が画鋲をさした面をじっくり見てみろ。この面だけベニヤが貼られてることがわかるだろう? このベニヤは石膏ボードよりも固いからな。それが原因で画鋲が刺さらなかったのだろう」
写真をよく見てみると、流し台の約30㎝上に、細長いべニヤが石膏ボードと同じ面になるように貼られていることがわかる。丁度ピンポイントでこのベニヤ部分を刺していたのか、と海巳は情けない気持ちでいっぱいになった。
「流し台の上に、タオル掛けを付ける予定だったそうだ。タオル掛けを取り付けるための下地としてベニヤを急遽貼ったらしいのだが、結果的に取り付けが中止になったらしくてな。結局、そのままの状態で仕上げても良いという指示の元、今日のような姿のまま痕跡が残っているのだ。本来ベニヤ下地はLGSと同面で仕込んだり、一枚目のボードと同面で合わせることが多いから、こういうことは滅多にないんだがな……っと。少し難しい話をしてしまったな」
納得したように深く頷き合った4人は、建築の謎には全て意味があるような気がした。そして謎を見つけることの楽しさ、解くこと、知ることの楽しさを共有したいと強く感じた。
「先生、教えてくれてありがとうございましたっ!! まだまだ難しいことはよく分からないけど、建物って表面は同じように見えても、色んな壁で作られてることを知りました」
うららはソファから立ち上がり、熱血闘魂漫画のごとく熱い眼差しを都先生に向けた。
「今日もまた一つ、大きな学びがあったな。また何か疑問に感じたら聞きに来るといい。ところでおまえたち……部室を画鋲の穴だらけにしたら、ちゃんとおまえたちの手で補修してもらうから覚えておくようにな」
都先生の言葉に、思わず体をビクッッッと震わせた4人。特に「部室に戻ったらいっぱい画鋲刺してみよー」っと思っていた海巳は、ギクリッと全身を大きく震わせたのだった。
LGS(Light Gauge Steelの略だよ)
コンクリート壁
壁の謎を解明するため職員室に押し掛けた後、生徒指導室に通された4人。どことなくムスッとした表情の4人を見て、都先生は厄介なことに絡まれるのではないかと苦い表情を浮かべた。特に一番不服そうな顔をしているのは、画鋲を刺すことができなかった海巳だ。
猫足のアンティークテーブルの上に広げている図面を指しながら、海巳は眉間にしわを寄せて訴えた。
「都先生。私たち……とんでもミステリーに遭遇しちゃったかもしれないんです」
「ほう。澄川、それはどんなミステリーだ?」
「私たち、部室には2種類の壁があるってことに気付いたんです。こっちの白い壁は画鋲が刺さる壁、そしてこっちの灰色の壁は画鋲がビクともしない壁」
「ほう。それで?」
「まずはじめに、志帆が理科室と準備室を区切ってる白い壁に画鋲を刺したら刺さったんです。次に、うららが流し台のある、この白い壁に刺したときは画鋲が刺さったんです。その次に、セリナが理科室にある例のPSに画鋲を刺したら刺さったんです。だから私も、流し台の鏡がある壁に画鋲を刺してみようと思ったら……ここの壁だけ白い壁なのに画鋲が刺さらなかったんです!!! 私が非力なわけではないです。強くなりたくて毎日少し筋トレしてるので、決して非力なわけではないんですっ!!!」
「わ、わかったわかった。おまえが非力じゃないことは十分わかった。それはそうと、中々いい所に気付いたな。おまえたち、この壁の謎を解明したいか?」
ソファに深く腰を沈めていた4人は、背筋を伸ばしてコクリと頷いた。
「はいっ!! 知りたいです!!」
都先生はフッと小さく笑い、生徒指導室にある本棚の中から1冊のアルバムを手に取り、4人が見えやすい位置に置いた。
「このアルバムにはな、この才華女子高等学校の旧校舎が建つまでの経過を写した工事写真が入っているんだ」
4人がアルバムを開くと、広大な土地をショベルカーで掘っている風景、職人たちが汗を垂らしながらコンクリートを打設している風景、様々な業種の人たちが内装工事をしている様子が映っていた。
「この写真をよーく見てみろ。何か気付かないか?」
都先生が指した一枚の写真。4人は頭をくっつけながら、じっくり写真の隅々まで観察した。
「あっ!!ここってもしかして、理科準備室ですか?」
いち早く気付いた志帆に続き、3人からも驚きの声が漏れた。
「その通りだ。写真と図面をよーく見比べてみろ。図面の灰色の壁は、コンクリートで出来ていることが分かるだろう。そして白い壁は、『LGS』と呼ばれる軽量鉄骨下地に『石膏ボード』を貼った壁ということがこの写真から分かるだろう」
規則正しく配列された軽量鉄骨下地と、どっしり構えているコンクリート壁を見た4人はキラキラと目を輝かせた。
「そっか……灰色の壁はコンクリートの壁だったから、画鋲が通らなかったのか。でも、ちょっと待てよ!? 都先生、流し台に面した壁の謎がまだ解けていません。うららは画鋲が刺せて、私がなぜ刺せなかったのか。白い壁なのに、なぜ刺せなかったのでしょうか?」
「まぁそう焦るな。美園と澄川に聞きたいのだが、美園は流し台に面していない短手方向の壁、澄川は流し台に面している長手方向の壁を画鋲で刺したんじゃないか?」
4人は顔を見合わせて、ゴクリとつばを飲み込んだ。まるで金田〇少年や名探偵コ〇ンが推理がはじめようとしているかのような、都先生の鋭い眼光に4人は圧倒されたのだった。
「都先生、その通りですっ!! でも、なぜわかったんですか?」
「美園、それはな……おまえたちが可愛がっている、ガウディくんが逐一報告してくれるからだ」
《ひぇええええーーーー!!!!!ガウディくん黒幕説!?!?!?》
「……っというのは冗談でな。この写真を見れば答えが分かるだろう」
アルバムのページを数枚めくった後、都先生は一枚の写真を指した。そこには、理科準備室に流し台が設置された頃の様子が写っていた。
「この流し台に面している壁、つまり澄川が画鋲をさした面をじっくり見てみろ。この面だけベニヤが貼られてることがわかるだろう? このベニヤは石膏ボードよりも固いからな。それが原因で画鋲が刺さらなかったのだろう」
写真をよく見てみると、流し台の約30㎝上に、細長いべニヤが石膏ボードと同じ面になるように貼られていることがわかる。丁度ピンポイントでこのベニヤ部分を刺していたのか、と海巳は情けない気持ちでいっぱいになった。
「流し台の上に、タオル掛けを付ける予定だったそうだ。タオル掛けを取り付けるための下地としてベニヤを急遽貼ったらしいのだが、結果的に取り付けが中止になったらしくてな。結局、そのままの状態で仕上げても良いという指示の元、今日のような姿のまま痕跡が残っているのだ。本来ベニヤ下地はLGSと同面で仕込んだり、一枚目のボードと同面で合わせることが多いから、こういうことは滅多にないんだがな……っと。少し難しい話をしてしまったな」
納得したように深く頷き合った4人は、建築の謎には全て意味があるような気がした。そして謎を見つけることの楽しさ、解くこと、知ることの楽しさを共有したいと強く感じた。
「先生、教えてくれてありがとうございましたっ!! まだまだ難しいことはよく分からないけど、建物って表面は同じように見えても、色んな壁で作られてることを知りました」
うららはソファから立ち上がり、熱血闘魂漫画のごとく熱い眼差しを都先生に向けた。
「今日もまた一つ、大きな学びがあったな。また何か疑問に感じたら聞きに来るといい。ところでおまえたち……部室を画鋲の穴だらけにしたら、ちゃんとおまえたちの手で補修してもらうから覚えておくようにな」
都先生の言葉に、思わず体をビクッッッと震わせた4人。特に「部室に戻ったらいっぱい画鋲刺してみよー」っと思っていた海巳は、ギクリッと全身を大きく震わせたのだった。
LGS(Light Gauge Steelの略だよ)
コンクリート壁
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